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プロサッカークラブが未来のために支援を募った想いとは?

横浜F・マリノスを迎えた再開初戦、スタンドは浦和レッズカラーで彩られた

 新型コロナウイルス問題がスポーツ界に影を落とすなか、サッカーも例外ではなく、浦和レッズの経営も大きな打撃を受けている。

 2月下旬から6月いっぱいまで中断されていたJ1リーグは、7月10日から観客を迎えての試合ができるようになったが、上限は今なお5000人。「収容人員の50パーセント」の来場者を迎えられる日がいつになるか、いまだはっきりしない。 

 そんななかで、浦和レッズが6月20日にクラウドファンディングを開始したことは大きな反響を呼んだ。開始から2週間あまりの7月7日に目標額である1億円を達成したこの取り組みは、現在1億2000万円に近づき、8月31日の締め切りまで残りわずかとなっている。

 それにしても、9年連続で黒字を計上するなど、経営面でJリーグの優等生として知られている浦和レッズが、“自分たちのためのクラウドファンディング”を開始したことは各方面を驚かせるに十分だった。2019年度には営業収入がクラブ史上最高の82億円を突破しているのだから、「それでいてクラウドファンディングをやるのか?」、「そんなにひっ迫しているの?」という声が出るのも不思議ではない。

 では、浦和レッズはなぜクラウドファンディング開始に至ったのか。その経緯をクラブに取材した。

 クラブ内で最初に動きがあったのは、Jリーグが中断に入っていた3月のことだった。先行きが不透明になるなかで、収入と支出に関わるプロジェクトチームが発足し、数ある施策の1つとして打ち出したものがクラウドファンディングだった。

 実は3月の時点では、「J1とJ2のクラブが、自らクラウドファンディングの実行者となって資金集めを行っているケースはなかった」(浦和レッズ担当者)という。

 しかし、背に腹はかえられなかった。なにしろ浦和レッズは、営業収入に占める入場料の割合が30パーセント前後とJクラブの中で断トツに多く、毎年ほぼ20億円を超えている。広告収入の伸びによってクラブ史上最高収益を記録した2019年も、営業収入82億円に対して入場料収入は23億円だった。

 3月、4月と時間が進むにつれてJリーグの中断期間がどんどん延長されていき、また、再開してからも入場者数には厳しい制限がつけられることが避けられない状況が予想されていくなかで、浦和レッズは腹をくくった。担当者はこのように語る。

「最終的には経営危機だから助けてくださいということを、包み隠さずストレートに出すことにしました。勇気のいる訴え方でしたが、ピンチに直面している今だからこそ、ファン・サポーターのみなさまにクラブの現状を正直にお伝えすることが重要であると判断したからです。もっと経営努力をせよという声があるのは承知していますし、新たな収入を増やし、支出を削減する努力はもちろんやっています。そのうえでクラウドファンディングをやることに決めました」

 ただし、やるからには、クラブ全体で取り組むことが不可欠だと考えた。ファン・サポーターから直接的に経営資金を募るには、クラブが文字通り一丸となる必要があると考えたのだ。当初はクラウドファンディング開始にクラブ内の異論がゼロではなかったなかで、プロジェクトチームを大きく後押ししたのが、トップチームの選手たちだった。彼らが自発的にクラウドファンディングに協力しようと声を上げてくれたのだ。

浦和レッズ

 チームキャプテンの西川周作にはピッチ内での役割を任せ、クラウドファンディングでは槙野智章宇賀神友弥、副キャプテントリオの鈴木大輔長澤和輝関根貴大がプロジェクトチームのミーティングに参加してアイデアを出すようになった。また、鈴木大輔は練習開始前の時間にトップチームの選手たちを集めて趣旨を説明するなど、それぞれが積極的に動いた。

 すると、選手側からクラウドファンディングのリターンのアイデアも次々と生まれた。大槻毅監督をはじめとするコーチングスタッフ、浦和レッズレディース選手、アカデミースタッフや土田尚史スポーツダイレクターからも寄せられた。コロナ禍ということで、選手が支援者と直接触れ合うことができないことには、忸怩たる思いが募ったというが、すでに実行されたリターンは、さすがの好評ぶりだった。

