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【J1展望】今季の大テーマは「得点力の改善」…迷いなき集団は、自分たちのスタイルを貫く|鳥栖

2021.02.24

金監督は、開幕前の沖縄キャンプで「スピード感」のベースアップを図った [写真]=S.D.CO.’LTD.

 金明輝監督が初めてシーズンスタートから指揮を執った昨シーズン、チームは大きく変わった。それまでの堅守速攻から、守備では前線からの激しいプレス、攻撃ではボールを保持して相手を押し込んでいくようになり、攻守両面にわたって主導権を握るスタイルへのモデルチェンジに成功。新時代到来を告げる第一歩となるシーズンだった。どこが相手でも自分たちのスタイルを表現できた一方で、チームはリーグワースト2位タイの7勝、リーグ最多の15引き分けに終わった。その要因は、リーグワースト4位の得点力。その改善が、今シーズンに向けた大きなテーマとなった。

 開幕前の沖縄キャンプでチームがベースアップを図ったのは、「スピード感」(金監督)だった。「ゴール前に入っていくスピードやパワーを向上させ、チャンスの時には素早く攻めきる。そういうパスを入れ、危険なエリアに侵入していく」ことをテーマに取り組んだ。


 近年続く経営問題の影響から、昨シーズンの主力を含め多くの選手がチームを離れた。それでも、限られた予算の中でテーマであるスピード感に合致した選手たちを獲得。また、ファン・ソッコや仙頭啓矢などの実力者が「鳥栖のスタイルに魅力を感じた」と加入を決断したのも大きな要素だ。得点を奪うという作業は、個人の能力に依存するところが大きい。そして、そういった選手は当然ながら高額だ。鳥栖はそこに資金を注げないだけに、得点力増加を狙うには組織としてより多くのチャンスを作り出すことが必要になってくる。今オフは、その作業にフォーカスしている。

 指揮官は、沖縄キャンプの総括で「より走れるようになっているし、判断も早くなっている。攻守において、判断、走り、パスなどすべてのスピードを上げるということで今年もトライしている。去年よりも良い形はたくさん作れると思うし、得点もたくさん取れると思う。自信はある」と話しており、組織としてのアプローチには手応えを得ている様子だった。

 ゲームを支配しながら、決めるべきところで決めきれない。このウィークポイントに昨シーズンは苦しめられたが、今シーズンも同様に苦しむ可能性はある。だが、昨シーズン以上にチャンスを作り出そうと目論む金監督の個人に頼らない組織作り、チームとしての完成度の高さは十分に期待していいだろう。指揮官は「勝ち点50以上でまずは1桁順位。そこから結果的に、アジアの舞台を狙える位置まで行ければ」と、今シーズンの目標を設定した。慧眼と卓越した手腕を備える指揮官の下、自分たちのスタイルに選手たちも自信を持っているのが鳥栖の何よりの強み。迷いなき集団がJ1に驚きを与える可能性は十分にある。

【KEY PLAYER】40 朴一圭

ビルドアップの精度向上に取り組んでいる朴 [写真]=S.D.CO.’LTD.

 従来のGK像や概念を覆す、圧倒的なカバーエリアの広さ。朴一圭の加入は、鳥栖のスタイルをより洗練されたものへと引き上げた。横浜F・マリノスでも見せていたように、ハイラインのカバーに優れた朴が加わることでセンターバックもよりラインの押し上げに集中でき、試合終盤まで前線からのプレスを維持することが可能になった。朴加入前のチームは1試合平均1得点だったが、加入後は1.3得点に増加している。

 一方、課題だったのはビルドアップへの関わり方だった。後方での数的優位を確保しながら、ボールとともにハーフウェーラインを超えるのが鳥栖のやり方。横浜FM時代より、ビルドアップへの関与が求められる。その点において、朴は高丘陽平(現・横浜FM)と比べるとやや質に欠けていた。それは朴自身も認めており、現在はビルドアップの精度向上に取り組んでいる。

「相手を剥がすようなパス、置き去りにするようなパスをかなり意識して、練習に取り組んでいます。そこがガチッとハマれば、自分のところから一気に得点につながるようなパスがたくさん生まれてくるんじゃないですかね」と自信をのぞかせる。チームとしてチャンスを増やすことで得点増加を目指す鳥栖にとって、守護神の進化はスタイルをさらにソリッドなものにしてくれるはずだ。

文=杉山文宣

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