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【インタビュー】永里優季がたどり着いた「サッカーは人生の一部」という考え

2020.02.28

1月中旬、帰国前日にも関わらずナイキのイベントに登場した永里 [写真]=NIKE

 ずっと会いたいと思っていた人にインタビューする機会を得た。永里優季、32歳。現在はシカゴ・レッドスターズに所属している。

 会いたいと思ったのは、女子ワールドカップがきっかけだった。日本が優勝した2011年大会ではなく、アメリカが連覇した昨年の大会だ。過去最高と言っていいほど盛り上がった大会を見ながら、純粋に思った。カッコいいなと。これまでも国を代表して戦うアスリートへのリスペクトはあったけれど、同じ女性としてカッコいいと感じたことは少なかったように思う。

 どうして、そう感じたのか。その答え合わせをしてみたくなった。大会を外から、しかもアメリカで見ていた彼女に話を聞いてみたい。

 インタビュー時間は15分。初対面だっていうのに前のめり気味にグイグイといく私に、たぶん彼女はちょっと引いていたと思う。それでも一つひとつの質問に、自分の言葉で丁寧に答えてくれた。最後まで読んでもらえば分かるとおり、ちゃんとした「締め」がない(正直に言うと、話に夢中になるあまり時間配分を誤って締められなかった)から、モヤっとするかもしれない。だけど会話に出てきた「外の力」や「目的意識」というキーワードは、何の競技でも、そしてアスリートではない人たちにも通じるものがあるだろう。

目的意識は勝つためのエネルギーになる

――先に謝っておきます。聞きたいことがありすぎて、質問が全然まとまっていません。ごめんなさい!

アハハ(笑)。大丈夫ですよ。

永里優季
――じゃあ早速。1番聞きたかったのは、昨年の女子W杯についてです。永里選手がSNSで発信されていたように、特別な大会になったと思うのですが。

外の力が大きく働いていた大会だったと思います。

――外の力とは?

例えば、FIFAを含めた各国のサッカー協会のプロモーションがすごかった。それぞれがテーマを掲げていて、自分たちをいかにカッコよく見せるか、どうしたら人を巻き込めるかを意識していたと思います。

――大会前から協会や企業のプロモーションが積極的に行われて、しかもその見せ方がカッコよかった。今回は盛り上がり方が違うな、と感じた人は多いと思います。そして大会が始まると、アメリカ代表の話題でさらに盛り上がった。

彼女たちには伝えたいメッセージがあって、それを届けるためにW杯を戦っていました。自分のためだけじゃなくて、同じような立場の人のためにも世界を良くしたい。そんなことを考えながらプレーして、発信していたんだと思います。

――つまりW杯は手段だったと。永里選手は日本代表でプレーしているときに何か目的を持っていましたか?

常にはないです。今になって、自分たちはどう映っていたんだろうと考えることが多くて。2011年のW杯を見ていた人に「プレーから伝わってくるものがあった」と言われることがあるんですけど、それはきっと私たちに共通の目的意識があったからだと思います。

――東日本大震災ですね。

私たちには女子サッカーの未来をつなぎたいという思いがあって、それが見ている人にも伝わったんだと思います。自分たちのためだけに戦っていたら、人の心は動かせない。あのとき私たちが共通して口にしていたのは、誰のためでもいいから、自分以外の誰かのためを思ってプレーしようということでした。

永里優季
――そういう経験をした永里選手には、今回の日本代表はどう映っていましたか?

難しい質問しますね(笑)。技術面では、他の国と比べても劣っていないと思います。じゃあ何が足りなかったかと言えば、選手たちが勝負の分かれ目を理解していなかったことかなと。オランダとの決勝トーナメント1回戦で、コーナーキックから失点した場面もそうです。ちゃんとマークについていなかったり、集中し切れていなかったり。勝つために何をすべきか、ということに100パーセント向き合えていなかったように思います。

――アメリカ代表のように勝利の先にある目的も見えなかった。むしろそれが強さとして差に表れた。

そうです。あれほど大きな大会になると、勝つために必要なエネルギーが変わってくるんですよ。勝ちたいという思いだけでは100パーセントの力しか出ない。でもその先に目標や目的があれば、120パーセントの力を出せるかもしれない。人の意識というのはエネルギーを持っているから、自然と外に表れてくるんです。

――そっか、だからアメリカやヨーロッパのチームはカッコよく見えたんですね。

立ち居振る舞いもあると思いますよ。最初に言った外の力と共通するところかもしれないけど、「私たちはスーパースターなんだ」という意識は外の人が作ってくれるんです。それが日本には足りない。どこか子供扱いされるというか。プロフェッショナルとして扱われないから、選手もプロとしての振る舞い方を知らない。その差は大きいです。

――なるほど。今、永里選手はアメリカで活動されていますけど、W杯期間中の雰囲気はどうでした?
家族や女性ファンがすごく増えたという印象です。あとテレビを見ていて思ったのは、日本とは番組構成が全然違うということです。

――というと?

