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紆余曲折の末にたどり着いた夢の舞台…スペイン4部で昇格プレーオフに挑む丹羽大輝

セスタオ・リーベル・クラブでプレーする丹羽大輝

 昇格をかけた戦いというのは、世界中のどのリーグでもし烈を極める。アマチュア選手が大半を占めるスペイン4部と言えども、簡単な試合は1つもない。2021-22シーズンから新たな3部の発足が決まり、残留した場合には事実上5部での戦いを強いられるだけに、渦中のクラブの昇格意欲はひと際強い。

 その1つがセスタオ・リーベル・クラブ。かつて2部に所属し、昨季バルセロナを率いたエルネスト・バルベルデ監督も在籍したという名門だ。元日本代表DF丹羽大輝は今月から同クラブの一員になった。6日に登録手続きが完了し、10日のパシア戦でデビュー、16日のウルディリス戦で念願のフル出場を果たしたのだ。

「3部昇格は3チーム。すでに上位2チームは決まり、残された枠は1つ。セスタオは3位が確定し、ここから6チームでのトーナメントに入ります。3・4位は1試合シードされ、5月29・30日の週末に準決勝、6月5・6日の週末に決勝があり、勝てば昇格という流れです。2戦ともホームでできるのは大きなアドバンテージ。ラスト2戦で自分の未来も変わるので、全身全霊を込めて戦います」と彼は強い意気込みを口にした。

 幼少期からスペインサッカーに強い憧れを抱き、現役中の挑戦を熱望していた丹羽。プジョルのようなファイターとフェルナンド・イエロのようなクレバーな選手を輩出しているスペインで学び、両者を併せ持った存在になりたいと夢見ていたのだ。

 今回、それを実行に移した。2020年末まで過ごしたFC東京と契約満了になった後、他のJクラブからのオファーを受けながらも、迷わずスペイン行きを選択した。とはいえ、その段階では3部クラブから興味を示されただけ。正式契約できる保証はない。それでも「パパのサッカー人生は今しかない」という妻の言葉に背中を押された。貯金を取り崩しながら3人の子どもを1人で育てると決心してくれた妻のためにも、必ず成功しようと彼は誓ったのだ。

 向かった先はビルバオ。1月末まで練習参加したが、不運なことに丹羽を評価していた監督が解任され、契約には至らなかった。冬の欧州移籍市場が閉まり、2~3週間は空白状態に陥った。最初の代理人から離れ、別の日本人サポート役とともに身の振り方を模索したが、外国人枠が空いているクラブを調べる術もなく、まさに暗中模索だった。

 そんな時、近くに住む元代表仲間の乾貴士、武藤嘉紀らのツテを辿ってセスタオの会長と面識を持つことができた。「外国人枠も空いているからぜひ来てほしい」と言われ、喜び勇んで向かうと今度は就労ビザという重大問題に直面。丹羽も面食らうことばかりだった。

「セスタオには日本人選手登録手続きの経験はなかった。貴士やヨッチのエイバルの弁護士を紹介してもらおうと考えましたが、1部と4部では事務手続きやスピード感が微妙に違った。そこで日本人駐在員のビザ取得経験のある弁護士を見つけ、手伝ってもらいながら、クラブ幹部と一緒に書類を揃えた。領事館に申請し、何度もメールでコンタクトして、2週間後に承認の連絡を受けました」

「よっしゃー」と丹羽は喜んだが、よくよく書類を見てみると「発給は45日以内」と記載されていた。仮承認が下りただけだったのだ。

「正式発給は3週間後。すぐにそれをスペインサッカー協会に送ったら『このままでは登録できない』と連絡が来たんです。今回、僕は学生ビザで入国していて、就労ビザ変更は現地でできると聞いていた。だけど、結局、日本に戻らないとダメだと判明。ショックはあまりにもデカかった。隔離や自宅待機とかを考えたら、1カ月は戻ってこられない。プレーオフに出られるかどうかも分からないし、もう契約は白紙だろうなと諦めかけました」

 それでもセスタオ側は「待ってるから」と言ってくれた。そこまで信頼を寄せてくれる会長と監督には感謝しかない。丹羽は翌日に帰国し、手続きを済ませ、5月8日に練習合流。2日間の調整だけで公式戦に出場。ピッチに立った時は涙が出そうになったという。

「真面目に愚直に取り組んでいれば、言葉の通じない外国人も信じてくれるし、認めてくれるというのを今回のドタバタ劇で痛感させられました。僕はガンバ大阪を皮切りに6つのJクラブで18年プレーしましたけど、日本にいれば何事も周りがお膳立てしてくれるので、ここまでの出来事に直面することはない。本当に人間として、サッカー選手として試された4カ月間だったとしみじみ思います」

 契約は6月30日まで。セスタオが延長オファーをくれるかどうかも未知数だ。すべてはプレーオフの結果次第。だからこそ丹羽は今、前だけを見て、ラスト2戦で昇格請負人としてチームを勝利に導くしかない。

「今は4-4-2でやっていますけど、センターバック(CB)のコンビを組むのは同じ35歳のベテラン選手。お互いに経験豊富でやりやすいです。ただ、言葉も通じないし、J時代にやっていたように周りを考えたプレーや立ち振る舞いがしたくてもできないので、今は1人のフットボーラーとしてシンプルに挑戦してます。『スペイン・ゼロ年目』を自分なりに消化しつつ、昇格という結果を手繰り寄せるだけ。時計の針を半歩でも一歩でも進めることが今の自分にとって一番なんです」

 その言葉は古巣・G大阪にも向けられている。かつての同僚で先輩でもある宮本恒靖監督解任という激震に見舞われているチームに思いを馳せながら、「フットボールは次から次へとやってくるから、前進するしかない」とエールを送る。

 それはG大阪のみならず、FC東京など在籍した全クラブに対しての思いだろう。自分に関わってくれた多くの人々に感謝しつつ、丹羽は苦難を乗り越え、スペインで納得いくパフォーマンスを追求していくつもりだ。

「先のことは全くわからないですけど、できるだけ長くこの国でプレーして、ステップアップしていきたいですね」

 爽やかな笑顔をのぞかせたファイターは、異国で自らの道を力強く切り開くに違いない。

文=元川悦子


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