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【インタビュー】籾木結花がW杯で感じたこと。アメリカ代表との圧倒的な差とは?

2020.02.27

1月中旬に行われたナイキのイベント終了後、籾木がインタビューに応じてくれた [写真]=NIKE

 カメラのレンズを向けられると照れ臭そうに笑う。ナイキのトライアルイベント出演を終えた籾木結花は、「大晦日はUSJに行ったんです。カウントダウンをしたのは人生初かも」なんて雑談をしながら撮影に応じていた。その会話だけを聞けば、どこにでもいる23歳だ。でも彼女の場合は「いつも練習で疲れて、年を越す前に寝ちゃうから」と続く。

 昨年、籾木は初めてワールドカップに出場した。ピッチに立った時間はわずか18分。それでも途中出場した選手では同大会最多となる4本のラストパスを記録し、自らもシュートを放つなど強い印象を残した。

 籾木は大会前にこんなことを言っていた。「女性アスリートへの注目が集まっているタイミングで開催される。きっと一生で一度の大会になると思う」

 実際に大会は大成功だった。視聴者数は全世界で約11億2000万人を記録し、過去最多を更新した。MVPを受賞したアメリカ代表のミーガン・ラピノーは政治や社会問題について発言し、ピッチ外でも話題を集めた。この盛り上がりに、FIFAのジャンニ・インファンティーノ会長は「史上最高」と称賛している。だから純粋に聞いてみたかった。“大会の中”にいた彼女が何を見て、何を感じたのかを。

女子W杯で感じた危機感

――W杯前に何度かインタビューをさせていただいていたので、大会を終えての感想を聞きたかったんですよ。初めてのW杯はいかがでしたか? ケガで出場時間が限られてしまいましたけど……。
ケガした箇所が前にも痛めたところだったので、ドクターから診断結果を聞いたときに驚きはなかったですし、すぐに気持ちを切り替えることができました。結局、18分間の出場になっちゃいましたけど、本当に楽しかったです。最高に楽しくて、最高に悔しいW杯でした。

――あの大会は女子サッカー界にとって特別なものになったと思うんです。大会前のプロモーションは力が入っていましたし、海外メディアが取り上げる量もすごかった。何よりも選手たちの熱量をすごく感じる大会でした。
私もそう思います。同時に日本人として危機感を感じた大会でした。アメリカをはじめヨーロッパや南米、アフリカの選手は女性の地位や、女性アスリートの価値を高めるために努力していて、とてもキラキラしていた。そのなかで、かつて世界一になった国がこれでいいのかなと。

――競技レベル以外のところでも差を感じたということですか?
そうです。私は国がその競技にどれだけお金をかけているかが重要だと思っています。日本にもプロ契約している選手はいますけど、ほとんどの選手がサッカーだけでは食べていけない。サッカー選手としての評価は給料であったり、移籍金であったり、お金の部分で得られると思っています。

――それがすべてではないですけどね。
もちろん。でもそういう評価があると、アスリートとしての自覚が強くなると思うんです。特にアメリカ代表にはトップアスリートとしての自覚やみなぎる自信みたいなものがあった。自分たちの価値を理解していたし、それを発信する力がありました。そこに圧倒的な差があったと思います。

――SNSが発達してから、競技を離れた場所で何を発言するか、どう見せるか、みたいなことを意識する選手が増えましたよね。
サッカーに限らず、アスリートはそういうことも考えていかないといけない時代ですよね。私はこの数年で「サッカーは手段」と考えるようになりました。アスリートだからこそ伝えられることがあるし、多くの人に伝えられるということがスポーツの価値だと思う。今までやってきたサッカーを使って、自分の価値をどう発信していくのかを考えないといけないと思っています。サッカーを通じてこれを成し遂げたい、みたいな目的を持っていないと、結局世界に出たときに勝てない。

――確かに、アメリカ代表にはW杯優勝の先に目的がありました。男女の賃金格差をなくすことだったり、多様性の尊重を訴えたり。
W杯を戦う身として口にはしませんでしたけど、大会が始まる前からアメリカが優勝する雰囲気はありました。それくらい圧倒的なパワーがアメリカにはあった。それに、ただ勝つだけでは感動は生まれないんですよ。そこにストーリーや思いがあって、応援してくれる人がいるから感動が生まれる。2011年のW杯優勝で日本が盛り上がったのは、それらがそろっていたからだと思います。

――あのときは東日本大震災で被災した方に戦う姿勢を見せるという目的があった。
そう思います。だから私たちもチームとして何を成し遂げたいのかを明確にしないといけなかった。目的に向かって選手が一つになることで、チームは強くなると思います。

――籾木選手が考えている目的はありますか?
私はなでしこジャパンが女性のシンボルになれたらいいと考えています。日本では、サッカーは男子がやるものだという考えがあります。だからわざわざ「女子サッカー」と表現しているように感じてしまう。日本は世界の男女平等ランキングでも下位だし、ビジネスの現場では男性が決めたルールの中で仕事をしている女性が多いと思います。それは日本サッカー界の環境とすごく似ていると感じていて、だからこそ働く女性たちと共感できる部分が多いのかなと。

――それでシンボル。
はい。私たちが頑張ることで、働く女性が自信を持ったり、前に進んでいこうと思えたりするきっかけを作れたらいいと思っています。

「モテる」ために必要なことは何か?

