2013.08.09

デフリンピック閉幕、グループリーグで敗退した男女日本代表と世界の差とは

最終戦終了後の女子代表選手 [写真]=中村和彦

 ブルガリアで開催されていた第22回夏季デフリンピックの全日程が終了した。最終日の8月4日には男女サッカーの決勝がソフィア市内のメインスタジアムで行われ、男子は4年前と同じウクライナとロシアの対戦となり、前回銀メダルのロシアが2-1とウクライナを下し優勝。女子は3連覇中のアメリカがロシアの挑戦をはね除け4大会連続の金メダルを獲得した。

 優勝したロシア男子チーム、アメリカ女子チームは、いずれも日本がグループリーグで対戦し、それぞれ2-5、0-7と敗れた相手である。いったい、その差はなんだったのだろうか?

 男子サッカー競技は世界中より16カ国が参加、4カ国ずつ4つのグループに分けられグループリーグを戦った。ろう者サッカー男子日本代表は第1戦で強豪ロシアを相手に先制点をあげたものの5-2と逆転され初戦を落とした。続くナイジェリア戦でも2-0とリードするものの72分と74分、わずか数分の間に同点に追いつかれ引き分けに終わった。その結果第3戦のアイルランド戦では3点差以上の勝利が求められた。アイルランドに先制を許した日本は一度は追いつくものの2-1と勝ち越され、グループリーグ3戦を終え1分2敗となり、ベスト8進出はならなかった。日本はナイジェリアと、勝ち点、得失点差、総得点、当該チームの対戦でも並びグループ3位となり、9位~12位決定戦か13位~16位決定戦のどちらにまわるのかはコイントスの結果にゆだねられた。アイルランドに敗れた直後から、「切り替えて9位を目標にがんばろう」と選手たちを鼓舞していたキャプテンの野呂啓選手の目の前で出た結果は、どうがんばっても13位以下の13位から16位決定戦。チーム内では「いったい俺たちは何のために戦っているんだ?」という話し合いがもたれ、「とにかく目の前に試合に勝ちにいこう」ということで意思はまとまった。そしてサウジアラビア戦では大量10ゴールを奪い10-0と大会初勝利をあげた。しかし13位から14位決定戦アルゼンチン戦では1-3と敗れ16カ国中14位の成績で全日程を終えた。

 男子チームは歴代で最高のメンバーがそろった精鋭たちだったという。アジア大会でも優勝し自信を持って臨んだ大会だった。だが結果としてはグループリーグを突破することはできなかった。いったい何が“敗因”だったのだろう。

 グループリーグを通じてキャプテンの野呂が感じたのは、プレスにいく際の「攻撃の選手と守備の選手の意識のずれ」により意思統一できなかったという点だ。もちろん話し合いはしたものの試合ではうまく合わせることができなかった。前線が速くプレスに行き過ぎて中盤が間延びしてボールを奪われ、ショートカウンターを決められるという場面も多かった。”ずれ”をすり合わせできなかった原因としては、合宿を思うように積み重ねることができなかったことがあげられる。日本の公式な最終合宿は5月の連休だった。もちろんそれで事足りるわけもなく全額自己負担の自主合宿が7月に行われたが、デフリンピック本大会でもかなりの自己負担金をしいられるという状況ということもありメンバー全員が顔を揃えることはできなかった。結果として日本は強化という面では充分な合宿を行うことができなかった。メダルを本気で狙うのであれば準備が足りないと言わざるを得ない状況だった。一方、強化費用が豊富にある国は1カ月前や3カ月前からの長期合宿を行った。メダルをとればかなりの額の報奨金が出る国もあり、参加すればかなり上位に食い込むことが予想されるブラジルなど、費用の面で渡欧できない国もあった。身も蓋もない言い方をすれば、様々な面でお金をかけたチームが強かった。

 もちろんお金の問題ばかりではない。目についたのは球際の弱さだ。一部の選手を除けば球際の争いが弱すぎた。この点は合宿ですりあわせることでなく各々の場で鍛えることができるはずだ。きれいに崩すことにこだわるあまりか、パスはつながるもののゴール前の恐さがないということもあった。ゲームの流れを読んで、いくところと落ち着かせるべきところのメリハリも足りなかった。どこか日本は生真面目すぎて、いい意味でのずる賢さが足りない印象もあった。そしてチームが勝利することだけのために23人全員ができることをやりきれたと心の底から言えるのか、もっともっとできることをやりきってほしいと思った。だがどこまで選手たちに要求することができるのだろうか?彼らはプロの選手ではなく、仕事や学業を持つ社会人や学生でもあるのだから。しかしながら「日本を代表して世界に挑む」ことは誰にでもできることではない。そのことだけは確かである。

