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ルヴァン杯制覇の“影のMVP”…33歳で新境地を開拓したベテラン・森重真人

ルヴァンカップ決勝でアンカーを務めた森重真人 [写真]=三浦彩乃

「ACL(AFCチャンピオンズリーグ)で森重(真人)をアンカーにコンバートして、それからチームが安定し、攻守両面で落ち着いたゲーム運びができるようになりました。ルヴァンカップ決勝は波多野(豪)の失点以外は全部ハマった。相手のストロングをケアしつつ、自分たちのストロングを出すことをやってくれたと思います」

 1月4日に東京・新国立競技場で行われた2020年JリーグYBCルヴァンカップ決勝。新型コロナウイルス感染拡大の中、2万4219人の大観衆を熱狂と興奮に包んだのは、2-1で柏レイソルを下して11年ぶりのカップ戦王者をつかんだFC東京だった。長谷川健太監督がしてやったりの表情を浮かべた通り、青赤軍団は持てる力のすべてを出し切り、悲願のタイトルを手にした。

 先制弾を挙げたレアンドロがMVPに輝いたが、影のMVPは森重だったと言っていい。「柏戦のポイントはオルンガ、クリスティアーノ、江坂のホットライン。そこを止めることが最重要テーマ」と指揮官が名指しで警戒した1人である江坂に全くと言っていいほど仕事をさせず、3人の連携を巧みに寸断。守備で大きな働きを見せるだけでなく、攻撃の起点としても存在感を示した。

 終盤には足が釣って動けなくなりかけたが、気力でプレーを続行。6分間の長いアディショナルタイムには、あえてロングボールを外に蹴り出して時間を稼ぐ老獪さも披露する。卓越した戦術眼と駆け引きを要所要所で発揮し、長谷川監督体制初の栄冠を引き寄せたのだ。

「昨年(2019年)リーグ戦で最後に優勝を逃してしまったので、健太さんの期待に応えたいという気持ちがずっとあった。監督に1つタイトルをプレゼントできたのは個人的にもよかったと思います」

 安堵感をのぞかせた森重にとっては、FC東京での2度目のタイトル。前回は2012年正月の天皇杯だから、もう9年も前である。当時は24歳で、羽生直剛や今野泰幸ら年長者に引っ張られる形の優勝だったが、今回は33歳のベテランとしてチームをけん引する役割を担った。

 しかも、2020年シーズンのFC東京は、超過密日程真っ只中の夏場に橋本拳人、室屋成が海外移籍で抜け、キャプテン・東慶悟も負傷で長期離脱してしまった。それだけに、森重に託されるものは非常に大きかった。彼自身も「自分がやらなければいけない」という思いを強めたが、リーグ戦は徐々に順位を落とし、ACLもラウンド16の壁を破れなかった。だからこそ、ラストチャンスのルヴァンカップは絶対にモノにしたかった。

「いやあ、本当に長かったなというところですかね。試合が終わって優勝できたことは本当に嬉しかった。決勝で負けるのだけは嫌だったんで」と悔しさを何度も味わってきた男は優勝の味を改めて噛み締めた。

 今季の森重が大いに輝いた要因を挙げるなら、1つは冒頭の通り、アンカーへのコンバートではないか。橋本が去り、高萩洋次郎や品田愛斗らの起用もなかなかうまくいかなかった11月、彼が一列前に抜擢されることになった。広島皆実高校から大分トリニータ入りしたころはボランチを本職にしていたし、FC東京に移籍してきた当初も中盤に入ることがしばしばあったが、長谷川監督になってからは初のチャレンジだった。

「純粋に楽しいですね。新しいポジションをやれるのはポジティブなこと。疲れるまでは楽しいです」と本人は運動量が増えること以外は問題ないというスタンスだった。確かにアンカーの方が攻撃に絡む回数は増えるし、自らがゴールに向かうこともできる。もともと攻撃的な仕事が大好きな彼にとっては“天職”なのかもしれない。

 もう1つはベテランの自覚だ。8月にはU-18日本代表時代からともに戦い、2014年ブラジルワールドカップにも一緒に参戦した同い年の盟友・内田篤人が引退。12月には1つ年下の吉本一謙、3つ上の徳永悠平が今季限りでユニフォームを脱ぐことを発表した。

「自分はこの年齢になってもサッカーができていることを感謝したいし、まだまだ第一線でやりたい。自分らベテランも『まだまだできるんだ』『必要とされているんだ』という価値を見出していかないといけない」と森重自身は仲間の分まで戦い続ける覚悟を示していた。

 こうしたさまざまな思いが絡み合って、ルヴァン決勝での好パフォーマンスにつながったのだろう。岡崎慎司や中村憲剛のように30代に突入してから一段階上の領域に到達した選手は何人かいるが、森重もその1人ではないか。年齢を重ね、経験を積み重ねれば積み重ねるほど、老獪さとクレバーさに磨きがかかってきている。若い頃は荒々しい性格で、イエローカードをもらう回数も多かったが、精神的にも安定し、つねに高いスタンダードのプレーができるようにもなった。そういう成長曲線を辿る選手も実際にいるのだ。

 ゆえに、34歳になる2021年シーズンは楽しみだ。長谷川監督がアンカーで起用し続けるのか否かはまだ分からない。青木拓矢の加入もあって再びセンターバックに戻る可能性もある。流動的な状況の中、大ベテランの森重がどのような変貌を遂げていくのか。彼の一挙手一投足が悲願のJ1制覇を左右すると言っても過言ではないだけに、目が離せない。

文=元川悦子

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