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新たな時代を築くために…新生・池田なでしこ、アジア3連覇への道が今始まる!

2022.01.21

[写真]=Getty Images

 新生なでしこジャパンが、いよいよFIFA女子ワールドカップ出場権獲得を賭けた戦いで本格的に国際舞台に立つ。

 インドで開幕するAFC女子アジアカップは、来年開催される女子ワールドカップのアジア予選を兼ねている。開催国のオーストラリアを除いた上位5カ国に入ることができれば、ワールドカップ出場権を確保できる。なでしこジャパンは21日に行われるグループステージ初戦でミャンマー女子代表、同24日の第2戦でベトナム女子代表、そして同27日の第3戦で韓国女子代表と対戦し、決勝トーナメント進出を目指す。その後、準々決勝を勝ち抜いてベスト4に進出すれば、文句なしでワールドカップ出場決定だ。昨年10月に池田太新監督が就任し、同月の国内合宿からチーム作りが始まったなでしこジャパンにとってはワールドカップ出場権獲得が最低限のノルマであり、それを達成できた先に大会3連覇という目標が見えてくるだろう。

 しかし、チームのポテンシャルは未知数だ。立ち上げ当初から攻守両面で「奪う」という要素を強調してきた池田監督は、最初の合宿で「奪う守備」のための組織作りに着手した。昨年11月のオランダ遠征では「ゴールを奪う」ための攻撃パターンやポジショニング、連係・連動の確認などに時間を割いていた。選手たちは意欲的にトレーニングに励み、新しいチームコンセプトも前向きに受け入れられている。とはいえ、オランダ遠征でのアイスランド女子代表戦は0-2の敗戦。続くオランダ女子代表戦は0-0のスコアレスドローと結果が出ていないのも事実だ。守備面では「奪う」意識の高さと連動性にトレーニングの成果が感じられたものの、最終的には欧州の強豪2カ国に現時点で力の差があることを見せつけられ、無得点に終わった。

[写真]=Getty Images

 その後のチーム作りは困難を極めた。オランダから帰国後、選手・スタッフたちは世界的な新型コロナウイルスのオミクロン株の流行拡大にともなう日本の水際対策の厳格化の影響を受け、14日間の隔離を強いられることに。昨年12月に予定されていた国内キャンプを中止せざるをえなくなった。また、所属クラブに戻ってもWEリーグは中断期間中。ノックアウト方式の皇后杯こそあったものの、年末から年始にかけて公式戦が少なく、選手ごとにコンディションのバラつきが出てしまうことに。国内での新戦力の発掘も難しかった。

 結局、なでしこジャパンはオランダ遠征から2人を入れ替えたのみのメンバーでインドに乗り込み、アジアカップを迎えようとしている。それでも池田監督は「一体感を持って、そしてピッチではアグレッシブにゴールを奪いにいく力強さを表現していきたい」と自信ありげで、「この大会を通じて選手やチームの成長が大切になってくると思っています」と試合を重ねながら前進していく姿勢を示した。アジアのチームが相手となると、なでしこジャパンが主導権を握る試合展開が多くなると予想される。勝ち進んでいくためにはゴールが必要で、無得点に終わったオランダ遠征における課題を克服しなければならない。ワールドカップ出場権を獲得するには、まさに指揮官の言葉通り大会期間中の成長が不可欠になる。

 GK山下杏也加は「前からボールを奪いにいくことで(攻撃の開始地点が)相手のゴールに近くなりますし、その分、得点チャンスを得られると思います。最初の2試合はその強度を保ちながらどれだけやれるか、どこまでゴールを取れるかが大事ですし、どの程度リスクを冒してボールを取りにいくべきかを試合の中で感じ取りながら、最初の2試合でプレーの基準を作っていきたいと思います」と話していた。幸いにもミャンマー、ベトナム、韓国と徐々に実力が上がっていく対戦順で、山下の言うように初戦から勝利を重ねつつ、チームの基盤を築いていくにはもってこいだ。自陣に引きこもってゴール前を固め、カウンターのチャンスを狙ってくるであろう相手に対し、どのようなパフォーマンスで応えられるかは決勝トーナメント以降の戦いにも大きく影響してくる。

 オランダ遠征での課題を「チャンスはあったんですけど、みんなどうしても足を振らないで、少しでもゴールの近くで(シュートを打ちたい)というのが目立ったと思った」と指摘したFW菅澤優衣香は、「今回は遠くからでもシュートチャンスがあるのであれば、足を振る回数がすごく大事になると思います」とアジアの戦いにおける攻略ポイントを挙げる。