籾木結花

――それこそ、籾木選手がnoteに書かれていた「モテたい」という表現がピッタリだと思います。まずは女子サッカー選手が憧れの存在にならないといけないと言っていましたよね。じゃあ、モテるためにはどうしたらいいと思います?
SNSが普及している今、やっぱり見せ方にはこだわる必要があると思います。例えば、イングランド代表はW杯メンバーを発表するときに著名人や有名なサッカー選手を登場させました。

――あれはめちゃくちゃオシャレでした。
ですよね。だって(デイヴィッド)ベッカムに「僕のつけてきた7番をつけるのは君だ」って言われたらうれしいじゃないですか。

――テンション上がります(笑)。
まず発表の仕方がかっこいいし、そうやって女子選手が取り上げてもらえるんだっていうことにびっくりしました。

――世界的認知度の高いベッカムを登場させることで、イングランド国外にも届けようという姿勢が見えますよね。
ほかにもエマ・ワトソンが出てきて、サッカー以外の世界とうまくつなげながら発信しているのが分かります。これは動画でしたけど、画像の見せ方も大事だと思うんです。

――私もそう思います。
またイングランド代表の話になってしまいますが、シービリーブスカップのメンバー発表のときに1枚の画像を投稿したんです。そこには全3試合の情報が詰まっていて、デザインもカッコよかった。今はタイムラインに流れてきたツイートのテキストをわざわざ読まないと思うんです。

――確かに、テキストを読むというより画像を眺める感じです。
それを認識したうえで、見せ方を考えないといけない。一つひとつのこだわりが結果的に「女子サッカー選手はかっこいい」というところにつながると思います。

――籾木選手は「モテる」選手の例として、テニスの大坂なおみ選手や元フィギュアスケート選手の浅田真央さんを挙げていましたが、彼女たちとの違いは何だと思いますか?
あれは分かりやすく説明するために挙げただけなんですけど、彼女たちとの差は自覚だと思います。

――先ほどのアメリカ代表の話と同じですね。
やっぱりスポーツでお金をもらっているかどうかは大きいと思います。選手全員に自覚がないと言っているわけではありません。でも今の日本の女子サッカー選手は、良く言えばすごく謙虚だけど、悪く言えば自分らしさを前面に出す個性の強さみたいなものがない。そこにはもっと大枠の、日本で女性アスリートがどう捉えられているかという問題もあるんですけど。

――と言うと?
私がすごく感じるのは、日本では女性アスリートがまず「女性」というくくりで見られているということです。スキージャンプの高梨沙羅選手がメイクでかわいくなったことで批判されている記事を見たときに、アスリートとしてよりも先に女性として見られるんだなと思いました。浅田さんのことも「ちゃん」付けで呼ぶじゃないですか? なんか違うなあって。

――それは私もなんだかなあって思います。で、ちょっと話は変わりますが、日本では来年プロリーグが誕生しますよね。それについては率直にどう思いますか?
うーん……。あくまで私個人の意見を言うと、なでしこリーグの環境を良くしていく形でプロ化につなげたほうが良かったんじゃないかなあと。サッカーでお金をもらえるようになることはうれしいですよ。ここまで散々お金のことを言いましたし(笑)。ただ、サッカーをしながら働いたり、大学に通ったりできる今の環境が悪だとは思いません。私が同じ年齢の男子選手よりもいい経験ができていると胸を張って言えるのは、大学4年間がすごく濃いものだったからです。

――つまり、選手一人ひとりがどういう意識を持つかということですよね。お金をもらえるようになって良かったね、で終わるんじゃなくて、そのお金を何にどう投資するかを考えるとか。
そうだと思います。実際にサッカーをしているのが1日に1、2時間だとして、それ以外の時間をどれだけ自分の成長のために使えるかを考える。それができるかどうかで、アスリートとしても一人の人間としても差が出てくると思います。私は自分への投資だと思ってたくさん本を買っていますけど、そこで得られた知識を自分のものにすると決めてお金を払っています。

――籾木選手はサッカー以外からの刺激を成長につなげるタイプですよね。
私みたいにいろんなものを取り入れながら成長する選手もいるだろうし、サッカーだけを突き詰めて成長する選手もいます。だからどちらがいいというわけではないけど、私はサッカー以外の時間に何を意識して、どう行動するかが大事になってくると考えています。今後の日本女子サッカー界がどうなるのか。私自身も楽しみです。

インタビュー・文=高尾太恵子
(編集部注:2020年1月14日取材)

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