神戸戦に先発出場したGK鈴木彩艶 [写真]=清原茂樹
指揮官が敗戦を機にGKを代えるというのは、サッカー界ではよくあること。だが、正守護神だった選手に高度なキャリアがあればあるほど、交代には踏み切りにくい。
しかしながら、浦和レッズのリカルド・ロドリゲス監督は大胆な行動に打って出た。5月1日のアビスパ福岡戦を0-2で落とした直後の9日・ベガルタ仙台戦。J1通算502試合出場を誇る34歳の西川周作を外し、18歳の鈴木彩艶をピッチに送り出したのだ。
2017年U-17ワールドカップ(インド)に飛び級選出された頃から「規格外」と評され、西川自身も「若くていい選手」と危機感を露わにしていた189センチの若きGKは、J1デビュー戦で2-0といきなり完封。次なる16日のガンバ大阪戦も3-0で勝利する。こうして一気にレギュラーをつかんだ状態で、新星は22日のヴィッセル神戸戦を迎えた。
すでに今季はYBCルヴァンカップ5試合を含めて公式戦7試合に出ていたが、世界的至宝のアンドレス・イニエスタや現役ベルギー代表のトーマス・フェルマーレン、W杯を2度経験している山口蛍、酒井高徳らハイレベルな面々の揃った神戸は別格。実際、序盤から押し込まれる展開を強いられた。
開始9分と15分には現役日本代表の古橋享梧に立て続けにシュートを打たれ、ヒヤッとさせられたが、鈴木彩艶は動じない。自身の前に陣取る槙野智章や西大伍といったベテラン勢のサポートにも助けられ、シュート10本を浴びせられた前半を無失点でしのぎ切った。
そして後半、浦和は田中達也の先制弾をきっかけに一気にリズムを取り戻す。そんななかにも同点に追いつかれそうなピンチはあった。最たるものが64分のイニエスタの決定機。途中出場の左サイドバック・初瀬亮の背後を回り、飛び出してきた名手が右足シュートを放った瞬間、背番号12をつけるGKは左手を思いきり伸ばしてセーブ。こぼれ球を拾ったドウグラスの2次攻撃も槙野が確実にブロックし、事なきを得たのだ。
「あまり(シュート)コースのない角度だったので、自分から動かないでボールに対応するようにして、うまく弾いたのでよかったです。ただ、あの距離感ではキャッチに行くのかもっと大きく弾くのかというところの判断が、これからの課題になってくると思います」
勝負の明暗を分けた1シーンをこれだけ冷静に分析できるのは、怪物である証拠。目下、スパイク契約を結んでいるアディダスが「彼は間違いなく日本代表の正GKになる逸材」と熱烈アプローチをかけたというのも頷ける。 後半最大のピンチをやり過ごし、協力助っ人FWキャスパー・ユンカーの追加点という後押しを受けた鈴木彩艶はこの日も2-0の完封勝利に貢献。Jリーグデビューから3試合連続無失点という95年の川口能活に並ぶ新記録を打ち立てた。
26年前の川口はプロ2年目の19歳。93年10月の“ドーハの悲劇”の時、ゴールマウスを守っていた松永成立(現横浜GKコーチ)からポジションを奪い、そのまま定位置を奪取し、同年Jリーグ年間制覇の原動力となった。翌96年にはアトランタ五輪でブラジルを撃破する“マイアミの奇跡”を起こし、97年に日本代表に定着。最終予選の修羅場をくぐり、98年フランスW杯初出場と凄まじい勢いでスターへの階段を駆け上がった。
鈴木彩艶は川口のJデビュー無失点記録樹立時より1歳若く、ステップアップの場である東京五輪も目の前に迫っている。本来であれば、今頃はU-20W杯(インドネシア)に参戦し、2024年パリ五輪を目指していたはずだったが、コロナ禍でU-20W杯が中止になった。それにより、むしろ成長のチャンスが前倒しになったと見ることもできる。
5月31日からは彼自身にとって初のU-24日本代表合宿に参加することになる。反町康治JFA技術委員長が「今回の活動は最終選考の意味合いが強い」と断言するように、ここで強烈なインパクトを残さない限り、東京五輪の大舞台には立てない。「初招集=生死を賭けたサバイバル」というのは、極めて過酷な状況と言っていい。
とはいえ、森保一・横内昭展両指揮官に繰り返し呼ばれてきたメンバーが大半を占める中、唯一、このタイミングで飛び級招集された彼には「絶大な期待」が寄せられているということ。仮に大迫敬介や谷晃正、沖悠哉といった面々を押しのけて滑り込みを果たせば、それこそ2022年カタールW杯も視野に入ってくる。若かりし日の川口が駆け上がった階段を彼自身も上り詰めることができるのだ。
「川口さんも若い頃からレギュラーとしてプレーしていたので、その時から落ち着きがあった。自分も若いからどうこうじゃなくて、落ち着きを持ってプレーできるようにしたいなと思います」
こう語る鈴木彩艶にとって川口の軌跡は生まれる前の伝説だろうが、歴史は塗り替えられるべきもの。2002年日韓W杯直後の8月に生まれ、日本の初戦・ベルギー戦の舞台となった埼玉スタジアムでプロキャリアを積み上げ始めた18歳の若武者の勝負はここからが本番だ。
文=元川悦子
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By 元川悦子