[写真]=Getty Images

「ドリブルで突破できる選手もいるので、そういう選手がうまく崩して、相手を引き出したところに2人目、3人目が関わっていくのは、練習の中でもチーム全体でできているので、1人だけじゃなくてボールに関わっていない選手たちの動きがすごく大事になってくるのかなと思います。そうやって攻撃の手数を増やしていくのがポイントになると思いますし、引いた相手にはドリブルだけでは突破できないとので、簡単にクロスを上げて、相手が出てきたところでまたドリブルを使うとか、プレーの緩急はすごく大事になってくるのかなと思います」(菅澤)

 そう語る菅澤こそ、今大会のキープレーヤーだ。大会直前に新型コロナウイルスの陽性判定を受けたFW岩渕真奈がしばらく離脱を強いられる中で、過去に3度のアジアカップを経験してきたベテランストライカーには得点源としての活躍が求められる。得意のポストプレーで味方のパスを受けつつ、相手DFをゴール前から引き離す。あるいはクロスに対して打点の高いヘディングで合わせてゴールを狙う。そして守備のスイッチ役として前線からのプレッシングの先鋒となる。緩急をつけた戦いを実現するには、なでしこリーグ得点王3回の実績を持つ菅澤のような経験豊富なストライカーの機転と献身が重要になる。

「歳を重ねてきたのもありますし、FWとしての自覚というか、自分が点を取ってチームを勝たせるというのは毎回思っています。それだけではなくて、本当に決定的なところで自分に相手が(寄せて)来ていて、他の選手がフリーなら、そこでパスを出す選択を持つのもすごく大事。チームを勝たせるプレーは常に意識してやっているので、今回の大会もその意識を持って最後までプレーしたいなと思います」(菅澤)

 若い選手たちが多くなった池田ジャパンでは、チームを引っ張るリーダーシップも求められる。DF熊谷紗希やGK池田咲紀子など年長の選手たちが中心となって、若返ったチームをワールドカップに導いてもらいたい。2011年に監督としてなでしこジャパンを女子ワールドカップ初優勝に導いた佐々木則夫女子委員長は「僕がなでしこジャパンを率いていた時代のように、見ていて懐かしい雰囲気だなと感じたこともあります。池田イズムにも似た雰囲気があって、オンとオフの切り替えがあって、メリハリのある雰囲気です」と、過去のチームとの類似点を見出していた。

「選手も若返った中で、一体感を持ってやろうという空気感がありましたし、そういう意味では熊谷(紗希)キャプテンが中心になって、非常によくコントロールしてくれていて、僕の作ってきた財産がここでも生きているんだなと感じたところです」(佐々木委員長)

 立ち上がったばかりのチームではあるが、アジアカップは失敗の許されない戦いの場だ。中心選手として躍動が期待された岩渕を起用できなかろうと、勝ち続けるしか成功への道はない。ただ、大きな成果を残せるだけのポテンシャルは秘めている。限られた時間しかなくとも新監督の哲学や戦術は確実に浸透し、選手たちのマインドも徐々に変わってきた。ミャンマー戦の前日会見に臨んだチームキャプテンの熊谷は「岩渕選手が出られないことは残念ですけど、他のメンバーは本当に自分たちがやるべきことを、岩渕選手がいる・いないにかかわらず理解できていると思うし、ピッチに立つ選手が自信を持ってやるしかない。チームとして戦う準備はできているので、大きな心配はしていないです」と語った。

[写真]=Getty Images

「3連覇を目指すのはもちろんで、自分たちがアジアを引っ張っていく気持ちもありますけど、とにかく一つひとつ積み上げていくことに、いまは全集中していきたいと思っています」(熊谷)

 池田監督の就任とともにリスタートを切ったなでしこジャパンは過渡期にある。11年前の女子ワールドカップ優勝はすでに歴史の一部であり、東京五輪の惨敗は日本女子サッカーの現在地だ。今回のアジアカップで来年の女子ワールドカップ出場権を勝ち取り、その上で大会3連覇を達成することができれば、未来は明るいと言えるだろう。新監督の掲げる戦術をピッチ上で体現し、アジアの厳しい戦いの中で数多の逆境に打ち克って勝利を重ね、世界基準の組織へと大きく成長していくなでしこたちの姿が見られることを楽しみにしたい。

文=舩木渉

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