2014.05.28

戦術に囚われたら怖さなくなる! 1トップで新たな可能性をもたらした大久保

大久保嘉人
後半途中から出場した大久保 [写真]=兼子愼一郎

 2月9日のハノーファー戦で右太ももを痛めて以来、3カ月半ぶりに復帰した内田篤人(シャルケ)がいきなりゴールを奪い、1-0でリードしていた58分、埼玉スタジアム2002がひと際大きな歓声に包まれた。ブラジル・ワールドカップ登録メンバー23人にサプライズ選出された大久保嘉人(川崎フロンターレ)が柿谷曜一朗(セレッソ大阪)に代わってピッチに送り出されたからだ。

 キプロス戦直前まで行われた指宿合宿では、「サイドはやっていない。やったのはトップ下とトップ。前は3グループに分かれた時だけ」とトップ下でメインに練習していたことを明かした大久保だったが、最初のテストマッチで起用されたのは意外にも1トップだった。

「ボランチからの縦パスをもっと入れてくれと言いました。そうすればディフェンスが崩れると。真司(香川=マンチェスター・U)や岡崎(慎司=マインツ)、圭佑(本田=ミラン)、清武(弘嗣=ニュルンベルク)たちに、どんどん入ってくればコンビネーションが生まれて向こうも崩れる。入れなかったら相手はブロックを組んで守っているから、ただ回しているだけになるし、自分たちの良さも消える。みんな横や後ろに出すからもったいないなと思っていました」と、攻撃が各駅停車になりがちだった前半を見ていた大久保は、自らが出ることで攻撃の推進力をもたらそうと強く意識してピッチに立った。

 その思惑通り、彼はピッチに立つや否や、鋭い動き出しから香川の縦パスを引き出し、自ら思い切ったシュートも放つ。64分には大久保がゴール前へ飛び出すことで相手マークを引きつけて、長谷部誠(ニュルンベルク)にミドルシュートを打つスペースを作り出した。さらに72分には、右サイドを突破した清武からのグラウンダーのクロスにいい反応を見せた。これもわずかに少しタイミングがズレて得点には至らなかったが、大久保が入ったことでチーム全体の攻めの連動性が増し、ゴール前の迫力と怖さが生まれたのは間違いない。前半は精彩を欠いた本田も大久保と近い距離で連携しあうことで、やっと本来の良さが垣間見えてきた。

 2012年2月のアイスランド戦(大阪・長居スタジアム)以来の日本代表戦。しかも欧州組と一緒にプレーするのは4年前の南アフリカ・ワールドカップ以来ということで、大久保にはブランクがあったはず。しかしこの日の彼はそういうマイナス面を全く感じさせなかった。それどころか「もっとできましたね」と物足りなさも口にしたほどだ。

 彼が物足りなく感じた1つの要素が、ボランチからの縦パスの少なさだ。大久保同様、後半からピッチに立った長谷部は「キプロスみたいな引いた相手には早いタイミングで縦パスを入れないと崩せないと思った」と言うように、前へ前へという意識を強めようと試みたが、大久保にとっては満足できるレベルではなかったようだ。その精度を上げていくことが、本番の結果につながる。それを29日からのアメリカでの2次合宿で詰めていくという。

 もう1つは、チーム全体がアルベルト・ザッケローニ監督の戦術に囚われがちなことだ。

「監督に言われていることはやりますけど、その中で自分の良さってものを出さないと、日本の怖さがなくなりますからね。だから、自分が入る時にも真司に『お前、もうちょっと自由に動け。お前が中に行ったら俺がお前のところに戻るから、どんどん動いていいよ』と言いました。自分が下がってプレーすることも監督は良しとしないけど、俺が孤立したらチームのスムーズさがなくなって、距離感も多くなる。そうなるとミスも起きる。自分は自分を使ってもらって、どんどんゴール前へ行くようにしようと思いました。そういうのは今までのチームにはないだろうし、それをもたらしたいですね」と大久保は戦術を守りながらも、自由な発想で自身の特徴と個性を要所要所で出していくことの重要性を改めて示した。

 彼の指摘は確かにこれまでのザックジャパンに薄かった部分だ。戦術はあれど、ピッチに立って実際にプレーするのは選手だということを忘れていたら、強豪相手に臨機応変な戦い方はできない。それを今一度、気づかせてくれただけでも大久保をあえて抜擢した価値があるのではないか。

 このキプロス戦で見えた大久保効果が今後のチーム作りにどう影響するのか。ザック監督がこのまま彼を1トップに据え続けるのか否かも含めて、一段と興味深くなってきたと言える。

文=元川悦子

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