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Jリーグチェアマン 村井満「なぜJリーグはコロナ禍に立ち向かおうとするのか(後編)」…【連載|私たちがJリーグを支える理由 #8】

村井満 Jリーグチェアマン [写真]=Jリーグ

 Jリーグを支えるタイトルパートナー、トップパートナー企業のインタビュー連載「私たちがJリーグを支える理由」。第8回は、Jリーグのリーダーとして常に最前線に立ち、コロナ禍におけるJリーグの活動を力強く牽引してきた村井満チェアマンに話を聞く、その後編。

 「パートナーシップ」をテーマとするインタビューから、コロナ禍におけるJリーグとしてのスタンスや未来像、村井チェアマン自身の考え方や確固たる信念に触れる。

インタビュー・文=細江克弥

それぞれが持っている資産を再定義する

コロナ禍においてモジュール化が進む中、新たな価値創出や「シャレン! Jリーグ社会連携」に代表される社会連携も加速してきている
[写真]=Jリーグ

———コロナ禍におけるJリーグの取り組みや考え方についてお聞きしてきましたが、改めて今“パートナーシップの価値”についてどのようにお考えですか?
村井 スポーツには「プレーする」「観る」「支える」という3つの楽しみ方があり、その3者が揃わなければプロスポーツは成り立ちません。パートナーシップに直結する「支える」という言葉は、これまで“縁の下で”というイメージが強かったですよね。でも、コロナ禍においてはその環境が激変していて、いろいろなことが“モジュール化(要素分割化)”されていると感じています。例えば、空間。今まで簡単にはできなかった300人の大会議が、オンライン会議では簡単に実現できるようになりました。つまり、テクノロジーの発展によって、時間や空間をこれまでとは違った形で組み合わせることが可能になってきたのです。

 例えば、Jリーグアプリを利用したスタジアムでのチェックインに加え、入場制限がかかった試合もあるコロナ禍では、新たにDAZNでの中継を観てリモートチェックインができるようになりました。変化した環境においても、明治安田生命様をはじめとしたパートナー各社との新しいチャレンジに取り組んでいます。

 つまり「パートナーシップ」と言っても、立ち位置は今までのそれとは全く違うところにあり、むしろ“ほぼ主催者”のような立ち位置で活動をともにし、Jリーグの興行をプランニングしてくださっています。近年、Jリーグは「シャレン! Jリーグ社会連携」という活動に力を入れているのですが、これはパートナー企業とJリーグ、選手、クラブ、場合によっては地域ボランティアの皆様、ソーシャルセクターの皆様、行政のようなパブリックセクターの皆様、こういった人たちが、個々人が持っているモジュールを組み合わせながら社会課題の解決をしようとする試みであり、今ものすごくダイナミックに行われているのです。

———プロスポーツを支えるパートナーシップの価値観が大きく変わってきているのですね。
村井 今、まさに。スポーツを単なる“興行”としてではなく、スポーツという発信力をモジュールとして、新たな価値を創出しようとする動きが活発化しています。私自身、社会の人々やパートナーの皆さんが持っているノウハウを交換していく中で、様々な社会課題を解決できると確信しています。JリーグにおいてはJ1からJ3までの全57クラブが年間1万5,000回以上(2020年度)のホームタウン活動をしていますが、これは世界でも類がない大きなムーブメントです。特にコロナ禍においては、スポーツが持っている資産をどのように生かしていくかがとても重要であると再認識されていますし、期待されていると感じています。

———コロナ禍の窮地に立たされて知恵を持ち寄った結果、お互いの能力を集めて、それを社会と連携・連動させるというビジョンを、とても明確に持てるようになってきたということですね。
村井 そのとおりです。今まではそれぞれが持っている資源をそれぞれに利用し、市場で競争しながら「どうやって生き残るか」ばかりを考えてきた時代でした。それはプロ野球とJリーグの関係を見れば明らかです。国民にとって一番の人気スポーツはどちらなのかという観点で対峙してきた時間も長くありましたが、今、コロナ禍では野球にとってもサッカーにとってもコロナが共通の敵です。互いに解決しようとすることで発生する重複投資が社会的な無駄となってしまうことが分かっているからこそ、コロナに対しては一緒に専門家を呼んで学び、一緒に立ち向かいましょうという流れが生まれました。これはほんの一例で、同じようなことがいろいろな場所で起きていると思うのです。

