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ミスと焦りで悪循環へ…予選敗退のなでしこ、短期決戦で得た教訓

2016.03.08

7日のベトナム戦を終え、観客席に頭を下げる選手たち [写真]=Getty Images

「今までは、うまくいかなくてもどこかで結果が付いてくる状況が多かった」

 4日、第3節の中国戦を1-2で落とし、リオデジャネイロ・オリンピック出場が極めて難しくなった後、FW岩渕真奈はそう言って唇を噛んでいた。アジア最終予選に臨んでいる今回のなでしこジャパンにあって、今月18日に23回目の誕生日を迎える背番号16は下から3番目に若い。とはいえ、2012年のロンドン・オリンピックと昨年の女子ワールドカップ・カナダ大会に出場している“代表常連組”であり、両大会で決勝のピッチにも立っている。経験値という意味では一括りに“若手”とは言えない岩渕が、「(今までのチームとの違いは)はっきりとはわからないけど…。各個人の自信が少しずつなくなってきていたり、うまくいかない時にチームとして修正する力がなかったり…」と、かつてない困難と向き合い、もがいていた。なぜ、結果が付いてこないのか――。

 岩渕の言葉を借りれば、今までのなでしこジャパンは「悪いなりにも結果を出せていた」チームだった。不調時でも相手を上回るレベルの差をもって勝利を収め、その中で修正を施して完成度を高めつつ、白星を積み重ねていく。そんな好循環に乗ることができるチームだった。当然ながら、時として“運”や“流れ”といった不確定要素を味方につけた場合もあっただろう。主将MF宮間あやは「今までは正直、“何かに守られていたのかな”と思うくらい、『これは入らないだろう』という得点が入ったり、逆に『絶対に入っただろう』というシュートが入らなかったり(失点にならなかったり)していた」と回想している。

 実力差と“運”。今大会のなでしこジャパンには、そのいずれも足りなかった。短期決戦の初戦で躓くと、一度陥った悪循環から抜け出すことはできなかった。劣勢から巻き返し、流れを引き戻すことはできなかった。

■ライバルが徹底した“なでしこ対策”

 予選敗退が決まった後、日本サッカー協会(JFA)の野田朱美・女子委員長は「他国のレベルの進歩が著しかった。ビルドアップやボールポゼッションといった、自分たちの強みである部分を相手に出されてしまった。自分たちのストロングポイントを消されてしまった」と、今大会の印象を語っている。今までと比べて、他チームとのレベルの差は詰まっていた。そのうえ、ライバルたちはなでしこジャパンをしっかりと分析し、対策を講じていた。

 今大会は10日間で5試合を戦う短期決戦。スタートダッシュの重要性は言うまでもなく大きなものだったが、なでしこジャパンは2月29日、第1節・オーストラリア戦で完敗を喫した。“自国開催大会の初戦”という独特の緊張感に覆われる中、DF熊谷紗希は「試合への入り方が良くなかった」と反省の弁を口にする。前線からプレスをかけてきた相手にペースを乱され、ビルドアップでミスを連発。25分、警戒していたはずのクロスから先制点を許すと、41分には主審にボールが当たるアンラッキーな形から2失点目を喫した。ビハインドを負って心理的にも劣勢に立たされたなでしこジャパンは、FW大儀見優季が「少しナーバスになっていた。いかにリスクを冒してサポートに行けるか、ボール保持者を追い越していけるかがカギになる。もっとリスクを冒さないと得点を奪うことは難しい」と指摘した通り、陣形が間延びして選手間の距離が開いてしまった。そうなると、フィジカルに秀でたオーストラリアに苦戦するのは当然の成り行き。敵将のアレン・スタジッチ監督は「相手の良さを消すことに集中していた」と、納得の表情で振り返っている。なでしこジャパンは相手の術中にはまり、1-3で敗れた。

