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退任から5カ月…ザッケローニ前日本代表監督、日本への深い愛情

2014.11.28

日本代表を4年間率いたザッケローニ氏(左端) [写真]=Getty Images

 かつて日本代表を率いた指揮官は、冬の訪れとともに再び日本の地に降り立った。26日に東京で行われたビジネスセミナーに登壇したアルベルト・ザッケローニ氏の表情からは、チームを指揮していた頃の険しさは消え、代わりに穏やかさが湛えられていた。

 退任から早5カ月。日本代表が新たなスタートを切った今、ザッケローニ氏に率いられたチームを振り返る動きが出てきている。

 ハビエル・アギーレ監督体制に移行した日本代表には、連覇を狙うアジアカップを来年1月に控えて、ブラジル・ワールドカップを戦ったメンバーが続々復帰している。ザッケローニ氏を通訳としてサポートした矢野大輔氏の著書『通訳日記』により、これまで知られていなかった事実も脚光を浴びてきた。

 4年間の集大成となったワールドカップは、1分け2敗のグループリーグ最下位という結果で幕を下ろした。再評価となれば思いは各人各様だろうが、平日の夜に行われたセミナーに約500人が集まるなど、前指揮官への世間の関心は今なお高い。

 最終結果が全てではないが、「選手達と同様に、もっとできると思っていた」と本人がワールドカップを振り返るように、思い描いた結末では決してなかったはずだ。にもかかわらず、退任後も人気が高止まりしていることは、まさに異例とも言える。

 ワールドカップで惨敗を喫した指揮官がなぜ、今なお支持されているのか。結果を超えたところでの繋がりを考えた時、思い浮かぶのはザッケローニ本人が語っていた「運命」という言葉である。

「以前、他の代表チームから2つほど話を受けたことはあったが、そのときはまだ自分はクラブチームの監督だろうなと思っていた。それまでは具体的に意識していなかったが、日本からオファーを受けた時には、既に飛行機に片足を入れている気持ちだった。そういう意味で運命を感じている」

 ワールドカップに臨む約半年前。ザッケローニ氏は、会見で日本代表の監督就任に至る経緯を明かしたことがある。理由については、メディアを通じた日本のイメージやイタリアを訪れる日本人観光客の振る舞いなどを挙げていたものの、「分からないというのが正直なところだ。本能的に日本代表の監督をやりたいと思った」と続けていた。

 当時はリップサービスの要素を少なからず勘繰ってしまったが、今となっては本心から出た言葉だったことがよくわかる。

 ザッケローニ氏は日本代表を率いた4年間を「日本のために尽くすという覚悟で仕事に従事し、自分のサッカー観や経験など、これまで培ってきたものすべてを日本のために尽くすという思いでやってきた」と振り返り、「4年間の経験は素晴らし過ぎた。そこに何かを加えると、それ以上のものは望めないと感じている」としみじみ語っている。

 代表監督を退いた現在、プレッシャーから開放されて笑顔と冗談を交えて指揮官時代を振り返る姿からは、どこか懐かしさを感じさせた。「日本人と築いた関係を大切にしていきたいと思う。プロとしてではなく、人として大切にしていきたい」と話すザッケローニ氏は、監督退任直後の7月1日、羽田空港に集まった報道陣と握手を交わしてからイタリアへと発った。そして、今回のセミナー後も旧交を温めるかのように、報道陣へ自ら歩み寄って握手を交わしていた。

 ザッケローニ氏は「自分が与えたよりも、受けたものの方が大きい」と口にしていたが、彼自身の人間性や溢れんばかりの愛情が、日本との絆を強くしたのだと思う。だからこそ、結果を超えて、今なお愛され続けているのではないだろうか。

 運命が引き合わせたかのような指揮官と日本だが、「会うは別れの始め」という言葉もある。両者は今、ともに過ごした4年にも渡る日々を懐かしみながら、それぞれの道を歩み始めている。

文=小谷紘友

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