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「無観客でも違った魅力を届けられる」サッカーのない日常から得た多くの気づき|柿谷曜一朗(セレッソ阪/FW)

2020.06.02

[写真]=Jリーグ

 Jリーグの再開日程がようやく決定した。J1の各クラブは7月4日のリスタートに向け、活動を本格化させている。すでに5月25日からグループ別の練習を再開しているセレッソ大阪も、6月1日から全体練習に移行。エースナンバー「8」をつける柿谷曜一朗は「素直に試合ができる喜びがありますけど、それまでの間、サッカー選手は今まで以上に新型コロナウイルスに対する注意を払う必要がある。より一層、気を引き締めて、集中した生活をしていかなければいけないと思います」と実戦に戻るに当たっての強い決意を口にした。Jリーグが選手・審判2340人のPCR検査実施に踏み切るなど、万全の安全対策を取ってリスタートすることに感謝しつつ、彼らは本番に向けて調整していくことになる。

 再開直後の数試合は無観客になる見通しだ。柿谷自身も「サッカーは観客やサポーターあってのもの。それが欠けてしまうとモチベーションも上がりにくくなる」と寂しさをにじませる。その反面で「映像やからこそ、巻き戻して見たくなるプレーだったり、最後の最後に目が離せない試合展開、諦めない姿勢を違った形で届けられるかなと思います」と前向きな部分を強調した。そういった新たな魅力を伝えるためにも、彼のような高度な技術と創造性あふれるプレーヤーが大きなインパクトを残さなければいけない。今後への期待は高まる一方だ。


 とはいえ、ロティーナ体制が発足してからというもの、彼は多くの浮き沈みを味わってきた。昨季開幕時はFWのスタメンに陣取っていたが、徐々に出場機会が減り、一時はベンチ外という屈辱を味わった。かつて日の丸を背負い2014年ブラジル・ワールドカップに参戦した男にしてみれば、大いなる挫折に他ならなかったが、「俺はこのクラブで這い上がる」と懸命に序列を上げるべくアピールを続けた。真摯な姿勢を見せる柿谷を指揮官も徐々に評価するようになり、昨年9月1日の川崎フロンターレ戦から先発に復帰。10月18日のコンサドーレ札幌戦と11月30日の清水エスパルス戦でゴールを奪うなど、尻上がりに存在感を示す形で昨季を終えた。そんな紆余曲折の軌跡を辿ったからこそ、「よりチームに貢献する」という意気込みを持って今季を迎えたに違いない。

 その2020年も、最初の公式戦となった2月16日のYBCルヴァンカップ・松本山雅戦では左MFで先発を勝ち取ったが、22日のJ1開幕・大分トリニータ戦では清武弘嗣のスタメン復帰でベンチに追いやられた。ロティーナ監督はブルーノ・メンデスと奥埜博亮のFW起用にこだわりが強く、左MFに関しても清武への信頼が厚いため、柿谷にとって厳しい状況なのは変わりない。ただ、再開後は超過密日程になるため、チーム全体が一丸となって総力戦で乗り切らなければならなくなる。彼の出番が増えるのも間違いなさそうだ。

 ハードスケジュールを想定して、本人も中断期間は外出自粛を徹底。「ホントに家族以外の誰にも会ってないからコロナにかかってる可能性はほぼない」と言い切るほど、自分にできることを徹底的にやってきた。オンライントレーニングにも精力的に取り組んだ成果もあって、コンディションも悪くないというから楽しみだ。

 同時にファンとの交流も大事にした。クラブが活動休止になってから、柿谷は毎日16時からインスタライブを開始。練習再開前日の5月24日まで約50日間も継続し、最終日には1500人超が視聴するほどの人気を博した。「始めた一番の理由は暇やったから。暇つぶしっていうのが正解だと思います」と本人は冗談交じりに話したが、コロナ禍で辛い思いをしている人々を少しでも元気づけたいという思いやりがあってのことだった。

「最初は『はよ、練習始まれ』『はよ、再開の報告をさせろ』という気持ち。それに尽きましたね。まさか50日くらいもやらなアカンようになるとは思ってなかった(苦笑)。そういう中でも『力になります』『勇気をもらいました』といったコメントを見てたら、やって良かったなと思いましたね。ただ、最近問題になってる誹謗中傷が僕のところにも来たんです。SNSで発信してる分、メチャメチャ考えさせられる時間があった。すごい落ち込んだし、何とかできんのかなとね。人を傷つけるのは、コロナで自粛せずに遊びに行ってるようなもの。自分が大切な人を守れるようなお手本にならなアカンとすごく感じたし、暗い気持ちを持ってる人らを明るい気持ちにさせられるような1年にしたいと思います」

 サッカーのない日常を体験して、かつてないほど多くの気づきを得た柿谷。それを生かし、還元する場はピッチ上しかない。チームや仲間、家族、サポーターと自分を支えてくれる多くの人のために、持てる力のすべてを出し切ること。それが今の彼に託される責務と言っていい。

「改めてあと10年はやりたいと思った? いや、もともと10年はやれますし、10年以上は全然やれるんで、そこの心配はしてないです」と長期現役続行宣言をしてみせた柿谷。少年時代からの憧れだった三浦知良(横浜FC)の領域に少しでも近づくためにも、まずは30代を迎えた今、大いなる輝きを放つことが求められる。彼のポテンシャルを考えれば、2013年J1で挙げた21ゴールという数字を超えることも十分可能なはず。エースナンバー「8」を背負う男に似合う活躍を見せ、試合から遠ざかった日々に抱いたさまざまな感情を爆発させてほしいものだ。

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