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横浜FMの未来を担う木村卓斗と榊原彗悟、それぞれの道を経てトップデビュー

2023.04.07

[写真]=J.LEAGUE

 横浜F・マリノスはYBCルヴァンカップのグループステージで初戦から3連勝を達成した。5日に行われた第3節の北海道コンサドーレ札幌戦は序盤に1点を先行されながら、2-1で逆転勝利。先発メンバーの構成なども含め、チームの総力戦で勝ち点3をつかみ取った。ケヴィン・マスカット監督は直近のリーグ戦から先発11人全員を変更して、フレッシュな面々をピッチに送り込んだ。中2日で8日に横浜FCとの“横浜ダービー”が控える厳しい日程が組まれているだけでなく、小池龍太や植中朝日をはじめ多くの負傷者を抱え、さらに札幌戦前日から当日にかけて体調不良者も出る緊急事態も大幅なメンバー変更という決断を後押しした。

 一方で、今季初出場や初スタメンとなった選手が多くいるなど、今後に向けてポジティブなチャレンジにもなった。特にマリノスのユニフォームをまとって公式戦初出場を果たした木村卓斗榊原彗悟にとっては、プロ選手としての大きな一歩を踏み出す試合になったはずだ。木村と榊原はマリノスのジュニアユースとユースで6年間共にプレーした同期で、2018年には主力としてJユースカップ優勝に大きく貢献した。榊原は10番を背負い、大会MVPも獲得した。しかし、同期から山谷侑士と椿直起が2019シーズンのトップチーム昇格を勝ち取った中で木村と榊原は昇格できず。前者は明治大学へ、後者はJFLのラインメール青森へと進み、別々の身を歩むことになった。その2人は4年の時を経て、今季から少年時代を過ごしたマリノスで再びチームメイトになった。それぞれの道で研鑽を積み、かつて叶わなかった夢を叶えて愛するクラブに戻ってきたのである。さらに、図らずも同じ試合でマリノスデビューを飾る。木村は5日の札幌戦に右サイドバックとして先発出場し、榊原は木村との交代で71分からニッパツ三ツ沢球技場のピッチに立った。


「卓斗と一緒にデビューできた。試合前にお互いに『感慨深いな』という話をしていたので、忘れられない日になったかなと思います」。ジュニアユース時代から苦楽を共にしてきた2人は、背番号も一つ違い。35番を背負う榊原が「忘れられない日になった」と語れば、34番を背負う木村も「中学校から一緒にやっていて、僕は大学で、彼はJFLで4年間切磋琢磨して、お互いに大好きなチームに戻るという強い気持ちを持って、今日一緒に出られたのは感慨深いです」と喜びを噛み締めていた。

 チーム内での立場はまだまだ厳しい。2人とも負傷で出遅れたのも痛かった。木村は昨年11月に左足を負傷しており、シーズン始動の段階ではリハビリからのスタート。全体練習に合流できたのは、宮崎キャンプが終わって横須賀市内の練習拠点に戻ってきてからだった。榊原も宮崎キャンプ中の練習試合で負傷し、シーズン開幕後にも小さな負傷で再離脱するなど、2人揃ってコンディションを整えるのに時間がかかった。そうなると戦術理解や、高い強度への適応もなかなか進まない。

 昨季のJ1リーグを制したチームにはすでに確固たる基盤があり、新加入かつ調整の遅れた選手が競争に加わっていくのは厳しい状況になっていた。榊原も「やっと慣れてきたなというのは練習で感じている」段階。編成上、紅白戦などには最も得意とするトップ下よりもボランチで使われることが多かったが、「最近は結構自分の良さを出せてきていた手応えがあった」ところでチャンスが巡ってきた。主力の小池龍太や松原健が負傷離脱している右サイドバックで初出場のチャンスを得た木村は、「いつチャンスが巡ってきてもいいように準備はしてきたつもりなので、今日に関しては本当に大袈裟かもしれないですけど、これが最後のチャンスくらいの気持ちで取り組みました」と明かす。それぞれに強い思いを持って臨んだデビュー戦だった。

 チームの勝利を追い求めると共に、自分の持ち味を発揮することもできた。木村は「大学の時もマリノスを毎試合見ていて、小池(龍太)選手や松原選手に比べたらまだまだ足りないですけど、自分の中では『こう動くんだ』というのを意識してずっと取り組んできた」と、特殊な右サイドバックの動きにも問題なく適応し、対人守備でも粘り強さを発揮した。足を攣って交代を強いられたことだけが悔やまれる。途中出場した榊原は、ボランチの位置でボールを積極的に呼び込んで試合のリズムを作る役割を果たした。惜しいスルーパスでスタンドを沸かす場面もあるなど、本来のチャンスメーカーとしての片鱗も見せた。

「ピッチに入る前は緊張しましたけど、入った瞬間のサポーターの方々の声援でいい意味でリラックスできました」と語った背番号35は、「スルーパスを取られてしまった場面は、通していかないと自分の良さは発揮できないし、自分の価値だとも思うので、そこはもっともっと練習から意識して取り組んでいけたら」と反省を口にしつつ、マリノスデビュー戦で確かな手応えを得ていた。