 一方、女子は7カ国が参加。4カ国と3カ国の2つのグループに分かれ、グループリーグを戦った。初戦の相手はポーランド。最低でも勝ち点1がほしい試合だったが、前半23分、ディフェンスラインのパスミスから先制点を奪われる。その後退場者を出し10人となった日本は追加点を奪われ、0-2で初戦を落としてしまう。続く第2戦はチーム発足から間もないギリシャを相手に11対0と勝ち点3をあげたものの、強豪アメリカには0-7と力の差を見せつけられグループリーグ3位に終わった。ドイツとの対戦となった5位~6位決定戦は序盤こそドイツの決定力のなさに助けられたものの0-3と敗れ、7カ国中6位の成績で大会を終えた。

 女子の場合は初出場した4年前の大会に比べると比較にならないほどチーム力が上がり、欧米のチームとの実力差がかなり詰まったことは間違いない。だが上位国の背中ははっきり見えてきても追いついたわけではない。正直に言ってしまえば勝てそうな雰囲気はなかった。明らかに他国よりチーム力が劣るギリシャ戦以外は、ほとんど得点の気配が漂うことすらなかった。ただ全体での守備の意識は向上し、そう簡単には失点しないチームにはなったが。些細なミスからの失点はまだ多い。またこの4年間で飛躍的に伸びた選手もいたが、ピッチ内に目を向けると球際の弱さは、はっきり言って目を覆うばかり(体の入れ方を工夫し何とかうまく対処しようとしている選手がいたことも事実である)だが、何よりもサッカーを知らなさ過ぎるという面が依然として大きな課題である。こういう局面では当然こうするといった個人戦術とでも呼ぶべきことがわかっていない選手がまだまだ多かった。優勝したアメリカは一人一人がよくサッカーを知っている、そんな印象のチームだった。フル代表のワンバックやモーガンのようなフィジカル的にもスーパーな選手がいるわけではないが、隙がないとてもいいチームだった。現状ではアメリカとはどうしようもないくらいの実力の開きがあった。ポーランドは勝てる相手だったのではないかという感触をもった選手も多いようだったが、客観的にはまったく勝てるようには思えなかった。うまくすれば無失点に抑えることはありえただろうが、ゴールの気配がまったくなかったということだ。ポーランド側からするとさほど怖さを感じていないようにみえた。このあたりのことをきっちり認識することから始めるべきなのではないだろうか。日本には“なでしこジャパン”という最高のお手本がいるのだから。

 監督を初めとするスタッフの頑張りには頭がさがる思いだった。女子も男子と同様に資金面の課題を抱えている。しかしもう少し強化を図れないものか。そう思ったのも事実である。

 デフリンピックのサッカー競技を見て一番感動したチームは、ポーランド女子代表だ。女子の3位決定戦はポーランドとイギリス(イングランドではなくUK)の対戦。途中からの観戦になってしまったのだが、退場者を出したのか10人となったポーランドが数的不利をまったく感じさせずイギリスゴールに攻め込む。試合は120分の延長でも0-0。PK戦の末ポーランドは敗れてしまったが、悔しがり方が印象的だった。メダルを寸前のところで逃した悔しさなのだろう。泣いていても目を見開き、ベンチを蹴る選手もいた。怖いくらいだった。「ポーランドはきっと強くなるんだろうなあ」そう思わせる悔しがり方だった。決勝トーナメントに進出したからこそ、ぎりぎりのところで負ける悔しさを味合ったのだろう。

 日本はまだ少しも世界を驚かせてもいない。感動も与えてはいない。なでしこジャパンやサムライブルーが今にいたるまでに長い歴史が必要だったように、ろう者サッカー男女日本代表も歴史を積み重ねる必要があるということかもしれない。だが4年後には何らかの成果が見てみたい。見せてほしい。もちろん選手たちもそのつもりだろう。そういった願いも込めて、アマチュアサッカー選手である彼ら(彼女ら)に対し、あえて厳しい目で総括をさせてもらった。

「耳が聞こえないのによく頑張った」「障害があるのに頑張った」といった言葉は的外れだろう。金メダルを取ったロシアやアメリカだって、聞こえない聞こえにくい選手たちなのだから。本当にサッカーで世界を目指す選手たちに安易なねぎらいの言葉は必用ないだろう。サッカーをサッカーとしてきちんと見ること、そのことが彼ら(彼女ら)をリスペクトしていることにつながる、そう信じている。

「お疲れ様」「頑張ったね」といった心からのねぎらいの言葉は、家族や友人がかけてくれるだろう。

〇プロフィール
中村 和彦
1960年福岡県生まれ。早稲田大学文学部在学中より、助監督として映画の世界に入る。主な監督作に「棒 Bastoni」(2001年)、「日本代表激闘録AFCアジアカップ カタール2011」(2011年)をはじめとするサッカー関連DVDなど多数。知的障害者サッカー日本代表を追った長編ドキュメンタリー「プライド in ブルー」(2007年)で文化庁映画賞優秀賞受賞。ろう者サッカー女子日本代表を追った「アイ・コンタクト」(2010年)では、山路ふみ子映画福祉賞を受賞。著書に「アイ・コンタクト」(2012年岩波書店刊)がある。

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