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新たな理想像を追い求める本田…“王様”のベールを脱ぎ捨てた背番号4の変化を追う

2015.11.18

カンボジア戦に途中出場した日本代表FW本田圭佑 [写真]=兼子愼一郎

 日本代表の中で今、誰よりも逆境の中にいる選手だと言っても過言ではない。所属クラブのミラン(イタリア)では、先発から外れる試合が続く。途中交代で出場したとしても、時間は10分足らず。10月初めに注目を集めたクラブやフロント、ファンに対する苦言。それ以降はイタリアで不遇をかこってしまっている。

 しかし、今回の東南アジア遠征2試合でも、結局誰より結果を出したのは本田圭佑だった。チームとして良い手応えを得られたシンガポール戦、停滞感が漂ったカンボジア戦、その両方でゴールという文句なしの結果を示したという事実は、しっかりと評価されるべきである。

 先発出場したシンガポール戦では、チーム2点目となる得点だけでなく、周囲を生かすプレーでも随所に見せ場を作った。スルーパスやクロスから味方の好機をお膳立て。さらにチームがカウンターを浴びる場面では自陣に向けて踵を返し、全力で走って敵の選手を追走する。かつての本田はトップ下に鎮座し、極端な表現をすれば“王様”のようなプレーをしていた時期もあった。ただ、今は泥臭く、無骨な一面がピッチで多く顔を出す。

 そしてその変化は、細かいプレーと言動をつぶさにチェックしていくと、さらに顕著に理解できるのである。

 カンボジア戦、後半途中にピッチに入った本田が最初に見せた動きが印象的だった。

 中盤で柏木陽介浦和レッズ)がボールを持つと、すぐに相手最終ライン裏のスペースに走り込み、パスを呼び込んだ。決して足が速い選手ではない本田が、オフ・ザ・ボールの動きでスペースランニングするプレーは、昨シーズンのミランで本格的に右ウイングとしてプレーした頃から意識しているもの。DFに追いつかれ、体がもつれながらもシュートまで持っていく姿は、決して彼本来の動きではなく、得意とするプレーでもない。それでもクラブや代表で今のポジションで起用されているからには不可欠。かつての理想思考だけではない――。そんな本田の現実思考が垣間見える瞬間でもあった。

 終了間際に挙げたヘディングでのゴールで、ワールドカップ予選5戦連発を達成。木村和司氏の記録を超えたことになる。試合後の本田は、その事実を聞いて「意外ですね。これまでもアジア予選(の試合)はあったわけですから」と話した。木村氏が代表としてプレーしていた時代は、まだ日本がアジアで優位な立場ではなかった。一方、1990年代以降は一気に日本の実力が向上し、W杯にも5大会連続で出場中。その間のW杯予選に出場してきた代表選手たちが木村氏の記録を超えていてもおかしくはなかっただろうが、今回の本田までその存在は出てこなかった。本田は率直に、その事実を不思議に思ったのだろう。

 アジア、そして世界の中での日本。その観点でも、ここ最近の本田の発言には変化が見られる。

 2014年のブラジルW杯までは、とにかく強気な言葉が多かった。2012年10月にブラジルに大敗した時は、「逆に負けたからこそ意味がある」と言い切っていた。また翌2013年11月のベルギー戦を前にしたコメントもインパクトがあった。

「当然ながら勝算がある。ベルギーも評価だけ高くて(当時FIFAランキング5位)、でも(サッカーの世界で勝利してきた)歴史のある国ではない。そのあたりは(直近で戦った)オランダとは背負っているものは違う。対して日本は世界では背負うものも何もないチャレンジャー。自分たちをなめている奴らを一人ひとりぶっ潰していくだけですから」

 つまり、当時は自分たちより上に位置する相手にとにかく打ち勝っていくかという考えが本田の頭の中を占めていた。ただ、周知のとおり、2014年6月にブラジルで味わった痛恨の敗北、そして今年1月に行われたAFCアジアカップ2015での敗退によって日本代表、そして本田のスタンスは少しずつ変わっていく。

 それが、今回の発言からも色濃く感じられた。カンボジア戦後には、改めてこう語っている。

「カンボジア戦も簡単ではなかった。相手は本当に最後まで走っていたし、わりと走れる選手たちが、戦術的に組織的にまずは失点をしない前提のサッカーをしてきた。自分たちの戦い方も、シンガポール戦ほど引いた相手に対してサイドの幅を出せていなかった。今日の前半は中央ばかりで、中とサイドを使い分けることを徹底できなかったことは(ベンチから)見ていて思う。(監督からも)当然怒られる内容だったと思う」

「(最近の代表の戦いぶりが)良くないは良くないで反省しないといけないんですけど、やはり無失点で全部進められていることとか、何を持って前進なのかっていう定義があいまいなので。それはいずれ、嫌でも2年後くらいから明らかになってくると思う。今のアジアでの戦いはW杯での戦いとは異なるもの。(引いた相手に対して)戦うことを得意とする選手が揃っているわけではないのが、今の代表の事実でもある。前進しているかどうか、まだ判断を下すのではなく、単純にこういう相手と戦うのが下手だな、でいいと思います」

 この試合の前にも、本田は「カンボジアやシンガポールみたいな国が5年後、10年後に日本を脅かすようなレベルになるんじゃないかなと。そういう危機感を日本人として選手として持っています」と語っている。

 そこから浮き彫りになるのは、理想と現実の狭間に立つ本田である。かつてはとにかく理想を追いかけ、つかむことだけに力を注いできた男が、自分の周囲にある現実を直視していこうとしている。W杯での悔恨やミランでの苦しさなど、世界の舞台でのし上がっていくことがどれだけ厳しいかは、日本のどの選手よりも痛感している。

 目の前の試合で、とにかく全力を尽くす。相手がアジアの国だろうがどこだろうが、力を出し惜しみすることは今の自分と日本には許されない。そしてチーム戦術を理解、咀嚼し、その上で結果を出している。ヴァイッド・ハリルホジッチ監督が本田を重用している理由もここにあるだろう。

 最後に、もちろん本来あるべき姿、その根本は何も変化はない。「サッカー選手としての能力は高くない。そんな俺でも、今でも世界のトップを目指している」と常々語るように、上昇志向は留まることを知らない。

 しかし、トップを目指すにあたってのアプローチに少し変化が見られるのである。ゴールでもパスでも、とにかく攻撃全体を司ろうとする自分は封印した。今は、大事な場面でしっかり結果を出す、本田の言葉を借りれば「決めるところで“一発”を決められる選手」になろうとしている。

 煮え切れない戦いが続く日本代表の中で、一人気を吐く5試合連続弾。この数字と事実が、現実を見つめながらも本田がしっかり新たな理想像にアプローチし始めている証拠である。

文=西川結城

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By 西川結城

サッカー専門新聞『エルゴラッソ』記者統括兼事業開発部マネージャー。過去に日本代表担当記者の他、名古屋、FC岐阜、川崎F、FC東京担当を歴任。

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