日本では選手の能力よりもプライベートな部分を取り上げますよね? 関心を持ってもらうためにそうしているんだろうけど、かなり特殊だと思います。アメリカでは選手がどんなプレーを得意としていて、誰とコンビネーションがいいとか、そういう情報を全部データ化して伝えてくれる。だから自然と見る側の質も上がるんだと思います。中継では解説者のほかにルールを紹介する人もいます。

――ルールを紹介する人がいるなんて知らなかった。

日本もクリエイターを使っていろんなものを作ってみればいいのに、なんて思いながら見ていました。自分が出場していたら気づけなかったことが多いと思います。大会を外から見られたのは大きかったです。

サッカーは人生の一部

永里優季

――来年、日本ではプロリーグが開幕しますけど、クリエイターを入れてプロモーションを展開するとか、そういうことも意識したほうがいいと思うんです。

そもそもの話をすると、私は選手の意識が高まっていないのにプロリーグを作っても長くは続かないと思っています。一方で、そういう環境を作ってしまえば、無理矢理にでも選手の意識を高められるんじゃないかとも思う。

――外の力をうまく利用すると。

そうなると、どんな環境にするかが重要になってきますよね。例えば、日本が世界をリードしていくような存在になりたいのであれば、海外の選手が来たいと思うようなリーグにしないといけない。国内ですべて完結してしまったら意味がないと思います。グローバル化が進んだ今、世界全体がマーケットになる。その視点を持っていないとダメだと思います。

――永里選手がそういう視点を持つようになったのは、日本代表を離れてからですか? 距離を置くことで見えるものがあったとか。

そう思います。いろんなことが見えてきたし、ライフスタイルも変わった。サッカーが人生のすべてじゃなくて、人生の一部だとようやく思えるようになりました。だからこそ視野が広がったし、自分の人生を楽しめるようになった。今が一番楽しいです。

――その笑顔を見たら楽しさが伝わってきます。でも、そういう考え方ができるアスリートってなかなかいないじゃないですか。永里選手も「ようやく」と言いましたし。

まずは環境を変えてみるといいと思いますよ。競技から離れる時間を作るとか。サッカーを一切せずに、ほかのことをやってみる。

――それって怖くないですか?

最初は怖かったけど、慣れますよ。意外とイケるんだなって。サッカーをしない時間を少しずつ増やしていって、全く違うことに没頭してみる。そうしたら、いざサッカーに戻ってきたときに成長を感じられるかもしれない。今までに受けたことのない刺激って無意識にスッと入ってくるから、気づいたときには心も体も変わっている。私はサッカーから離れる時間を作っていいことしかなかったです。最近は宇宙の話が好きで(笑)。

――う、宇宙ですか?

だって、サッカー選手である以前にそもそもなんで人間が地球に存在しているのかって興味ありません?

――そう言われると確かに(笑)。まだ聞きたいことが山ほどあるんですけど、そろそろ時間らしいです。締めてくれと言われているので……えっと、2020年の目標は?

ないです(笑)。時間的な制限があるような目標を置かなくなったんですよね。オリンピックに出たい、W杯に出たい、みたいな目標は時間的な制約が絶対にあるじゃないですか。

――あります。

だけどそういう目標を立てなくなったら、長くサッカーを続けられるスタイルに変わった。今のライフスタイルが大好きなので、これをできる限り続けられるようにしたいとは思っています。

――そう思えるのは、サッカーが人生の一部だと捉えられるようになったからでしょうね。

だと思います。サッカー選手として何かを得たい、成し遂げたいというのはない。できるだけ長くプレーして、できるだけ多くの人と関わって、スタジアムに足を運んでくれる人たちに何かを届けたい。それをやる価値があると、アメリカにいて感じます。

――やっぱりアメリカにいることは大きいですか? って、話が全然終わらない……。

うん、まだまだ話せますね。アメリカで待ってます(笑)。

インタビュー・文=高尾太恵子
(編集部注:2020年1月15日取材)

By 高尾太恵子

サッカーキング編集部

元サッカーキング編集部。FIFAワールドカップロシア2018を現地取材。九州出身。

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