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岐阜戦で決勝点をお膳立て。コロナ禍でも自己管理徹底でパワーアップした生粋のドリブラー|相馬勇紀(名古屋グランパス/FW)

2020.06.23

開幕戦でスタメン出場を果たした相馬勇紀 写真=Jリーグ

 J1再開が2週間後に迫った20日。名古屋グランパスはFC岐阜と45分×3本の練習試合に挑んだ。金崎夢生ランゲラックが新型コロナウイルス陽性になった影響で、6月1日に再開された全体練習がいったん休止に追い込まれ、13日に再始動したものの、他クラブより出遅れを強いられたのは確か。約1週間という短い準備期間で名古屋がどこまでチーム完成度を高めているのか……。そこは大きな注目点だった。

 最前線に山﨑凌吾、GKに武田洋平が入る形でスタートした1本目は前田直輝、マテウスの両ワイドが機動力を発揮。トップ下の阿部浩之もパスやシュートに効果的な動きを披露したものの、ゴールを挙げられずに終了し、2本目への期待が高まった。


 そんな20分、両サイドアタッカーが交代。左に陣取ったのは東京五輪世代の相馬勇紀だった。生粋のドリブラーは積極果敢な仕掛けを披露し、徐々にゲームの流れを変え始めた。そして迎えた終了間際。米本拓司からのボールを阿部に預けた彼はペナルティエリア内へ侵入。リターンを受けた瞬間、相手DFのファウルを誘い、待望のPKをゲットする。これを阿部が決めて、名古屋はようやく先制に成功した。

 結局、これが決勝点となり、彼らは1‐0で勝利。「対外試合は約3カ月ぶりくらいだったが、そんなに悪くなかった」とフィッカデンディ監督も納得の表情で語った。唯一の得点者となった阿部は「まだまだ改善すべき点は多い」と気持ちを引き締めたが、それをお膳立てしてくれた相馬に対する感謝の念はしっかりと抱いたことだろう。

「半年ぶりに名古屋に復帰した今季の一番の目標はタイトル。個人としても数字を残すことを目指しています。毎試合点を取るつもりでやっていきます」と開幕前の2月に語気を強めていた相馬。2月22日のJ1開幕・ベガルタ仙台戦ではスタメンを勝ち取ったものの、ゴールという結果を残せず、「これからが勝負」だと気合を入れたに違いない。

 その矢先に新型コロナウイルス感染症が急拡大。リーグが長い中断期間に入ってしまった。活動休止期間は実家に戻る選手も少なくなかったが、彼はリスクを考えて基本的に愛知に滞在。まずは食事・睡眠から徹底した自己管理を図り、再開に備えていたことを、5月のサポーター向けクラブイベントで明かした。

「食事に関しては、人生で初めて料理をしました。野菜、汁物、フルーツ、メイン料理二つとか結構、豪華に作ってしっかり食べるように心掛けてました。得意料理って言えるか分からないけど、生姜焼きとナスのみそ炒めは作れるようになったかな(笑)。栄養と睡眠のことは昔から両親にすごく言われたし、今もしっかり夜寝る生活は続けています」

 向上心溢れる相馬は肉体改造にも精力的に取り組んだ。

「クラブのオンライントレーニングはもちろんやりましたけど、個人的に習慣にしていたのは朝一番のヨガ。ストレッチボードを使った柔軟も日課でした。筋トレも自主的に取り組みましたね。筋肉は動かさないと衰えるので、トレーニングの量を増やし、お尻と上半身を強化したんです。体つきが一回り大きくなった気がするので、ここから絞っていけばちょうどいい感じになると思います」

 相手を吹っ飛ばすようなパワフルなドリブルは岐阜戦でも健在。お尻や上半身の強化はPK奪取につながったシーンにもよく表れていた。本人が言うように、もう少し体を絞り込み、走力や俊敏性、動き出しの部分を上げていけば、一つひとつの仕掛けやチャレンジにより怖さが出てくるはず。そうなれば、目標である「目に見える数字」にもグッと近づくのではないだろうか。

 その前に、分厚い選手層を誇る名古屋サイドアタッカー陣のサバイバルに勝って、出場機会を増やすことが先決だ。フィッカデンディ監督が岐阜戦で前田、マテウスという組み合わせをスタメンに抜擢し、2本目の途中から相馬とガブリエル・シャビエルを送り出したように、現時点では前者の2人がファーストチョイスなのだろう。相馬はジョーカーとしても非常に有効な存在であるのは確かだが、本人としては先発に強いこだわりがあるはず。7月4日再開のJ1は超過密日程に加えて、いきなり夏場の連戦ということで、チャンスは確実に広がるだろうが、今季の相馬は名古屋で「絶対的存在」にならなければいけない。「東京五輪出場」や「海外移籍」という大きな夢を掲げている以上、圧倒的なインパクトを残さなければ、その道が開けてこないからだ。

「欧州で活躍して、日本代表のエンブレムを背負っている自分というのが5年後の理想像。その目標から逆算して今、何をすべきかを考えて努力しなければいけないと思っています」と背番号27は語気を強める。それを念頭に置きながら、アタッカーとしての幅を広げることを意識していくという。

「僕はドリブルが武器だけど、『絶対にカットインしてシュートを打とう』とか決めつけるんじゃなくて、選択肢をたくさん持つことを心掛けて行きたい。相手が『縦に抜かれそう』と思えばフェイントをかけるし、『カットインしないだろう』と思わせておいてトライするとか、敵の逆を突くことを意識しながら、より効果的な仕事をしたいですね」

「名古屋のキーマン」とも言うべき男は果たしてイメージ通りのパフォーマンスをピッチ上で披露できるのか。まずは4日の清水エスパルス戦で、彼の一挙手一投足に注目したい。

文=元川悦子

By 元川悦子

94年からサッカーを取材し続けるアグレッシブなサッカーライター。W杯は94年アメリカ大会から毎大会取材しており、普段はJリーグ、日本代表などを精力的に取材。

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