「守備の運動量や予測は自分の良さの1つでもあるので、そこはボランチでも活かせると思いますし、これからも変わらず出していきたい。やっぱり自分に求められているのは攻撃的なところだと思うので、ボランチでももっともっと前に顔を出せるような選手になれれば、もっと自分を表現できるし、自分の価値を見出せると思います」

 札幌戦のパフォーマンスだけで、チーム内の序列が大きく変わることはないだろう。リーグ戦で彼らに多くの出番が与えられるかといえば、それは難しいと言わざるを得ない。しかし、負傷者や体調不良者が多い現状を鑑みれば、8日に予定されている横浜ダービーで再びチャンスが巡ってきてもおかしくない。木村も榊原もチャンスに飢え、目の前の課題に真正面から向き合いつつ、競争に割って入っていこうと闘志を燃やしている。

「この先どうなるかはわからないですけど、チャンスが来るといっても、日々の練習で100%で取り組んでいないとこういった大一番の試合でパッと自分の力を出せないと思うので、日々の練習に全力で取り組むだけかなと思います」(木村)

「厳しい立ち位置だったとしても、ブレずにやっていけば、必ずチャンスがあると思います。そのチャンスをつかめるかは、日々の練習の成果による。もちろん悔しさはありますし、絶対に(試合に)出たいという気持ちはありますけど、やっぱりそういう(厳しい競争がある)世界だと思うので、そこで(気持ちが)落ちるか落ちないかで、これからもしチャンスが来た時の結果につながってくる。そういったところで落ちないのが自分の良さの一つだと思うので、ブレずにやり続けていきたいと思います」(榊原)

 厳しい立場に置かれていても、2人はポジティブな姿勢を崩さない。マリノスのサッカーが「本当に楽しいです」と語る榊原の笑顔に、彼らの充実ぶりがよく表れていたように思う。「(JFLから)いきなりJ1王者というレベルの高いところに来て、最初は厳しいこともあると思って覚悟していた」と激しい競争に晒されても、成長を実感できることが前向きでい続けられる要因の1つだろう。

「全てにおいてアグレッシブですし、自分の求めているサッカーともすごく一致しているので、やっていて楽しいですし、日々成長を感じられるので、もっともっと良くなっていくかなと思います」

「喜田(拓也)くんもナベくん(渡辺皓太)も本当に素晴らしい選手で、たくさん学ぶことがありますし、ジョエル(藤田譲瑠チマ)と(山根)陸も、年下ですけど世代別代表に入って、自分の持っていないものをたくさん持っている。うまく彼らのいいところは吸収しつつ、自分の良さを出していければ、争いに加わっていけると思うので、頑張っていきたいと思います」

 そして、木村や榊原の挑戦する姿はマリノスのアカデミーに所属する選手たちにとっても大きな励みになるのは間違いない。札幌戦では彼らも含め、6人のアカデミー出身選手がメンバー入り。最年長36歳の飯倉大樹から、最年少は19歳の山根陸まで幅広い世代の選手がトップチームで輝いている。

 小学生時代からマリノスに在籍していた木村が「幼い頃からお世話になったチームで、ずっとスタジアムで見ている側でしたけど、自分が実際にピッチに入って、サポーターの方の声援などで緊張は吹っ飛びました」と喜びを爆発させたように、トップチームで活躍することはアカデミーに所属する選手たち全員の目標だ。かつてマリノスユースで10番を背負った榊原は「現状、マリノスの育成組織から日本代表に選ばれている選手はあまりいない状況なので、マリノスとしてもそこを目指したいと思っているでしょうし、そこを意識してやっていければ」と、次なる大きな目標を掲げた。

 トリコロールの魂を受け継ぐ木村や榊原は、愛するクラブのトップチームで飛躍していくことができるだろうか。マリノスのエンブレムを胸に、横浜のプライドを象徴する選手へと成長していく未来を楽しみにしたい。

取材・文=舩木渉

 横浜F・マリノスは4月8日(日)、明治安田生命J1リーグ第7節横浜FC戦(19時キックオフ/会場:日産スタジアム)を開催。この試合は、ともに神奈川県横浜市をホームタウンとする横浜FCとの“横浜ダービー”。前回対戦は2021年、ホームでは5-0の快勝としたものの、アウェイゲームでは2-2の悔しい引き分けに終わった。2年ぶりとなる横浜ダービーも”絶対に負けられない一戦”となる。

 この試合では、選手入場時の演出としてスタジアムを暗転する「トリコロールギャラクシー」を、今シーズン初めて実施するほか、全長8m、高さ2mの巨大YOKOHAMAモニュメントが西ゲート前に登場。夜にはライトアップもされ、写真映えする事間違いなし!日産スタジアムを背景に、ぜひ記念撮影をお楽しみください。

 全エリアでの声出し応援が解禁となり、スタジアムには熱気があふれ、スタジアムの外には40台のキッチンカーが集まりグルメも充実。ピッチ内外で横浜の街を盛り上げます。ぜひ日産スタジアムへお越しください!

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