さいたま市北区にある障がい者福祉施設「ひびき」を訪問[写真]=大西徹
9月5日午後、浦和レッズの牲川歩見と二田理央が、さいたま市北区にある障がい者福祉施設「ひびき」を訪問した。
この訪問は、浦和レッズというクラブが地域社会と深く結びつき、社会課題に真剣に向き合う強い意志をあらためて感じさせた活動であった。プロサッカークラブという枠を超え、地域と共に未来を築こうとする姿勢が、さらに地域とのつながりを強固なものにする。このクラブの地域における存在意義を再認識する機会となった。
「ひびき」は、障がいのある方々にさまざまな活動の機会を提供することによって、地域での生活や社会への参加を支援する施設である。施設の利用者は、手作りのパンやお菓子、生活雑貨を販売しながら、地域住民との交流を深めている。今回の訪問の目的は、選手が利用者との交流を通じて、障がいという垣根を越えて社会とつながりを持つ利用者に寄り添い、プロアスリートとして、そして地域の一員としての役割を知ることにあった。
牲川と二田が「ひびき」に姿を見せると、温かな拍手に包まれた。「一緒に楽しい時間を過ごしましょう」と参加者に語りかけ、和やかな雰囲気の中で交流が始まった。
この日、両選手と施設利用者が協力して作業する姿からは、地域の一員として積極的に社会と向き合い、共に何かを築こうとするクラブの姿勢を強く感じさせられた。
利用者の中から選ばれた2名が両選手と共に、まずは浦和レッズの赤を基調とした「くるくるスティック」作りに取り組んだ。利用者と選手は真剣な表情でパーツを組み立て、完成したスティックを回すとフィルムが美しく広がり、施設の利用者やスタッフからは大きな拍手が湧いた。
次に牲川と二田の背番号が入ったユニフォーム型の「選手チャーム」を一つひとつ丁寧に作り上げ、完成すると再び、大きな拍手と笑顔が広がった。そして最後に作成した「ウッドマグネット」には、選手が一つひとつ心を込めてメッセージを書き込んだ。「笑顔」や「ゴール」といった言葉が刻まれた約100個のマグネットが完成した瞬間、施設内にはこの日一番の笑顔と拍手が広がった。
選手と施設利用者が共同で制作したこれらのグッズは、9月21日に埼玉スタジアムで行われる浦和レッズ対FC東京戦の際、ホームタウンブースで「ひびき」のスタッフと施設利用者と共に販売し、多くの人々に届けられる予定だ。当日ブースでは、「ひびき」の施設紹介や各種展示も予定されており、ファン・サポーターにとっても、地域とのつながりを感じられる特別な機会となるだろう。
◎牲川と二田が感じた心のつながり
共同作業を終えた後、牲川は感謝の言葉を述べ、その中には深い思いが込められているのを感じた。この交流を通じて、彼は地域の一員としての責任を強く感じたに違いない。こうした活動は、選手にとって成長の糧となり、浦和レッズの社会貢献においても大きな意味を持つ。
「皆さんの応援が、僕たちにとって大きなエネルギーになります。今日一緒に作り上げた作品を、浦和レッズのファン・サポーターの皆さんが手に取ってくれることがとても楽しみです。この作品を、スタジアムに足を運んでくださるファン・サポーターの皆さんも、楽しんでくださると思います」と、牲川は期待を込めた感謝の言葉を残した。
さらに、今回の活動を振り返り、「利用者の皆さんと一緒にグッズを作る中で、皆さんの応援が僕たちの大きな力になっていることをあらためて強く感じました。サッカーを通じて、勝利や感動を届け続けることがみなさんの力になれば、という気持ちがさらに強くなりました。こうした活動を今後も続けていきたいです」と決意を新たにした。参加者に応援されながらグッズを作ったことについては、「皆さんのおかげでリラックスして楽しく作業ができました。一緒に力を合わせた作品がこんなにも素晴らしい形で完成したのを見て、とても感動しました」と、笑顔で振り返った。
一方、二田も今回の活動を振り返り、「サッカー以外の場で、地域の皆さんと触れ合えたことが本当に楽しかったです。普段とは異なる経験を通じて、たくさんの力をいただきました」と語った。この言葉から、彼自身がこの活動を通じて多くの気づきや成長を得たという実感が伝わってくる。単なるイベントにとどまらず、二田にとっても大きな学びとなったことだろう。
また、応援についても触れ、「試合だけでなく、このような活動の中での応援も、僕たちにとって大きな励みになります。これからも期待に応えられるよう、全力を尽くします」と、力強い決意を示した。その姿は、サッカー選手としてだけでなく、地域社会の一員としての責任を感じながら成長していこうとする意志が垣間見えた。
最後に、選手はサイン入りの色紙とユニフォームを施設に贈った。一方、施設利用者からは、心のこもった手作りのメッセージカードと刺しゅうのキーホルダーが選手に手渡された。交流の締めくくりには、全員で記念撮影を行い、温かい雰囲気に包まれたひとときとなった。
「ひびき」を支援するスタッフも、この特別な交流に深い感謝の意を表した。「サッカーに興味があっても、スタジアムには行く機会がない方々が、選手と直接触れ合い、一緒に時間を過ごせたことは、とても貴重な体験でした。このような交流は、利用者の皆さんにとって心に残る大切な思い出となり、日々の励みになるはずです」と、喜びを込めて語った。
さらに、「笑顔や声で喜びを表現する方もいれば、静かにその幸せをかみしめている方もいました。今日は特に、皆さんの目が輝いていて、心からこの交流を楽しんでいる姿がとても印象的でした。見学していた方々も、長い時間にわたって落ち着いて作業を見守りながら、選手を応援していました。利用者の皆さんの頑張りには胸を打たれました」と、この日の感想を語った。
◎『このゆびとまれっず!』で広がる支援の輪
2019年、浦和レッズはさいたま市内の障がい者支援施設を訪れ、選手が施設利用者と直接触れ合う機会を設けていた。しかし、コロナ禍によりこの活動は一時中断を余儀なくされた。それでも今年、地域とのつながりをより深めたいという思いから、交流活動が再び実現した。
クラブが取り組んでいるのは、地域の課題に向き合うアクションプログラム『このゆびとまれっず!』の活動だ。2021年に始まり、今年で4年目を迎えるこのプログラムは、クラブを中心に支援者や賛同者を集め、社会に貢献することを目的としている。
クラブは、地域に根差すプロサッカークラブとして、地域の仲間たちと協力し、支援の輪を広げながら、共に未来を築くことを目指している。もちろん、クラブだけで課題を解決するのは簡単ではない。しかし、同じ志を持つ仲間が力を合わせれば、解決への大きな一歩を踏み出せる。こうした取り組みは、クラブと地域全体が共に歩む未来への希望となっている。
浦和レッズは、単にサッカーをするクラブにとどまらない。その理念には、地域社会と共に歩み、次世代に向けて豊かで持続可能な未来を築こうとする強い意志が感じられる。
『このゆびとまれっず!』をはじめとする取り組みは、地域との絆を深め、クラブの価値を高める重要な活動だ。今後も、こうした活動がさらに広がり、地域に喜びをもたらすだろう。
文=大西 徹
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