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【インタビュー】まだまだ止まらない! 32歳、有吉佐織のアップデート

2020.02.27

ナイキのトライアルイベントに出演した有吉。イベントの合間にインタビューに応じてくれた [写真]=NIKE

 30歳を過ぎると「成長したなあ」と実感する機会は、子供の頃に比べてグンと減った。「逆上がりができるようになった!」、「九九が全部言えるようになった!」みたいな、分かりやすい成長がうらやましいとさえ思う。でもきっと、子供は自分が成長したとは思っていない。そこには鉄棒でクルッと回れたらどんな気分なんだろうという好奇心や、九九を暗記してやろうという意欲があるだけだ。

 昨シーズンを語る有吉佐織の表情は明るく、何より楽しそうだった。それは日テレ・東京ヴェルディベレーザで4冠を達成したからだけではない。後輩に経験を伝えたい、監督に求められることを体現したい。そんなことを考えながらシーズンを戦い抜いて、ふと振り返ったとき、自分が変わったことに気づいたからだろう。

中高生プレーヤーから受けた刺激

――有吉選手のプロフィールを見て気づいたんですけど、私も佐賀県出身でして……。年齢も1つしか変わりません。
ホントですか!? めずらしい。東京ではなかなか出会えない(笑)。

――ですよね。私たちが中学生の頃、佐賀にはまだ女子サッカー部がほとんどなかったと思うのですが。
最近は増えたみたいですけど、当時はなかったですね。私が進んだ中学も女子サッカー部がなかったので、社会人チームに入りました。

――途中で神村学園のサッカー部に入るわけですが、鹿児島の中学に転校することになった経緯は?
当時から神村学園高校の女子サッカー部は強くて。中学にも女子サッカー部を作ろうという話になったタイミングで、監督に声をかけてもらいました。私は一期生です。

――あ、初期メンバーだったんですね。女子サッカー部ができたはいいものの、まだ人数が少なかったのでは?
6人くらいでした。試合に出るときは、ほかのクラブチームから選手を借りていました。

有吉佐織
――できる練習も限られてくると思います。
3対3までしかできませんでした。でも少人数だったからこそ、個人のテクニックやコンビネーションを磨くことができたと思っています。ほかにもサッカーの理論や戦術を学べたのは大きかったです。最近は感覚でプレーしている選手が意外と多いんですよ。

――そうなんですか?
まあ、2対2の練習をひたすらやっているチームはありませんから(笑)。普通は5対5のように、ある程度人数がいる状態から始めるチームが多い。でも人数が多いと、なんとなくの感覚でプレーできてしまう。若い選手の技術が劣っていると言っているわけじゃないですよ。

――はい。
大人になると、どうしてもインプットされている知識や体で覚えていることを変えにくくなると思うんです。でも、中学生って何も知らないから教えられたことが素直に入ってくる。私の場合は、少人数で練習した経験が今のプレーに生きていると思います。

――昨シーズンは、代表活動やケガでチームを離れる選手が多くて、メニーナの選手をトップチームに引き上げて戦っていました。中学生や高校生とプレーすることで、何か変化はありましたか?
「伝え方」を意識するようになりました。ただアドバイスをするだけではダメなんだなと。あとは単純に刺激されました。30歳を過ぎるとパフォーマンスを上げていくことがすごく難しくて、どうすれば維持できるかということにフォーカスしてしまいがちです。でも彼女たちは、そのときの120パーセントを出してやろうっていう気持ちでプレーする。勢いというか、若さというか(笑)。後先考えずに動く姿勢が、なんだか新鮮でした。

――30代になると新しいことに挑戦するのが若いときよりも難しくなる……なんか自分で勝手にハードルを高くしてしまうことってあると思うんです。
ありますあります。それは私も考えさせられました。彼女たちには「もっとうまくなりたい」、「勝ちたい」という純粋な気持ちしかないんですよ。どうやったら自分たちよりも体が大きい相手に勝てるかを考えたり。そういう姿勢に刺激を受けて、勇気をもらった。私が彼女たちに引っ張られていた部分もあったと思います。ベテランがリードしなきゃいけないときもあるけど、彼女たちがチームに勢いをもたらしてくれた部分もある。いいバランスだったのかなと。

有吉佐織
――刺激されて、有吉選手がチャレンジしたことってありますか?
監督がオーバーラップを求めてきたんですよ。30歳を超えた私に!

――かなりハードですね……。
だから後輩には「30歳過ぎても絶対にやれよ」と言いました(笑)。「ちゃんと背中を見てろよ」って。

――カッコいい!
確かに運動量では若い選手にかなわない。だからオーバーラップするタイミングを変えたり、1本の質を高めたり、自分なりに工夫しました。

――そうすることでプレーの幅が広がったという実感はありますか?
あります。でも監督に求められることを素直に全部やってしまうと90分は持たないし、シーズン通してプレーするのが難しくなる。自分の体と向き合いながら、監督の要求にどう応えるか、どうチームに貢献するか、ということを考えました。

――若い子に負けてなんていられない。やる気だってある。でもガムシャラにはできない。
そうです。だから省エネもします。味方の良さを引き出しながら、それを利用して自分は省エネする、みたいな(笑)。

――なるほど(笑)。先ほど言っていた、伝え方を意識したというのは?
やっぱり先輩ですし、言いたいことはたくさんあるんです。でも、まずは相手の話を聞こうと意識しました。私の意見を一方的に伝えるだけでは「はい、分かりました」で終わってしまう。それって絶対に分かっていないんです。

――うん、絶対に分かっていない(笑)。
だから「今のプレーをどう思った?」とか、「どう考えていたの?」という質問をするようにしました。そうすると相手は自分の言葉で答えようとするじゃないですか?

――そうですね。
その言葉を聞いてから私の意見を伝える。そこでようやく会話が成り立つんです。私が先に言っちゃうと、結局一方的になってしまう。それでは意味がない。最近の子ってひとまとめにするのは良くないけど、向こうから積極的に話しかけてくることが少ないなあと感じていて。だから私のほうからコミュニケーションを取ろうとするんですけど、こちらからのベクトルが強いと「はい」、「すみません」の一言で話が終わってしまうんですよね。

――ああ、分かります。今の話はアスリートに限らず、会社で働いている人にも当てはまることだと思います。つまり会話をしようってことですね。
相手の考えを知ったうえで、「私はこう思う」と伝えると反応がある。それに対して、こちらの考えをまた伝える。その作業の繰り返しです。自分の伝えたいことも伝わるし、相手への理解も深まる。これは昨シーズンの環境があったから気づけたことだと思います。

――なんだかアドバイスを受けた気分です(笑)。ありがとうございました!

インタビュー・文=高尾太恵子
(編集部注:2020年1月14日取材)

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