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現役選手がなぜ? 大津祐樹と酒井宏樹が考える、僕らだからこそ今できること

現役選手の大津祐樹、酒井宏樹が新たに始めた“Football Assist プロジェクト”とは [写真]=松田杏子

 プロサッカー選手がサッカーをプレーするのは当たり前のことだが、近年、現役選手でありながら、新たなプロジェクトを始める選手が増えてきている。子どもたち向けのサッカースクールを開校したり、メディアを立ち上げたり……。

 そんな中、異色のプロジェクトをスタートさせるという話を耳にした。しかも、一人はJリーグでリーグ優勝を成し遂げた横浜F・マリノスの大津祐樹、そしてもう一人は日本代表で、フランスのマルセイユで活躍中の酒井宏樹だ。どうして現役選手がプロジェクトを始めるのか? 一体、どんなプロジェクトなのか? まずは2019シーズンを振り返ってもらいつつ、新たにスタートする“Football Assist プロジェクト”について話を聞いた。
 
インタビュー・文=出口夏奈子
写真=松田杏子
 

■プロサッカー選手として充実した2019シーズン

 

リーグ最終戦をケガで欠場したものの、15年ぶりとなった横浜FMの優勝に大津は欠かせない存在だった [写真]=三浦彩乃

――いろいろとお話を伺う前に、それぞれ充実されていた2019シーズンについて振り返っていただければと思います。まずは大津選手、自身初のJ1優勝という最高の形でシーズンを終えることができましたね?

大津 チームのために自分がどれだけ貢献できるかを考えてプレーしてきた中で、優勝をみんなでつかめた時に、正しいことをしてきたんだなっていうことをすごく感じました。優勝するってすごく難しいことですが、チームとして達成できたのは僕自身のキャリアとしてもすごく大きなことです。本当に選手以外のいろいろなサポートもありながら優勝できたことは、横浜F・マリノスにとってもすごく良かったのかなと思っています。

――いつ頃から優勝が現実味を帯びて感じられるようになってきましたか?

大津 僕は2019年が始まってからずっと“優勝”って言っているんですけど、現実味というよりは、本当に1試合1試合を戦っていく中で、「俺ら、優勝、いけるよね」という自信は、最初からずっとありました。「いいサッカーをしているし、負けないよね」というのはすごく強く思っていました。そういったところが強かった理由なのかなって思います。

――今年は特に「チームのために」という姿勢を、ピッチ内外で感じるシーンが多かったように思います。意識の面で、何か変化があったのでしょうか?

大津 2018年のチームは、チームとしての能力が高いし、選手としても能力が高い選手がそろっていた中で、「それでも欠けているところは何だろう?」って考えたら、やっぱりチームとして戦うという部分が欠けていると感じていたんです。僕自身、気づけばチーム内では上から数えたほうが早いぐらい、年齢的にも上になっていた。だから、僕の立ち居振る舞いがチームにも影響すると思ったので、ちゃんとした姿勢を若い世代に見せることでどれくらいみんなの態度が変わるのか、そういったことを上の選手がやらないといけないことなのかなって思ったので、そこから変えていこうと思いました。

――そういう意味では本来、大津選手が持っている明るい性格もチームにいい影響を与えていたと思います。

大津 そうですね。そこは僕自身が元から持っているところなので、僕の明るさがチームにとってどうプラスに作用するかを考えながらやっていました。落ち込んでいる選手がいても、「下を向くな」って声を掛けたり、2018年に足りなかったものを埋めるように取り組みながら、監督がやろうとしているサッカーに付いていく、という形が一つになったなという感じです。

――では、そうやって2018シーズンの反省を踏まえて取り組んできた2019シーズンのチームは、大津選手から見てどういうチームですか?

大津 まず、監督は今までの僕のキャリアの中で、出会ったことのない指揮の執り方というか、チームの作り方をする監督です。「これを俺がやりたいんだ」というのをしっかりとチームに落とし込む力があって、それを見て「やっぱりこうすればいいんだ」って付いていきたくなる監督です。僕ら選手もチームを良くしていこうとは思っていましたけど、それよりも監督がチームを作る作業、それが本当にすごくてズバ抜けていたのかなって。ただ、めちゃくちゃ選手と喋ってコミュニケーションを取るタイプではないです。だけど、ちゃんと一つの組織を作る。「俺はこういうサッカーをするから、お前はこうしてくれ」っていうのが、すごく分かりやすいんです。だから選手同士で、「監督はこうやってやりたいんだよね」というのを共有できる。それが強みだったのかな。例えば、試合に出ている選手が間違ったプレー、監督が望まないプレーをした時に、全員がその選手に指摘することができるんです。「ズレてるよね、そこ」と。だって「監督がやりたいことはこれだから」という明確な答えがあって、それを全員が共有していて、その中で僕らはプレーできるので、それはすごい強みだったのかなって思っていますね。

――アンジェ ポステコグルー監督の下、2018シーズンは勝てなくて苦しい時期もあったと思います。それでも、チームとしてのサッカーを大きく変えた2年目で優勝までたどり着けた要因は何だと思いますか?

大津 一昨年、僕が感じていたのが、すごくいいサッカーはしているけど、チームとして、選手としての方向性がバラバラになってしまっているなということ。でも2019年が始まる前に、チームとして監督に付いていこう、僕らはどんな形であろうと監督の志向するサッカーを信じて付いていこうという姿勢をみんなで共有して、それをできたことが、今年の優勝につながったと思います。チームが一つに、というところがポイントだったのかなって感じますね。

――なるほど、“信じる”ですか。酒井選手も大津選手が海外に移籍した2011年に柏でJ1優勝を経験していますが、優勝するチームって、できないチームと比べて何が違うと思いますか?

