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安心、安全なスタジアムを。観客動員再開を迎えた名古屋グランパスの取り組み

2020.07.31

[写真]=N.G.E

 新型コロナウイルスの影響で中断していた明治安田生命Jリーグが約4カ月ぶりに再開。リモートマッチ(無観客試合)を経て、7月10日から「超厳戒態勢時」の制限の下、観客を迎えた試合が始まった。

 チーム内に新型コロナウイルス感染者が出るなど、コロナ禍の影響を受けた名古屋グランパスは、7月18日に豊田スタジアムでサガン鳥栖と対戦。J1リーグ戦再開後初の有観客試合開催となったこの日を、クラブはどのように迎えたのか。「来場者に安心、安全に試合を楽しんでもらう」(運営スタッフ)ための取り組みを取材した。


 メディア受付で検温や消毒、過去2週間の体温を提出して受付を済ませ、まずは入場ゲートに足を運んだ。入場待機列では距離の目安としてカラーコーンが並べられ、密にならないよう、常にスタッフが拡声器を使用して注意をうながしていた。また、入場時には検温や消毒が実施され、チケットのもぎりは来場者自身で行い、手荷物検査は目視で確認するなど、Jリーグのガイドラインで定められた感染拡大防止策が取られていた。ここで来場者の声を聞くと、「スタジアムに来られることを心待ちにしていたので楽しみ」、「人が少なくて多少違和感があるけど、この雰囲気が懐かしい」とやはり喜びの意見が多く、ワクワクしていることが表情からも見て取れた。中には「感染リスクに対する心配があったのでチケットを買うか迷った」と来場前に不安を抱いていた来場者もいたが、「実際に来てみたらしっかり対策しているので安心した」とクラブの取り組みに安堵している様子だった。

 新たな観戦様式やチケットの販売様式については、「最初はいまいちわからなかった部分が多かった」と戸惑いを感じていた方も少なくない。特にチケットに関して、「状況が変わっていく中で販売スケジュールがどうなるか心配だった」、「収容制限や席の間隔を空ける決まりがある中で、席種がどう変わるかわからなかった」など不安を抱いていた方が多かったようだ。しかし、「クラブがSNSなどで発信してくれたのでタイムリーに情報が入ってきた」とクラブの発信がスピーディーでわかりやすかったと語り、クラブの発信によって当初抱いていた不安が解消されたという方も多かった。

「超厳戒態勢時」の会場運営についてスタッフに話を聞いた。「一番は『安心、安全に楽しんでいただくこと』。安心、安全に過ごすことが大前提になっている中、息苦しさを感じずにスタジアムを楽しんでいただきたいという想いで取り組んでいます」。また、ボランティアスタッフの一人はこう語る。「フェイスシールドとマスクを着けると暑いですし、距離を取って案内するなど慣れない部分もあります。ただ、来場者の方に安心して楽しんでいただくためと思えば苦ではありません」。会場運営に携わる全員が「安心」や「安全」を提供できるようにという想いを持っているようだった。

 また、今回は普段開放していない、スタジアムの入場ゲート近くにある駐車場の駐車券を販売するとともに、駐車場シェアサービスを運営するパートナーのakippa株式会社と連携し、スタジアム周辺に約800台分の予約制駐車スペースを確保した。こうした取り組みについてチケット担当者は「公共交通機関での移動に不安を抱える方が多いため、人との接触機会を減らし、快適にアクセスできるようにした」と話す。これに対して駐車場を利用した方は「電車移動だったらスタジアムに来なかったと思います。(駐車券の販売があって)安心して来られました」と、クラブの取り組みにより安心感を持って会場に訪れたと語っている。

 スタジアムでの楽しみは試合だけではない。スタグル(スタジアムグルメ)やグッズも楽しみの一つだ。そんなスタグルやグッズの販売も今回の試合から再開。「ディスクマーカーなどを使用したソーシャルディスタンスの確保」、「マスク、手袋の着用」、「飛沫防止シートの設置」、「店舗スタッフの検温や健康状態の確認」を徹底して再開を迎えた。利用者に話を聞くと、「スタグルも楽しみだったのでうれしい」と久しぶりのスタグルを満喫していた。

