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風間八宏の改革が進行するセレッソ大阪アカデミー。その舞台裏に迫る

2021.12.03

C大阪アカデミーの風間技術委員長[写真]=Photoraid

風間氏考案の『スペトレ』とは

 2021シーズンからセレッソ大阪のアカデミー技術委員長に就任した風間八宏氏。就任当初に、「私が持っているノウハウを注いで、どこもやっていないことにチャレンジしていきたい」と意気込みを語ったが、『どこもやっていないこと』の一つとして『スペトレ』という特別なトレーニングを行っている。

『スペトレ』は年齢、性別を問わず、セレッソ大阪アカデミー全体の中から選抜された選手が一堂に会し、風間氏が直接指導するというもの。11月中旬に行われた第3回の『スペトレ』には、下は小学5年生から上は高校3年生まで47名が参加した。セレッソ大阪堺レディース/ガールズの女子選手8名も、男子に交じって練習に励んだ。


 この『スペトレ』に込めた狙いや意図について、風間氏は次のように解説する。

「『スペトレ』にはすべてが詰まっています。様々な年代の子が一緒にトレーニングするのは、それだけでスペシャルなこと。なぜかというと、すべてがいつもと違うから。普段のチームメートはいないし、自分より下の子も、上の子もいる。いろいろな種類のパスが来るし、体の大きさもみんな違う。だから、一人でいろいろなことを考える場所になると思います」

 この日のトレーニングに参加した選手の中で最も小柄なのは小学5年生の眞木琉之介くん。身長は136センチだ。一方で、セレッソ大阪U-18に所属する選手たちの中には180センチを超えるプレーヤーもいる。まだ体が小さい眞木くんは、フィジカルもスピードも圧倒的不利の中、どうプレーするのか。自然と自ら考えるようになる、というわけだ。もちろん、大きい選手にとっても難しさがある。小さい子の歩幅やスピードを考慮して、パスを出さなければいけないし、フィジカルコンタクトも工夫が求められる。

体の小ささを生かしながらプレーする小学5年生の眞木くん[写真]=Photoraid


「止める」「蹴る」といった基本技術に徹底的にこだわる風間氏だが、自ら考えることの大切さも強調するポイントの一つだ。

「個人の技術を伸ばすことはもちろん大事ですが、『スペトレ』のテーマを挙げるなら知恵をつけること。サッカーをするには3つの技術が必要です。頭を使う技術、ボールを扱う技術、体を動かす技術。その技術を養うため普段の練習から取り組んでいますが、『スペトレ』では普段の練習では経験できないことをやり、それを知恵として一人ひとりが身につけていってほしい。頭を使う技術は、答えが決まっているわけではないですからね。自分で考え、判断し、一人ひとりがより良い答えを見つけていけるように、練習メニューにはそういう意図を込めています」

 実際のトレーニングは、その言葉どおり趣向を凝らしたメニューばかり。初めて参加する子どもたちは戸惑っている様子も見られたが、それがあってこそ『スペトレ』に参加する意義がある。

 風間氏は技術を追求する点において妥協がない。女子選手でも、小学生でも、相手が誰であれ徹底的にこだわりながら熱を帯びた指導を行っている。その熱は当然、子どもたちにも伝わる。小学6年生の森伊織くんは「憧れの風間さんに指導してもらえて、うれしい! もっともっと技術をつけて、年上の選手にも通用する選手になりたい」と目を輝かせていた。

いい指導者を養成することが、環境面の向上になる

自らデモンストレーションを行い、練習の意図を説明する風間氏[写真]=Photoraid


 風間氏がアカデミー技術委員長に就任してから1年が経とうとしている。アカデミーの指導者を対象に「講習会」を頻繁に行うなど「指導者の育成」にも力を入れている。“風間イズム”の効果や影響について、育成部のスタッフは次のように証言してくれた。

「風間さんが来られたことで、セレッソのアカデミーが少しずつ変化している。それは間違いないです。特に、こだわる部分、追求する部分ですね。技術、正確性、スピードは徹底的にこだわりながら指導されている。風間さんから学んでいる指導者は、これまでの概念にないものに触れている、そういう感覚を持つ指導者もいます。それだけに、多少苦しんでいる者もいるはずですが、それはその分、多くの気づきを得られているということ。何より、風間さんの考えはブレることがない。指導者たちがしっかりと風間さんの考えを理解しながらやっていければ、アカデミー全体がいい方向に進んでいけるのかなと思います」

 風間氏は子どもたちの環境づくりが最も重要であると説く。それはグラウンドなどハード面のことだけを指しているわけではない。指導者を成長させること、指導者の目を揃えること(同じ指導理論や同じ評価基準を持つこと)が、いい環境を構築する上で欠かせない要素だと定義づけしている。

 C大阪の森島寛晃社長は風間氏を招へいした際、「育成型クラブとしてのさらなる発展と、お客さんを楽しませる選手を輩出していくため」と理由を挙げていた。

 風間氏の薫陶を受けた選手が、Jリーグのピッチで躍動する──。その日が来るのは、決して遠い未来ではないだろう。

取材・文=山本剛央

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