■痛恨のミスで逃した白星

 時間は待ってくれない。中1日で迎えた2日の第2節・韓国戦。「切り替え」を強調して初勝利を目指した選手たちは、初戦とは見違える動きを見せた。初戦で採用した[4-4-2]ではなく、宮間をトップ下に据えた[4-2-3-1]でキックオフを迎え、「1人ひとりの距離が近くなった」(大儀見)と、選手間の距離が改善された。韓国がプレスをかけてこなかったことも作用し、特に前半はボールポゼッション率を高めて試合を支配。しかし、ゴール前でのプレー精度を欠いてチャンスを活かせない。後半に運動量が落ちてオープンな展開になると、押し込まれる場面が増えていった。それでも、70分に与えてしまったPKをGK福元美穂が阻止し、84分に岩渕が先制点。理想的な展開だったが、リードを保てたのはわずかに3分間だった。87分、福元と熊谷が交錯する連係ミスから同点ゴールを許し、1-1で引き分けた。

 1分け1敗。自分たちのストロングポイントを消しに来た相手に初戦で敗れ、2戦目ではミスから勝利を逃す。開幕からわずか3日で、なでしこジャパンは苦境に立たされた。初戦を制したオーストラリアが第2節でベトナムに9-0と大勝し、唯一の2連勝で優位に立ったこととは対照的だった。

 それでも「他会場の結果に救われていた」と熊谷が言うように、オーストラリア以外は引き分けの試合が多く、幸いにして勝ち点差は開いていなかった。第2節終了時点で2位の中国との勝ち点差は「3」で、直接対決に勝てば並ぶことができた。だが、「プレッシャーが少しずつ大きくなってきたのかな」(岩渕)と、選手たちは心理的に追い込まれていた。前向きな言葉を紡いでも、日々険しさを増す表情は隠しきれない。宮間も「結果が出ないと苦しい。強引にでも得点にしないといけない」と、悲壮な決意を語っている。「勝てば挽回できる」よりも「負けたら終わり」との思いが、チームを支配していた。

■指揮官の焦り、戦術的ミス

 再び中1日で迎えた、4日の第3節・中国戦。熊谷は「開き直るというか、チームとしてこの試合に懸けていた」と言うものの、その思いは空回りしてしまった。佐々木則夫監督は韓国戦から先発3人を入れ替え、前節で機能していた[4-2-3-1]ではなく、[4-4-2]に回帰。前線に入った大儀見とFW横山久美に向けてロングボールを多用するように指示を出した。だが、選手たちはその意図を徹底できず、立ち上がりから不安定なプレーを連発。14分、そんな混乱を象徴するかのような自陣でのパスミスから先制点を許し、1点を追う苦しい展開となった。大儀見は「監督がそういう判断をしたのだから、選手は従うべき。でも前半の立ち上がりは徹底できていなかった。『早めにクロスボールを上げる』ということを監督は言っていたし、その役割に徹しきれないのは、まだまだプロフェッショナルではない部分なのかなと思う」と、厳しい言葉を並べて振り返っている。

 ロングボールを多用する意図について大儀見は「その方がチャンスになりやすかった。短く(パスを)つないでも効果的ではないということになると、“ロングボールを前線に入れて、こぼれ球を拾って二次攻撃”という形の方がゴールの確率が高かったから」と説明している。前節の韓国戦ではプレー精度不足からチャンスを逃しているだけに、少ない手数でゴールへ迫ろうとする考えは理解できる。

 だがそれは、なでしこジャパンの持ち味を捨てる一手でもあった。選手間の距離が開いて個人が孤立すれば、劣勢を強いられる。第1節・オーストラリア戦で直面した苦境に自ら足を踏み入れてしまったという印象は否めなかった。身長差が全てではないとはいえ、そもそも中国はなでしこジャパンよりも体格に勝るチーム。ブルーノ・ビニ監督は試合後、「『フィジカルプレーに集中しろ』と選手たちに伝えていた」と、記者会見で明かしている。体格差を活かして球際の勝負で優位に立とうとしていた中国に、なでしこジャパンはロングボール主体の攻撃で挑んでしまった。相手にとっては想定外だったかもしれないが、それと同時に願ってもない展開だったのではないだろうか。

 築き上げてきたパスワークの精度を突き詰めるのではなく、手数をかけずにゴールを目指す――。中1日で試合が続く中、技術的な修正を施す時間はほとんどないとはいえ、安直とも言える手法に傾斜してしまった佐々木監督。「勝つことから逆算した時、(オリンピック)出場権を獲得するための流れがそういう形になった。勝つための選択だった」と、予選敗退が決まった今、指揮官は振り返っている。結果が出ない日々、最も強い焦りを感じていたのは佐々木監督だったのかもしれない。

