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円熟味を増す稀代のテクニシャン・清武弘嗣…芸術ループで首位追走の立役者に

2020.09.14

横浜FM戦で鮮やかなゴールを決めた清武弘嗣 [写真]=大木雄介

 前半から横浜F・マリノスに一方的にボールを支配され、後半立ち上がりの52分にエリキに先制点を許すなど、苦境に追い込まれていた13日のセレッソ大阪。しかしその6分後、背番号10をつける清武弘嗣が電光石火の一撃をお見舞いした。

 右の坂元達裕からの横パスを受けた瞬間、「GK(梶川裕嗣)が前に出ているのを前半から見ていたし、タツが持った瞬間もそうだった」という鋭い戦術眼で芸術的右足ループを披露。「チームのやるべきことに個人の質が加わると、ああいう素晴らしいゴールが生まれる」とロティーナ監督も絶賛する清武らしい高度なゴールですぐさま同点に追いついた。奇しくも同日、リーガ・エスパニョーラが開幕し、久保建英と岡崎慎司が直接対決を繰り広げたが、いつでもその舞台に戻れるのではないかと思わせるほど、大いなる輝きを彼は放っていた。


 重要な仕事はそれだけではなかった。今季4点目となった同点弾から6分後、背番号10は守備陣の背後に抜け出そうとした片山瑛一に少しタメを作ってから優しいタテパスを供給。次の瞬間、伊藤槙人がたまらず片山を倒して退場処分となり、相手を数的不利へと追い込んだ。C大阪はここからじわじわと相手を消耗させ、ラスト4分のところで坂元の鋭い切り返しから高木俊幸が決勝点をゲット。ギリギリの過酷な試合を勝ち切り、川崎フロンターレの独走に待ったをかけたのだ。

「キヨはキャプテンでリーダー。プレー面で落ち着かせるだけではなく、ゴールも決めていて、チームの模範になっている。彼のプレーには満足しているし、継続的に仕事をすることがチームにいい効果をもたらしている」と指揮官も清武には絶対的信頼を寄せている。東京ヴェルディ時代は個々のポジショニングに厳格だったロティーナ監督も「キヨはクオリティが違う」と臨機応変かつ流動的なプレーを認めているほどだ。

 本人もそれを理解したうえで、ベストな判断を心掛けている。この横浜FM戦では「蹴っても拾われるなら頑張ってつなごうと。僕自身も勝手に立ち位置を変えて、少し引いてゲームを作るようにしてました」と発言。「戦術・清武」とさえ言われたハノーファー時代のようなイキイキとしたプレーでチームに活力を与え、逆転の原動力となったのだ。

 ロティーナ体制2年目の今季は「絶対優勝」と公言する。その根底にあるのは、復帰4年目となるC大阪への恩義ではないか。2017年1月にセビージャから復帰してからというもの、彼は肝心なところでケガを繰り返し、苦い思いを味わってきた。2017年は味方の“援護射撃”もあってJリーグYBCルヴァンカップと天皇杯の2冠を取れたものの、2018・2019年と無冠。悲願のリーグタイトルには手が届いていない。長年の盟友・山口蛍や杉本健勇もチームを去り、柿谷曜一朗も本来のゴールセンスを発揮しきれていない今、清武は「自分がやらなきゃいけない」という思いを強めているに違いない。

 指揮官との信頼関係も自信につながっている。スペイン人指揮官が就任した1年半前、清武はポジショナルプレーの難易度の高さに戸惑っていた。「今までは下がってボールを受けてリズムを作るのが自分のスタイルだったのに、それができない。自分のエリアでボールを待ち続けるというのは忍耐がいる」と苦悩を打ち明けたこともあった。それから長い時間が経過し、チームは確実に成熟度を増した。都倉賢も「守備組織の基盤作りから始まって、チームのフェーズが第2章から第3章くらいに入っている」と話すように、全員がオートマティックに動いて相手を跳ね返せる状態へ進化を遂げている。そのうえで、清武も自身の個人能力を遺憾なく発揮できる状態になっている。だからこそ、横浜FMに攻め込まれても「焦ることはなかった」と言い切れたのだ。

 もう1つのモチベーションの源は、引退した内田篤人が指摘した「日本と世界の差は広がっている」という言葉だろう。内田には日本代表やドイツ時代から可愛がられ、ケガをするたび一緒にリハビリしていた。2018年ロシアワールドカップ前も「キヨはケガが治ればまたプレーできるんだから頑張れ」と励まされていた。その尊敬する先輩があえて発言したことを、誰よりも重く受け止めているのだ。

「篤人君は世界を肌で感じている。ホントにそれは正解だと思うし、日本サッカー、Jリーグを世界に近づける努力をしないといけないと思ってます。そのために必要なのは強烈な個。どんな局面でも個で勝てる力っていうのは世界で戦ううえで不可欠です。今、僕の中で日本人でパッと名前が挙がるのは久保(建英)君くらい。そういう選手がどんどん増えていって、塊になって11人で戦うのがサッカー。そこは足りないと思いますね」

 そうやってかつてプレーしたドイツやスペインをつねに脳裏に描きながら、日々の戦いに挑んでいる清武。彼の一挙手一投足がスタンダードになれば、C大阪、そしてJリーグのレベルも確実に上がるはずだ。

 その意識の高さをピッチ上で示し続け、悲願のタイトルを獲得すること。それが30歳の清武弘嗣に課せられた使命と言っていい。むしろ30代になって円熟味を増した稀代のテクニシャンには、この先も見る者をワクワクさせ、結果を出し続けてほしいものである。

文=元川悦子

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