 7月31日、阿部勇樹興梠慎三が10組の子供たちとオンラインで触れあったリターンでは、選手が子供たちと“秘密の約束”をかわす場面も。トークの時間を楽しむだけにとどまらない特別なプレゼントに、子供たちは最後まで笑顔いっぱいの時間を過ごしていた。

浦和レッズ

「イベント終了後には、『親子共々楽しみにしていましたが、想像していた以上に楽しませていただきました。子供たちの心に残る貴重なお話も聞けて良かったです』、『子供2人は大興奮でした。親も含めて、とても楽しい時間を過ごすことができました。阿部、興梠両選手には真摯にご対応いただき、本当にうれしかったです』など、一部参加者からお礼のご連絡をいただき、非常に喜んでいただけたこと、選手に協力してもらい浦和レッズの理念に通ずる活動ができたことがうれしかったです」(浦和レッズ担当者)

 今回のクラウドファンディングの運営会社『READYFOR』は、2011年に日本で初めてクラウドファンディングサービスを立ち上げ、これまで1万件以上のプロジェクトを取り扱ってきた実績を持つ。年々成長を遂げてきた同社にとっても、浦和レッズと手を組むことは大きな意味があったという。同社の担当者はこのように語る。

「今年は、新型コロナウイルス問題が拡大および長期化していくにつれて経営難に陥ったり、資金繰りが厳しくなったりする会社が激増しました。そのなかで、プロサッカークラブの“リーディングカンパニー”である浦和レッズが先陣を切るような形で『自分たちのためのクラウドファンディング』を開始しました。これは、他チームの背中を押すことにつながったのはもちろん、スポーツ界全体に影響を及ぼしたと考えています」

『READYFOR』では約6000万円を集めたケースが最高額として昨年まで8年間、トップを維持してきた。この間は、5000万円を突破するケースが1年に一度出るか出ないかという規模で推移。ところが今年はケタが一気に変わった。

 2020年の最高額は『READYFOR』自身が運営に携わっている「新型コロナウイルス感染拡大防止活動基金」で、7億2646万円。これを除くと、現在のところ今年の第1位は、鳥取県が行った「クラウドファンディングみんなで応援『とっとり券』プロジェクト」の2億4706万円。2位は特定非営利活動法人ジャパンハートが行った「【#マスクを医療従事者に】あなたの拡散や寄付が医療の力に」の1億5397万円。そして3位は、鹿島アントラーズと鹿嶋市が組んでふるさと納税型として募った「鹿島アントラーズクラウドファンディングプロジェクト」の1億3090万円となっている。

 ケタが1つ増えたのは金額だけではなく、支援者の人数も同様だ。そのなかでも浦和レッズのクラウドファンディングは支援者が現時点で7000人近くに達しており、非常に数が多い。さらに、浦和レッズの場合は、寄せられる応援コメントにも特徴があるという。

浦和レッズのクラウドファンディングが、リターンの物やサービスを売ることを目的としているのではなく、クラブ経営の資金となるということが、しっかりと理解されていると感じます。その理由の一つは、支援者からいただくメッセージの中に『ともに』というワードが入っているケースが約800件、『乗り越えよう』というワードが約300件入っているからです。支援者の気持ちが言葉に表れていて、一体感が外から見ても分かります」(REDAYFOR)

 クラウドファンディングは8月いっぱいで締め切られ、その後はリターンに関する膨大な対応を行っていく。クラブスタッフにとっては大わらわな日々が続いていきそうだが、表情にはやる気がみなぎっている。今回のクラウドファンディングを通じて、チームを含めたクラブ内全体が一丸となったこと、そしてクラブと支援者が一丸となったことへの充実感と感謝の思いがあるからだ。「支援者のみなさまから非常に温かいメッセージを多くいただいております。一つひとつのコメントはしっかり見ています。ご支援いただいたみなさまにクラブとして恩返しをし続けなければならない、そんな思いです」(浦和レッズ担当者)

浦和レッズ

 7月4日の横浜F・マリノスとのJ1リーグ再開マッチ。埼玉スタジアムはクラウドファンディングを活用してスタンドに装飾を施して試合を行った。無観客での試合だったが、6万以上の座席が浦和レッズカラーに染め上げられた光景は見事なまでに美しく、「感動した」との声が多く寄せられた。

 クラウドファンディング。それは浦和レッズにとって、改めてファン・サポーターとの絆やクラブの存在価値を実感する貴重な気づきの場でもある。

文=矢内由美子

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