 なでしこジャパンは攻撃のリズムを掴めないまま、0-1で後半へ。そして58分に追加点を許すと、いよいよ悲観的なムードが漂った。7分後、敵陣でボールを奪った横山が1点差に迫るゴールを決めたが、反撃はここまでだった。1-2。残り2試合で2位中国との勝ち点差は「6」に開き、オリンピック出場は絶望的なものとなった。そして7日の第4節・ベトナム戦のキックオフを待たずして、4大会ぶりの予選敗退が決まった。

■2020年へ、問われる分析と検証

 6チームの総当たり、各チーム5試合ずつを戦う最終予選で、2試合を残して敗退決定。あまりにも不甲斐なく、そして予想だにしなかった結末を迎えた。前年のワールドカップで準優勝を果たしたチームが、オリンピックのアジア予選で敗退――。結果の落差が大きい分、ドラスティックな改革へと舵を切る機運は高まるだろう。JFAの大仁邦彌会長は「新体制をスタートさせる」と、監督交代を含めた体制一新を示唆した。田嶋幸三次期会長が「2020年に東京オリンピックを控えている。そこへ向けてスタートを切らないと」と言えば、野田・女子委員長も「新たな体制作りを速やかにしっかりとやる時期だと思う」と口を揃えている。

 ただ、忘れてはならないのは、開幕前の準備や今大会のプロセスを詳細に分析・検証することだ。田嶋氏は「これがサッカーの怖さだと思う。なでしこは上位2チームに入る力を持っている。それでも、短期決戦の中で修正することができなかった」と言う。今振り返れば、4連勝でオリンピック出場を決めたオーストラリアが初戦の相手だったことは不運だったかもしれない。白星スタートを切っていれば、以降は全く違う流れになっただろう。そう考えると、例えば大会開幕前に親善試合を組んで実戦の雰囲気に慣れておくことはできなかっただろうか。自国開催の利を活かせる策だったはずだ。上田栄治・副女子委員長は「インターナショナル・マッチデーに試合を組むのが難しい日程だった。現場から(試合開催の)要望は特になかった」と話している。今後に向けた1つの検討材料になるだろう。

 短期決戦の難しさや対戦順の妙があり、「ホーム開催は初めてだったからかなり影響していた部分はある」と大儀見が言うように、自国開催であったこともプレッシャーとなってマイナスに作用した面はある。「たられば」を言っても仕方がないが、勝負を分けたのは紙一重の部分だ。以前であれば「うまくいかない時でも結果が出て、それでカバーできていた」(岩渕)ところで、優位性を保つことができなかった。それだけ、アジアのライバルとの差は拮抗している。そんな中で、第3節・中国戦のように相手の強みを引き出すような戦い方を展開してしまっては、勝利は遠ざかる。果たしてスカウティングは十分に機能していたのか。細かい課題は山積だ。

“打倒・なでしこ”を掲げ、対策を講じて立ち向かってきたライバルたちのレベルアップを身をもって知ることとなった今大会。大儀見は「現状維持では退化していく一方。一つひとつのプレーの向上を追い求めていかないと周りに追い越されてしまう」と警鐘を鳴らす。東京オリンピックを29歳で迎える熊谷は「“追われる”立場であることを理解して、想定して準備をしないと勝ち続けることは難しい。それを痛感した大会だった」と話し、「ゼロからのスタートになると思う。2年、3年は長いようで短い。できることをやっていかないといけない」と、危機感を示した。

 2020年を前に、リオデジャネイロ行きの切符を逃したショックはあまりにも大きい。だからこそ、今大会の経験を無駄にしてはならない。最終節は9日19時35分、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)との対戦だ。「近隣国で、常に良い勉強をさせてもらえるライバル。とにかく勝つための準備をしていく」と、佐々木監督は言い切った。敗退が決まっても、これは単なる消化試合ではない。目の前の勝負にこだわる姿勢を貫き、勝利とともに大会を終えてほしい。

文=内藤悠史

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