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日本サッカーの着実な進歩で達した44年ぶりのベスト4/ロンドン五輪

44年ぶりとなるベスト4入りを果たしたU-23日本代表

 最も勝利を欲した2チームが勝ち残り、最も準備を重ねたチームが黄金色に輝くメダルを手にする結果となった。

 ブラジルを2-1で振り切り、初優勝を飾ったメキシコは個々の技術力を下地にした抜け目のないパスサッカーで、着実に頂まで上り詰めた。決勝でも2ゴー ルを挙げたオリベ・ペラルタや守備陣を支えたカルロス・サルシド、GKホセ・コロナとオーバーエイジの活用法もさることながら、その実、金メダル獲得への 仕込みは相当に周到だった。

 メキシコは今大会に主眼を置いたU-23代表を昨年、招待参加したコパ・アメリカに丸ごと送り込んでいた。結果はグループリーグ3戦全敗と若いチームは かなりの苦い経験を味わうことになったが、日本を下した準決勝後にルイス・フェルナンデス・テナ監督は「我々は歯を食いしばって前進してきたんだ」と、1 年前の惨敗が今大会に生かされていることを強調した。他国より抜きん出た強化プランが結実したとは、決して言い過ぎではないはずだ。

 一方、悲願の金メダルをまたも逃すことになったブラジルも、大会に臨む本気度は非常に高かった。2014年のワールドカップを母国開催することで予選を免除されているだけに、貴重な強化の場として、ほぼA代表と言えるような陣容を揃えた。

 ネイマール、オスカルらにオーバーエイジのチアゴ・シウヴァ、マルセロ、フッキを加えたメンバーは圧倒的な戦力を誇り、実力通りの戦いぶりで決勝まで勝ち進んできた。それだけにメキシコとブラジルが最後に金メダルを争った結果は、極めて妥当だったと言えるだろう。

 ただ、決勝戦でミスから失点して散ったブラジルや優勝候補と謳われながら無得点のグループ最下位で大会を去ったスペインについて振り返ると、ミスやコン ディション、あるいは戦術の相性などの細部で実力と結果が入れ替わってしまうほど、力が拮抗してきていることも見て取れる。それを如実に表しているのが、 ベスト4に日本と韓国のアジア2カ国に入り、ヨーロッパ勢が姿を消していたことだ。

 アトランタとシドニーでアフリカ勢が2連覇を果たしたように、スペインに完封勝ちした日本や地元イギリスを準々決勝で退けた韓国といったアジアの国が、 かなりの力をつけていることはもはや否定できない。ヨーロッパの国々にとっては、出場権がU-21欧州選手権で決まることやオリンピックが各国リーグの開 幕前に開催される事情はあるものの、他の大陸と同等レベルの対策を講じない限り、1992年のバルセロナ・オリンピックのスペイン以来となる金メダル獲得 の可能性は、今後も小さくなる一方と言えるだろう。

 最後に日本だが、前線からのハイプレッシャーと永井謙佑を軸にしたカウンターで勝利を重ね、44年ぶりとなるベスト4に進出した。初戦でのスペイン撃破や初のグループ1位突破という戦績は、決して波乱ではなく日本サッカーが積み上げてきた実力に基づく快挙だった。

 そして、成長ぶりはプレーにはもちろん、選手の言動にも見て取れた。

 各選手は今大会前や大会中に限らず、口々にメダル獲得を公言していた。ただ、メダルへの思いは過去の大会に臨んだ選手からも、耳にすることはできた。今大会では、選手の発した言葉でなく、発しなかった言葉に注目したい。

 過去の数大会では必ずと言っていいほど、「世界にアピールしたい」といった類の言葉が聞こえていた。オリンピックを足がかりに海外移籍を考えていた選手がいても当然で、何も批判されることでもない。ところが、今回はそのような言葉が聞かれることはほとんどなかった。

 おそらくは、アピールする意味はなくなったのだろう。実際に、オリンピックやワールドカップへの出場経験がない大津祐樹や宇佐美貴史、清武弘嗣といった 選手たちが既に海外クラブに所属している。この事実は、Jリーグの活躍次第で世界に移籍できることを示すとともに、日本人選手が国際大会によってようやく 掘り出されるのではなく、世界から常に意識される存在だということを証明している。選手たちは無意識であったかもしれないが、日本サッカーの評価が相対的 に引き上げられていたことで、世界大会に打って出ていく環境が確実に整えられていたのである。

 ベスト4へ進出しながらメダルに手が届かなかったことは課題であるし、今後への“宿題”として残ることになった。しかし、今大会の日本は自らのストロン グポイントを明確に打ち出したサッカーを披露したとともに、オリンピックのメダルを取るための意識が、他の出場国と遜色ないレベルに達していたと言える。 そして、その基盤をなしていたのが、環境を含めたあらゆる面で着実に積み重ねてきた日本サッカーの成長だったことは、決して見逃してはならない。

文=小谷絋友(サッカーキング編集部)

 

[写真]=Getty Images

 

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