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[ファントム キャンプに密着 #1]日本女子サッカー界に生まれた新しいサイクル

2020.03.14

1月下旬、女子高校生を対象にした「ファントム キャンプ」が開催された [写真]=NIKE

 ナイキと言えば、今話題の「厚底シューズ」だろう。それまでの「薄くて、軽い」という常識を覆したランニングシューズは、限界に挑み続けるランナーをサポートしたいという思いから誕生した。すべてはアスリートのために――。これはどの競技にも共通するナイキの合言葉みたいなものだ。

 そんなナイキが新たにスポットを当てたのは高校生の女子サッカー選手。彼女たちが参加したトレーニングキャンプを取材した。

「女子のキャンプもやろうよ!」

 そんな一言から、今回のプロジェクトは始まった。将来のスター候補に日本トップレベルの選手とプレーする機会を提供する。ナイキジャパンが開催したのは、「ファントム キャンプ」の“女子選手版”だ。

 1月下旬、東京都内のグラウンドに女子サッカー選手権の優秀選手から選抜された8人の姿があった。指導するのは日テレ・東京ヴェルディベレーザを昨季4冠に導いた永田雅人監督だ。さらにゲストとして永里優季(シカゴ・レッドスターズ)、三浦成美(日テレ・ベレーザ)、宮川麻都(日テレ・ベレーザ)が登場した。

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真剣な表情で永田監督の話に耳を傾ける選手たち [写真]=NIKE

 これまでもナイキは育成年代のサポートや逸材発掘を積極的に行ってきた。2009年には、プロを目指す若い選手を支援するためにワールドクラスのアカデミー組織「NIKE ACADEMY」を立ち上げ、セレクションを勝ち抜いた選手がイングランドフットボール協会の本拠地セント・ジョージズ・パークでトレーニングを受けられるようにした。2018年からはスパイク『ファントム ビジョン』のロールモデルである「ゲームをコントロールし、決定的な仕事をするプレーヤー」を発掘するトレーニングキャンプを実施。優秀選手にはトップ選手とのトレーニングやヨーロッパ遠征への参加権を用意した。

「でも、女子選手を対象にしたものはなかったんです」と語るのは、ナイキジャパンのフットボール担当者だ。「ここ数年、私たちは女性アスリートの支援により力を入れています。でも世界各国から女子サッカー選手を集めて大きなセレクションをしたり、キャンプを実施したりしたことはなかった。今回のキャンプは、他国にはないナイキジャパン独自の企画です」

 意識したのは、良くも悪くも「女性だから」という特別扱いをしないことだった。これまで男子選手に提供してきた機会を、女子選手にも同じように提供したい、という思いがあったという。だから“ご褒美”だってある。今回のキャンプで優秀選手に選ばれた藤野あおば(十文字高校)、愛川陽菜(神村学園高等部)には、浦和レッズレディースの練習に参加できる権利が与えられた。

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優秀選手に選出された愛川陽菜(左)と藤野あおば(右) [写真]=NIKE

 日本のスポーツ界をリードする企業が、女子の育成年代にこうした機会を与えることは今までなかった。女子サッカー界の発展にも大きな意味を持つ、と永里は言う。「なでしこリーグで優勝するチームの選手と触れ合うことなんて日常にはない。自分たちが目指す世界がどういうものなのかを肌で感じられるいい機会だし、この先の目標が立てやすくなると思う」

 日本一のチームを率いる監督から指導を受け、トップレベルの選手と一緒にプレーする。普段、部活動で練習する高校生にとっては特別な体験だ。非日常の刺激から得られる効果を、永田監督も「先」という言葉を使って説明する。「より高い場所に行くためには、先のことを考える必要がある。そして自分たちの先にいる選手とプレーできたことで、そこに到達するためにはどういうプレーをしたらいいかという逆算ができるようになったと思う。ナイキがそういう流れを作ってくれるのは、私たち指導者にとっても大きい」

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高校生を指導する三浦、永里、宮川、永田監督(左上から時計回り)[写真]=NIKE

 ただし、いい経験になった、で終わらせてしまっては成長しない。永里はこう言う。「今日やった練習も『何でやったんだろう』、『何につながっているんだろう』というところまで考えてないといけない。そして、やったことを言語化するところまで持っていけるか。そこまでやってようやく成長できる」。アウトプットするところまでがセットで、「ファントム キャンプ」はきっかけにすぎない。つまり、この機会を成長につなげられるかどうかは、彼女たち次第ということだ。

 アスリートの多くが「もっと成長したい」と思っている。どうしたらもっと強くなるか、もっとうまくなるか。そんなことを自問自答しながら毎日ハードな練習を積んでいる。それは世界最高の舞台に立った選手も同じだ。

 今回、三浦には特別な思いがあった。「昨年ワールドカップに出て、アメリカ代表の勢いに圧倒されました。彼女たちには芯が通っていたというか。強い意思を感じて、『かっこいいな』と思ったんです。だから私も自分がどういう人間で、どんなプレーをしているかをいろいろな人に伝えていかないといけないと感じました。今日みたいに自分らしく伝えられる機会は大切にしたい」

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ナイキはアスリートにプロダクトを提供しているが、サポートの形はそれだけではない [写真]=NIKE

 2019年のW杯で女子サッカーの価値は間違いなく高まった。それには競技レベルの向上だけでなく、各国の協会やメディア、スポンサーのプロモーションが影響しているし、SNSによって大会や選手の熱量が世界中に伝わったことも大きい。そんななかで、ナイキジャパンが女子選手を対象にした「ファントム キャンプ」を実施するのは、当然の流れだと思う。

「女子のキャンプもやろうよ!」。そんな言葉から始まったチャレンジは、彼女たちに成長する“きっかけ”を与えた。実際に参加した彼女たちは楽しそうにプレーしていたから、今後はこのキャンプへの参加を目指す選手も出てくるだろう。2021年の女子プロリーグ設立を前に、宮川も「底上げは欠かせない」と話す。そしてこの「彼女たち」に、ゲストとして参加した永里、三浦、宮川も自然と巻き込まれていった。若い選手のうまくなりたいという意欲に刺激を受け、追いつかれないようにとさらに上を目指す。それが日本の女子サッカーのレベルをさらに引き上げることになる。日本女子サッカー界に新しいサイクルが生まれた。

取材・文=高尾太恵子(@t_taek0)

By 高尾太恵子

サッカーキング編集部

元サッカーキング編集部。FIFAワールドカップロシア2018を現地取材。九州出身。

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