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Jリーグが与える非日常|小宮良之

2020.02.18

[写真]=Getty Images

「自分にとって、Jリーグがすべてだよ。時代的に、ディフェンスが海外(移籍)で、というのはなかったしね。ここで俺はサッカー選手として生きてきたし、力をもらって。だから、観客を楽しませたい、というのはいつも思っていたよね」

 Jリーグで最も記憶に残るDFの一人、松田直樹は生前、そう明かしていた。松田は、元オランダ代表のルート・フリットに憧れていたという。ダイナミックな動きで、人の予想を裏切って、非日常感を演出した選手だ。


 その点、松田も人を驚かせ、愛される選手だった。

 そうして脈々と受け継がれるJリーグは、日常の中にあるはずなのに非日常を与えてくれる。こんなプレーができてしまうのか――。想像を具現化する、もしくは超える風景に、人は心を動かされる。

 もちろん、凡戦もあるだろう。何も感じない。不甲斐ないゲームもある。

 しかし、人はその非日常に触れられる可能性から目を背けられない。

「週末、Jリーグを見たいね!」

 そして、人はスタジアムに足を運ぶのだ。

 では今シーズンのJリーグ、チケット代を支払っても惜しくない選手は誰だろうか?

 その価値を最も保証できるのは、ヴィッセル神戸のスペイン人MFアンドレス イニエスタだろう。イニエスタのプレーレベルは次元を超えている。Jリーグで、追随する選手は一人もいない。30〜40分程度なら、世界でもその領域に達している選手は片手で数えられる。

 昨シーズンのサガン鳥栖戦、イニエスタは本気を出している。“戦友”フェルナンド トーレスが現役最後の試合だったことで、40分間だが、惜しみないプレーを見せた。例えば、右足ボレーで逆サイドにロングスルーパスする技術は神業的だった。キックの技術、俯瞰した視点、迅速で的確な判断、そしてひらめきとすべてが備わっていた。オーバーヒートするように筋肉系を痛め、前半で去ることになったが、一つのスペクタクルだった。

 一方で、何の保証なしにスタジアムに出掛け、胸が踊る瞬間に立ち会った時の喜びも望外である。

 昨シーズンのJリーグでは、久保建英が彗星のように現れた。それまでも才能は期待されていたが、シーズンが開幕する前は有望な若手の一人にすぎなかった。それが開幕の川崎フロンターレ戦からポジションを確保。何かが始まる、という予感を放っていたが、その後は想像を超えていた。先発確保どころか、主力となり、エースとなって、日本代表入りし、名門レアル・マドリーへ移籍。序列をごぼう抜きし、時代の幕を開ける姿は鮮烈だった。

 今シーズン、そんなきらめきを与えてくれるルーキーはいるだろうか。

 セレッソ大阪西川潤は、その候補の一人か。サッカーセンスは出色。バルサのスカウトが追いかけるのも頷ける。プレーが自然で、息を吸って吐くように、パスを受け、ドリブルし、シュートが打てる。自分のテンポの中に相手を取り込めるので、プレースピードで上回れる。プロの激しさに慣れ、自分の技術を存分に見せられるようになったら、時代を動かす選手になるかもしれない。

 当然だが、Jリーグの楽しみ方は、おらが町のチームに声援を送ることでもある。

 筆者は取材者として、鳥栖のストライカーである豊田陽平を追い掛け、その姿を物語にした。当時J2だった鳥栖で、豊田がゴールを積み重ねるたび、クラブの気運も高まっていった。同時に豊田自身も、代表に選ばれるまでの選手に成長を遂げた。

 その格闘を描けたのは、書き手の幸いだった。

 当時の鳥栖は、まだ古き良き時代を残していた。例えばロッカールームも、一人ひとりが独立したスペースは用意されていなかった。長椅子を四角に並べ、誰もが同じ空気を吸っていた。だからこそ、ピッチで信じられないほどの団結力を示し、終盤になって恐るべき強さを見せることができたともいう。

 それは強くなるためのプロセスで、もはや取り戻せない景色だけに、唯一無二なのだ。

「サッカーは二度、同じプレーが見られない」

 そう言われるが、一瞬一瞬に輝きがある。その今を体で感じたい――。人はその思いに駆られ、懲りずにサッカースタジアムへ通ってしまうのだ。

文=小宮良之(スポーツライター、小説家)

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