 スタグルの買い方は今回から新たに「モバイルオーダーサービス」がスタート。これはアプリから注文し、事前に会計を済ませられるため、並ばずに商品を受け取ることができるサービスだ。昨シーズンの数試合で試験的に導入されていたが、話を聞いてみると今回初めて利用した方が多かった。「スタジアムに来たらスタグルを買っているので利用してみました。楽なので今後も使いたいですね。今はこういった状況なので人との接触機会を減らせるという点もいいと思います」と好評のようだった。担当者に話を聞くと、利用者からは好評だった一方で、「もっとこのサービスを知ってもらうことが安心、安全にスタジアムを楽しむ環境作りにもつながる」と課題を口にしていた。

 また、クラブは7月7日に公式アプリをリリース。アプリ担当者がその経緯を教えてくれた。「もともとは、スタジアムで新たな観戦体験をできることを目的に今年2月のローンチを予定していました。しかし、新型コロナウイルスの影響で人々の行動様式が変わる中で、現地のみならず、在宅でも楽しめるプラットフォームにすることにしました」。

 この日、在宅観戦者向けのサービスとしてライブチャットサービスがスタート。第一回目の今回は、サッカー大好き芸人のヒデさん(ペナルティ)、河本準一さん(次長課長)、尾形貴弘さん(パンサー)がゲストとして登場。参加したグランパスファミリー(グランパスのファン・サポーター)はゲストとの交流を楽しみ、ゴールや勝利の喜びを分かち合った。チャットルームの様子は時折、試合中のスタジアムビジョンに投影され、選手たちを後押しした。

 公式アプリではそのほかに、「モバイルオーダーサービス」の予約、過去映像やスタッツデータの配信を行っている。また、ライブチャット以外にもスタジアムのビジョンに流れる演出の配信など、在宅観戦者向けのサービスも搭載されている。試合時に収録したチャント配信機能もあり、在宅観戦でも好きな時に好きなチャントを聞くことが可能だ。声を出しての応援ができない今は、現地にいる方もこのチャントを聞きながら観戦するという使い方もできるだろう。

 いよいよメインイベントの試合を迎える。声を出したり手拍子での応援ができない中、「グランパスならではのコンセプトとして『チームの勝利に貢献する集客』を実施。ピッチを取り囲むように1階席すべてを利用して一緒に闘っている空気を作りました」(チケット担当者)。会場に駆けつけた約4,800人のファミリーによる拍手での後押しを受けたグランパスは、途中出場の前田直輝がゴールを挙げて1−0で勝利。試合後、久しぶりにスタジアムで再会した選手とファミリーが喜びを分かち合った。

 公式アプリのチャットルームには試合を終えたばかりの阿部浩之、稲垣祥、相馬勇紀がサプライズで登場。ファミリーの盛り上がりは最高潮に。画面越しに声援を送ってくれた参加者に感謝の言葉を届けた。「まず尾形さんと話せたこともうれしかったです。そして、何よりもファミリーの皆さんが、『ありがとう』や『よく頑張った』と何を言っているのかわからなくなるくらいたくさんのいい言葉を掛けてくれてうれしかったです」と相馬が振り返ったように、参加者だけでなく選手にとってもいい取り組みとなったようだ。

 再開後初めての観客動員試合を終えたイベント担当者に、次回以降に向けて話を聞いた。「今は安心、安全が一番ということをお客様からも感じました。列に並ぶ際に自ら列幅を気にされている方もいましたし、生活様式が変わっていると実感しました。イベントを実施することと密を避けることは相反するようなことにも思いますが、その中でも楽しんでいただけることを今後提供できればと思います。通常時のイベントから縮小、という考え方はしたくありません。できることが減っているのではなく、新しいやり方を模索するという観点でイベントを盛り上げていけたらと思います。生活様式が変わっている中で、新たな楽しみを生み出していくことも大切になっています。今後は、オンラインと現実をあわせた企画も考えています」。

 全国的に新型コロナウイルスの感染者が増加してきている状況で、愛知県も例外ではない。グランパス内でも陽性者が判明し、試合が中止になるなど影響を受けた。徹底した感染症対策を行ってきた中で感染者が出たことに対して小西工己社長は「あらためて感染リスクはどこにでも潜んでいると実感した」とコメント。厳しく設定されていた感染症対策のガイドラインをより一層徹底、強化をして感染症予防に努めている。それはチームだけでなくスタッフも一緒だ。スタッフにもガイドラインが設定されており、クラブ全体で感染症対策を徹底。充分な対策を施しているクラブだからこそ、8月1日に開催されるホームゲーム(柏レイソル戦)でもJリーグのプロトコルを遵守し、さまざまな施策で感染症対策を徹底した運営をしてくれるだろう。そして安心、安全なスタジアムで楽しませてくれると期待したい。

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