10日の練習に参加した武藤嘉紀 [写真]=兼子愼一郎
12日の2018年ロシア・ワールドカップ アジア2次予選第5戦・シンガポール戦まであと2日。現地入りから2日が経過した日本代表は、10日も夕方17時半から同市内の練習場で1時間半超のトレーニングを実施。冒頭15分以外をメディア非公開にして、集中した環境下でシンガポール対策を徹底した模様だ。
現地入りが遅れていた香川真司(ドルトムント)と長友佑都(インテル)の2人が合流し、23人全員が揃う中、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督は練習開始時の屋外ミーティングで身振り手振りの熱い指示を7分半に渡って送り続けた。「A代表はメンタルをしっかり」、「崩し方にはいくつかのアイデアがある。サイドからどうやって崩すかが大事」、「ゾーンプレスをしっかり」といったシンガポール戦のキーワードを次々と並べながら、改めて選手たちに勝利を義務づけた。
シンガポールは6月の埼玉スタジアムでのホームゲームで手痛いスコアレスドローに終わった因縁の相手。「今もまだなぜ勝てなかったのかを考え続けている」と指揮官が繰り返し語っているように、日本代表として前回と同じ轍を踏むことは絶対に許されない。となると、今回は手堅い選手起用が有力視される。日本の3大得点源である岡崎慎司(レスター)、本田圭佑(ミラン)、香川の3人を外すのは思い切りのいることだろう。
とはいえ、岡崎の1トップのポジションは大激戦になりつつある。マインツで岡崎の後釜として今シーズン開幕から定位置を確保し、すでに6ゴールをマークしている武藤嘉紀(マインツ)が凄まじい勢いで台頭しているからだ。武藤自身も「自分もレギュラーたちを脅かせるようにしっかり結果を出していかないといけない」とレギュラー獲りに強い意欲を燃やしている。
実際、彼は10月のイラン戦(テヘラン)で起死回生の同点弾を挙げ、チームを敗戦から救うとともに、彼自身ずっと望み続けてきた国際Aマッチ2点目を手に入れることに成功した。直近の代表戦でゴールした選手を続けてスタメン起用するのはごく当然の流れ。ハリルホジッチ監督も新戦力・金崎夢生(鹿島アントラーズ)を含めて頭を悩ませているはずだ。今回、岡崎以外のアタッカーが先発に名を連ねる可能性は少なからずある。
「どこで出るかは分からないですけど、与えられたポジションで結果を出さないといけない。それが目に見える結果じゃないと、FWとしてはいけないと思うので。得点やアシスト、得点を取りに行きたいなと思っています」と品行方正な武藤らしい言い回しで、出場機会増をアピールしていた。
武藤が日本の新たな得点源になってくれれば、今後、岡崎との併用も考えられるし、本田を休ませて右サイドに岡崎か武藤を回すようなオプションも生まれてくる。香川もゴールに気を取られ過ぎることなく、ドルトムントで見せているようなゲームメークに軸足を置いた自然体のパフォーマンスを見せられるようになる。ドイツで劇的な成長を見せている彼なら、そういう存在になれるはずだ。
「成長していると感じる部分もありますし、ドイツで揉まれて足りないと感じる部分もまだまだある。長所をしっかり伸ばして、短所を全体的にレベルアップさせて、さらに成長した選手にならないといけない。足りないのはもらい方だったり、屈強なDFにどういう体の当て方をするか、逆に当てないようにするかなど。駆け引きもうまくならないと、最終予選ではそういう強い相手ともやると思うので。そういうのも早く修正していければいいかなと思います」と本人は先を見据えていた。その布石となるゴールをシンガポール戦で取ってくれれば、ハリルホジッチ監督の評価も上がるに違いない。
新たなゴールゲッターの出現は、日本サッカー界全体の悲願でもある。武藤でも金崎でも原口元気(ヘルタ・ベルリン)、宇佐美貴史(ガンバ大阪)、南野拓実(ザルツブルク)でもいいが、とにかくこれからキャリアのピークを迎える若手や中堅からそういう選手が出てきてほしい。武藤には今回のシンガポール戦での連発で、その突破口を開いてもらいたいものだ。
文=元川悦子
By 元川悦子