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世代交代はまだ先…台頭する若手GKの前で存在感を示した守護神・西川周作

2020.08.16

広島戦で完封勝利に貢献した西川周作 [写真]=清原茂樹

「(前節の名古屋グランパス戦で)6失点した後っていうのは周りからも注目されるし、自分たちがどうアクションを起こすかというのも1つのポイントだった。このままズルズル行くか、勝って上に行くのかを左右する本当に大事な試合だったし、何としても勝ちたかった。どんなにボールを握られたとしてもみんなで守り切れば、粘り強い試合ができる。本当に勝ててよかったです」

 19時開始のナイトマッチにも関わらず、気温33度超の猛暑に見舞われた15日の埼玉スタジアム。浦和レッズはサンフレッチェ広島に7割近くボールを支配されながら、前半開始早々の5分にレオナルドが決めたPKの1点を守り切って3試合ぶりの勝利を挙げた。


 悪循環を断ち切る原動力になったのが、34歳の守護神・西川周作だ。古巣・広島に打たれたシュートは自分たちの約7倍に当たる20本。相手エースのレアンドロ・ペレイラには、17分にお見舞いされたヘディングに始まり、前半だけで3度の決定機を作られた。それを鋭く正確な反応で防ぎ、後半もハイネルや森島司、途中出場の東俊希の得点機を阻止し続けた。

 城福浩監督は「ネットを揺らせなかったことが悔しい」と失望感を露わにしたが、それも西川という絶対的存在があってこそ。崖っぷちに立たされていた大槻毅監督も頼れるキャプテンに救われたと言っていい。

「一番難しかったのは1本目のペレイラのヘッド。自分が移動する逆方向にシュートが飛んできたけど、いいタイミングでしっかり守れたかなと思うし、あのシュートで乗ることができた。率直に嬉しいですし、今日は勝ったので、笑わせてください」

 西川は久しぶりの爽やかな笑みをのぞかせた。しかしながら、新型コロナウイルス感染拡大で4カ月もの中断期間を余儀なくされ、十分なトレーニングを積めなかった今季は、ひときわ強い危機感を抱きながらピッチに立っているのも事実だ。

 とりわけ、広島のゴールマウスを守っていた21歳の大迫敬介筆頭に、若い世代のGKが続々と頭角を現していることは、彼の闘争心を煽る要因になっている。J1全体を見渡しても、清水エスパルスの梅田透吾、鹿島アントラーズの沖悠哉、ベガルタ仙台の小畑裕馬ら20歳前後の選手が台頭。FC東京でも22歳の波多野豪が定位置をつかんだ格好になっている。

 ともに日の丸も背負ってきた同世代の林彰洋がベンチに追いやられたのは、西川にとっても他人事ではなかったはず。仮にこのまま浦和が停滞し続けたら、自分も将来を嘱望される17歳の怪物・鈴木彩艶にポジションを奪われてしまうかもしれない……。そんな危惧も少なからず抱いたことだろう。

「今年は少しルールも変わって『降格なし』になったんで、ベテランの選手はより一層頑張らないといけない。僕が監督だったら『若手を使うチャンスだな』と考えますから。まだまだ若手には負けられないので、より危機感を持ちながらトレーニングを積んでレベルアップしなければいけないと思ってます」

 緊急事態宣言が出され、クラブが活動休止に追い込まれていた4月。西川は偽らざる胸の内を吐露し、ランニングや筋トレ、体幹強化などできる限りの自主トレに勤しんでいた。実際、浦和も大槻体制発足以降は広島時代から共闘してきた槙野智章や柏木陽介の出番が減少。一気に若返りが進みつつある。その流れに飲み込まれず、この先も正守護神として君臨し続けるためには、勝利に直結する仕事をするしかない。この日の彼からはそんな気迫が強く感じられた。

西川周作

[写真]=清原茂樹

「西川選手とは同じピッチに立ってるんで、普段聞こえないような声が僕のところまで聞こえましたし、GKとしての存在感、チームを引っ張る存在感は90分通して物凄く感じました。そういったところは学んでいかないといけないと思います」と13歳年下の大迫は神妙な面持ちでコメントしていたが、やはり経験豊富なベテランは要所要所でチーム全体を鼓舞し、守備の意思統一を図るための声を確実に出せる。そこは特筆すべき点と言っていい。

 とりわけ、この日のようにピッチに立っているだけで息苦しい猛暑の環境下では、最後尾からの的確な指示は必要不可欠だ。関根貴大も「こういう(一方的に攻め込まれる)内容の試合になるのはよくないけど、そんな時ほどコミュニケーションが大事になる」と話していたが、その大仕事を西川がしっかりと果たしてくれたからこそ、浦和は最後まで崩れずに勝ち点3を奪うことができた。この広島戦は誰もがベテラン守護神の凄みを再認識する好機になったことだろう。

 これで勝ち点17の暫定6位と上位に踏みとどまったが、再開後9連勝の首位・川崎フロンターレとの差は11とまだまだ遠い。しかも広島戦のような内容のサッカーをしていたら、さらに上を目指すのは難しいだろう。まずは西川中心に強固な守備組織を構築することが先決だが、攻撃のテコ入れも考えなければならない。4試合連続ゴールのレオナルドの速さ、間もなくケガから復帰するであろう興梠慎三の決定力を最大限生かすためにも、ベテラン守護神の類まれなフィード力をより生かしていくことも重要だ。

 いずれにしても、西川周作のパフォーマンスが今後の浦和の命運を左右するのは間違いなさそうだ。彼自身、まだまだ世代交代を許すつもりはない。

文=元川悦子

By 元川悦子

94年からサッカーを取材し続けるアグレッシブなサッカーライター。W杯は94年アメリカ大会から毎大会取材しており、普段はJリーグ、日本代表などを精力的に取材。

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