初戦で2-1とカナダを下したなでしこジャパン
澤穂希が語った言葉に全てが集約されているようだった。
「最高の舞台で最高の仲間とできて幸せ」
今年に入り、良性発作性頭位めまい症により離脱を余儀なくされていた澤は、試合後に話した通り、カナダ戦ではプレーできる喜びを体現するかのように全力でピッチを走り抜けた。チーム全体も澤の動きに呼応するように、持ち味であるパス回しを披露。最終的には2-1と僅差の勝利になったが、大会直前の19日に行われたフランス戦で0-2の完封負けを喫したことで湧き出た悲観論をひとまず吹き飛ばす戦いぶりを見せた。
FIFAランキング7位のカナダになでしこ本来のボールを大事にするスタイルが機能。保持率で有利に立ち肉弾戦を回避できたことで、体格で上回る相手にフィジカル面での勝負に持ち込ませなかった点は称賛に値した。劣勢になった場面でも、人数をかけて粘りの守備を見せていたところには、フランス戦からの反省も垣間見られた。
ただ、コンディションに差があったにせよ、攻守に圧倒されたフランス戦からわずかな期間で修正に成功した陰には各選手やスタッフの努力ともに、オリン ピックという舞台の大きさも働いたのではないか。前述の澤同様、前半に澤、大野忍との連係から見事な先制点を挙げた川澄奈穂美も試合後には、「本当に夢の舞台、憧れの舞台であり、ピッチに立って非常にうれしく思った」と、心情を明かした。
昨年の女子ワールドカップで世界一に輝いたとはいえ、オリンピックは夢の大舞台であることに変わりはなく、その思いは4度目の出場となる澤や初出場とな る川澄らとの間にも差はないようだ。それぞれのオリンピックを希求する強烈な思いが、初戦となったカナダ戦でなでしこ本来のプレーを引き出し、チーム全体に再び躍動感をもたらしたことが勝利に繋がったと見ることができるのではないか。
もちろん、いつまでも夢舞台に立った充足感のみで戦えるほど甘くはない。主将の宮間あやは、「もっと自分たちはできるし、自分もできる。次こそいい試合をしたい」とすぐさま気持ちを引き締めることを忘れなかった。ただ、大舞台での悲願のメダル獲得に向けては、精神的にも内容的にも自分たちの原点に立ち返れた絶好のスタートを切ったと言える。
[写真]=Getty Images