 となると、大切なのはそれぞれが持っている“資産”とは何なのかを再定義することです。もちろんJリーグにとっても、私たちが持っている資産とは一体何なのかを考え直し、見つめ直す時間となったことは間違いありません。

同じところを回っているようで、着実に上へ

[写真]=Jリーグ

———協業によってパートナー企業に“主催者”となってもらう感覚は、これからの社会におけるプロスポーツが持つべき姿勢としてとても大切であると感じます。
村井 とても堅苦しい話に聞こえるかもしれませんが、ヘーゲルというドイツの哲学者が「社会は螺旋階段を上がるように発展していく」という主張をしています。つまり、上から見ると入り口も出口もなく同じところをグルグルと回っているように感じる。でも、横から見るとしっかり上へ上がっていると。

 日本社会には長屋の文化が息づいていて、長く一緒に暮らす者同士が「ちょっと醤油を貸してよ」と融通し合う、シェアリングし合う文化がもともとありましたよね。これがある時、「独立」を良しとする流れが来て一気に加速したわけですが、またある時からはシェアリングの文化が戻ってきつつある。でもそれは、グルグル回っているだけではなく、しっかりと積み上げていることの表れであると私は思います。

 江戸の芝居小屋にあった投げ銭の文化が、今、テクノロジーの発達によって復活していることはまさにその一例。そうしてグルグルと回る過程で自分の内面と向き合っていると、日本人の持っている良さ、日本社会の美しさに気づくことができる。これをいかに新しいパラダイムやテクノロジーに戻していくのかがとても大切なチャレンジであると、私はもう、ずーーっと考えてきました。

———そうやって自身の価値観を見つめ直してきた結果、Jリーグ、あるいはサッカーとして長屋の同居人に提供できる資産が思いのほか大きいことに気づいたということでしょうか?
村井 確実に大きくなってきていると思います。当たり前と言えば当たり前なのですが、健康で、生き生きとして日々を過ごすこと自体、人間が生きていく上でこれに勝るものはありません。その中で、体を動かし、汗をかいて競い合ったり、仲間を称え合ったりするスポーツというものは、スポーツ基本法においては「基本的人権」とまで言われていて、文字どおり生きていく上でなくてはならないものだと思うのです。

 それでいて、もちろん産業的な裾野の広さは計り知れません。食事や飲料、衣料、施設、行政、メディア、広告など、ありとあらゆる産業がスポーツとつながっている。そう考えれば、今、プロスポーツ団体としての私たちが社会に提供できる価値もまた計り知れないと思うのです。私がJリーグのチェアマンに就任した7年前と比較すると、その価値や重さは比べものにならないほど大きくなっていると感じています。

エゴイスティックな社会モデルに先行きはない

社会貢献できる存在であることが求められる今、Jリーグやスポーツが持つ本当の価値も再定義されようとしている
[写真]=Jリーグ

———当連載でパートナー企業各社の話を聞くにつれて、奇しくもコロナ禍をきっかけとしてJリーグとのパートナーシップにおける“未来”に対する具体的なイメージをそれぞれ持ち始めていることを感じました。また、それを社会に対する責任感や使命感のように語られることから、Jリーグとの結びつきがかなり密接であることも伝わってきました。
村井 そう感じていただけることは、私たちにとってとてもありがたいことです。企業やスポーツ団体、あるいは国もそうであると思いますが、あらゆる組織が「自分が良ければいい」と我欲を優先するエゴイスティックな社会モデルでは、もはや地球そのものの先行きが見えなくなってきている状況にあると私は思います。環境に対する配慮がなければ投資家もつかない。それが今という時代であると。

 かつて、社会貢献は企業にとって“必要なコスト”で、あくまでコストであるからこそ景気が悪くなれば予算規模が一気に縮小されてしまうというのが通例でした。つまり、ひと昔前は、余裕がある時に社会に貢献すればそれでいいという時代でした。しかし今は、本業そのものに社会貢献が含まれていなければ、消費者からも投資家からも相手にされません。これはものすごく大きな変革で、社会や環境に対する明確なアイデアを持って貢献できなければ、存在そのものが成り立たない社会になってきている。

