2019.04.15

【コラム】対戦相手から称賛の声…なでしこのW杯制覇へ鍵となる熊谷紗希の経験

熊谷紗希
なでしこジャパンの主将を務める熊谷紗希 [写真]=Getty Images
ベルリンの大学でドイツ文学部を卒業後、サッカーが繋いでくれた縁によりスポーツレポーターおよび翻訳家としてドイツ国内で活動中。

 今夏にフランスで開催されるFIFA女子ワールドカップフランス2019まであと2カ月。なでしこジャパンは大会前最後の遠征に臨み、フランスとドイツの強豪2カ国を相手に1分1敗で終えた。「まだまだやることは多い」。なでしこジャパン主将の熊谷紗希は今回の欧州遠征で得た課題をこう言い表した。

「(フランスやドイツのように)サイドを使いながら、スピードとパワーで(崩して)、最後は中で(決める)というのは、自分たちが一番苦手としているところ。もっと相手に対応できるやりかたを見つけていかないといけない」

 欧州のトップレベルで日々戦い続け、日本人である自身のストロングポイントとウィークポイントを肌で感じてきた経験から出てきた言葉なのだろう。

 世界の頂点に輝いた2011年のドイツ・ワールドカップ終了後に欧州へ旅立ち、これまでドイツとフランスで8年近くプレーしてきた。2013年から所属するリヨンでは、国内リーグ12連覇の偉業や、女子チャンピオンズリーグ(CL)で3年連続の欧州制覇などに貢献。世界的にも圧倒的な強さを誇るチームで、不動のレギュラーとして定位置を確保し続けている。

 熊谷が世界屈指の選手であることは、対戦相手の言葉でも証明されている。FIFAランキング2位のドイツ代表の主将でエースストライカーのアレクサンドラ・ポップは9日の日本戦(2-2の引き分け)後、「彼女のことは前々から知っている」と当然のことのように話した。

熊谷紗希

マッチアップしたドイツ主将・ポップとなでしこ主将・熊谷 [写真]=Getty Images

 ポップはドイツの強豪ヴォルフスブルクの大黒柱でもあり、CLでは熊谷を擁するリヨンに4大会連続で敗れている。クラブレベルで苦しめられてきた経験から、日本戦でのマッチアップでも「いつもどおりの対戦だった」と振り返り、熊谷をこう分析している。

「サキは広い視野を持って、落ち着いて攻撃のビルドアップができる。身長が高くても機敏に動けるから、FWの選手がプレッシングに行っても、ワンアクションでかわしてしまう。ヘディングも悪くないし、ゴール前に顔を出せば、危険な存在にもなれる。とてもソリッドしていて安定した選手だと思う」

 リヨンのチームメイトであるジェニファー・マロジャンは、ドイツの1.FFCフランクフルト時代から熊谷のことを良く知る一人だ。日本戦後には「面白かった」と同僚との対決を振り返った。「サキが好きだし、一緒にプレーをするのも好き。敵として彼女と対峙するのはとても変な感じがした。でも、私たちはお互いに長所も短所も分かっているので、対戦はとても楽しかった」。その言葉からは熊谷を人間としても選手としても高く評価し、その存在を認めていることが良くわかる。

熊谷紗希

健闘を称え合う熊谷とマロジャン [写真]=Getty Images

 熊谷自身は今回の欧州遠征を終えて、「自分がリヨンでやっている意味が本当にあると強く感じた」と胸を張った。「リヨンで素晴らしい選手たちの中でやれているので、相手の特徴を知っていることや慣れの部分はかなりあると思う」

 ワールドカップの開幕前には、リヨンでシーズンの佳境を迎える。リーグ戦13連覇も視野に入り始め、CL決勝にも4大会連続で進出する可能性が高い。そういった欧州トップレベルでの戦いが、熊谷にとって日本代表で活躍するための準備となる。「代表での自分の役割も、リヨンでの役割も理解している。トレーニングや試合でしっかり揉まれて、自分も一つ一つ成長して、良いコンディションでワールドカップに挑みたい。やることをやるのも、やれることをやるのも自分。というか、自分は自分がやれることしかできないので」

 フランスW杯の舞台では、リヨンの同僚たちを含む世界屈指の選手たちと顔を合わせる機会も自ずと訪れる。だからこそ、熊谷が欧州で培ってきた経験が、世界大会でもなでしこの鍵になるのは間違いないだろう。ただ、それは彼女の凄さを知る対戦相手にも同じことが言える。ドイツ代表でもリヨンでも10番を背負うマロジャンは、W杯本戦で熊谷との再戦の可能性を聞かれると、「たぶん決勝でね」と不敵な笑みを浮かべた。

 W杯決勝が開催されるのは、本拠地のリヨン。熊谷は、世界各国の同僚たちと対決を繰り広げながら、3大会連続となる決勝の地への”帰還”を目指す。

取材・文=鈴木達朗

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