———だからこそ、スポーツの価値が再定義される時代であるとも言えそうです。
村井 そのとおりです。スポーツというものは、それぞれの地域に暮らす国民の健康や豊かさを増進する環境テーマそのものであり、スポーツが実現する環境そのものが、健康を維持するために必要な「平和」の証明でもあると思います。スポーツを守ろうとすることは、企業が長期的に成長するために必要と言われる「ESG(環境・社会・ガバナンス)投資」そのものに直結するのです。

 これまでのスポーツ団体は「どうやったら入場者数を増やせるか」ばかりを気にしてきました。経済規模がどれだけ大きくなるかを競い合っていた時代もありました。でも、いよいよ世界のマーケットは自分たちがとても大きな社会的存在であることに気づき始めている。まさにその流れの中で、Jリーグの本当の価値が、これからどんどん世の中に普及していくと私は思っています。

スポーツ的なメンタリティーを持つ私たちの“出番”

[写真]=Jリーグ

———改めて、これからの時代に求められるパートナー企業との関係性、提供すべきスポーツの価値とは何でしょうか?
村井 私は先ほど「交換できる」という意味で「モジュール」という表現を用いましたが、パートナー企業様が持っているそれぞれの強みにはものすごく大きな価値があります。それはノウハウや資産、情熱、あるいは評判や“のれん”、ネットワークといった無形資産であるかもしれません。だからこそ、これからのパートナーシップは金銭と看板広告を交換するものではなく、互いが持つ様々な価値を交換することが本流となる。では、私たちはJリーグとして何を提供できるのか。

 例を挙げるなら、今回、ワクチン接種への協力にいくつかのクラブが手を挙げました。これから先、選手たちがワクチン接種に対する啓発活動をするケースも出てくることもあるし、そういう意味での発信力を提供することができるでしょう。先ほども申し上げたとおり、健康や体作りのノウハウはいくらでも提供することができます。パートナー企業の皆様においては、それぞれの資産やノウハウと私たちが提供できるものをうまく掛け合わせることで新しいものを生み出していただく。そういった“価値の交換”をダイナミックに行っていくことが、これからのパートナーシップであると私は思います。

———日本のサッカー文化は、ピッチ内外において主にヨーロッパを追いかける形で歴史を作ってきました。でも、現代社会に適応したパートナーシップという側面においては、もしかしたら世界に先駆けた新しい価値や常識を生み出せるかもしれないと、村井さんのお話を聞いてワクワクしています。
村井 その可能性は大いにあると思います。世界の先頭を走る可能性を秘めていると私は思う。テクノロジーとの親和性が高いこと、それから日本はその技術が本当に高く、デジタルリテラシーの高さにおいても世界トップレベルにある。そういう意味では、技術立国である日本という国の特長を最大限に発揮することで、スポーツのある側面を画期的に変えてしまう可能性さえ秘めています。

 1万5,000人収容のスタジアムには1万5,000人しか入れませんが、デジタル上の“Jリーグミュージアム”のような場所には、過去すべての試合動画がデジタル化されてストックされていて、いつ、どこで行われた誰かのプレーを、とてもシンプルな操作で誰でも見られるようになる日が来るかもしれません。それほど奥行きの広いサッカーミュージアムは世界のどこにもありません。

 あるいは、アバターとしてデジタルの世界で試合会場に行くことで、本当ならリアルの現場でしか買えない限定商品を買えるかもしれません。選手が着用したユニフォームを分解して、それを素材として作られたTシャツをファンの皆さんに着ていただけるかもしれません。ありとあらゆるサービスの時間や空間を取っ払って、突き抜けると、今まで見たことのなかったモノが見えてくる。Jリーグはすでにそういった部分に対する投資を積極的に進めています。

———転換期真っただ中にあるJリーグを、トップとして牽引する心情について教えてください。
村井 いや、もうね、ワクワクなんてもんじゃありませんよ。これだけ変化が激しく正解がない社会は、見方によっては「一寸先は闇」と捉えることもできるかもしれない。でも、逆に考えれば、そういう社会だからこそ何度でも失敗を繰り返して、それでも「また明日!」と切り替えながらチャレンジし続ければ必ず答えに近づけるし、それってサッカーそのものと全く同じであると私は思うのです。

 ピッチでは全く同じ状況なんて起こり得ないからこそ、勝負してみて、それで失敗してしまったらまたやり直せばいい。そういう社会であるということは、つまりスポーツ的なメンタリティーを持つ私たちの“出番”なんですよね。「ついに来たぞ!」という感じですよ。


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