酒井 信頼関係は重要ですね。

大津 確か2011年はネルシーニョ監督だったんですけど、彼の指揮の執り方というのは今考えても、やり方は違えどボス(※アンジェ ポステコグルー監督の愛称)の考えと何か似てるところがあるなというのをすごく感じます。だから優勝できる監督って、やっぱり何かあると思うんですよね。

酒井 やっぱりさ、監督に付いていこうと思わないと結果は出ないよね。

大津 僕たちに「すごい」って思わせられるような監督というのは、優勝が関わってくる気がするんだよね。

酒井 じゃないと、まず勝てないよ。

大津 やっているうちに「この監督すげぇな!」って思ってくるんですよ。でも、逆に監督への信頼感を失ってそれが選手の中で広がると、チームバランスが崩れてしまう。でも、その監督としての立ち居振る舞いって結構選手も見ていますからね。ボスもネルシーニョ監督もそうですが、結構ストレートに判断するというか、「試合、調子悪かったな」って口では言っていても、いきなり次の試合でメンバー外になったりもするし(苦笑)。

酒井 ネルシーニョの時もあったね(笑)。

大津 だから、いつもソワソワしてるし、常に練習から戦いだったよね。

酒井 ただ、それでもちゃんと選手自身は消化してるんですよね。しょうがないというのは分かっているし、納得はしているから。「なんでだよ!」とはならないんですよ。

大津 そういうチーム作りがネルシーニョ監督もすごく上手だなって思っていたんです。だって逆にメンバー外になっても、また急にスタメンになったりするんですよ。だからおもしろかったよね。

酒井 急にスタメンから落ちたら、イジられたりしてたよね(笑)。

大津 そう。だけど、その人がまたポンってスタメン復帰するから、ちゃんと練習をやっていれば見ていてくれている。そういうのが、優勝できる監督というか、いい監督として共通する部分はあるのかなって。

酒井 厳しさはやっぱり必要だよね。

大津 その厳しさというのが、選手にあまり近くない監督なのかなって、最近ちょっと思ってきていますね(苦笑)。もちろん、これが正解かどうかは分からないですけど。

酒井 まあ、選手は監督を信頼するのが大前提ですから。

大津 あとは、それを本当に「すげぇんだ」って、結果でねじ伏せるでもいいだろうし、サッカーでねじ伏せるのでもいいから、選手からふわっとした気持ちがなくなるようなマネジメントの仕方をする監督はやっぱりすごいと感じますね。

酒井 そこは監督の仕事だよね。本当に少しの差で結果はすぐに変わっちゃうし、100パーセントの世界はないですから。

10月27日に行われたパリ・サンジェルマンとの試合で相手選手と競り合う酒井 [写真]=Getty Images

――そんな酒井選手は、2019年は日本代表での活動で幕が開けました。1月のアジアカップは決勝でカタールに敗れて悔しい思いをしましたが、9月からはカタール・ワールドカップに向けたアジア2次予選もスタートしました。改めて代表での活動を振り返っていかがでしたか?

酒井 アジアカップに関しては決勝で負けたということは、やはり何かが足りなかったと感じますし、そこに明確な理由はなかったと思います。個人個人が感じるものは非常に多くあったと思うので、もちろん悔しいですし、見ている人たちにも申し訳なかったですけど、結果としてきちんと受け止めました。近年、アジアが強くなっているというようなことを耳にしますが、それについては僕は昔を知らないので分かりません。でも、基本的にちゃんとサッカーをすれば、どのカテゴリーでも試合に勝つのはそんなに簡単なことではありません。3部、4部のクラブでも強いんですよ。特に、相手クラブのホームゲームだと観客を巻き込んで戦うので、そんなにサッカーって勝つことが簡単じゃないんです。今、代表はW杯のアジア2次予選を戦っていて、6-0、5-0といった大量得点で勝ったとしても、非常に厳しい言葉をいただくこともあります。でも、その両方をしっかりと受け止めながら、ただ結果を残すことだけを考えてやっていますね。

――確かに見ている側としては、特にアジア2次予選では「勝って当たり前」といった見方をすることも多いです。逆にそれがプレッシャーになったりもするのでしょうか。

酒井 いや、でもプロなんでね。期待されるような結果を残すのがプロだと思いますし、勝って当たり前だろうと思ってもらえるような立ち位置で僕らが戦えているのは幸せなことだと思うので、それを継続するしかないです。今、継続できているのかどうかは分からないですけど、強い日本代表を見せられていればそれでいいと思います。

――コパ・アメリカやE-1サッカー選手権大会などでの活躍など、日本代表は若手の台頭も目覚ましいですが、彼らの活躍をどのように見ていますか?

酒井 試合は時間的に厳しいのでハイライトで見ましたが、才能ある選手はいくらでもいると思っています。それこそ世界を見れば山ほどいるので。だから、いずれはもちろん僕よりいい選手が絶対に育ってくると思いますし、その覚悟を持ちつつ、代表に呼ばれれば行って自分の仕事をするだけですね。

――一方、マルセイユでは4シーズン目の真っただ中。その前にドイツのハノーファーに4シーズンいたので、あっという間に日本での生活よりも海外での生活のほうが長くなりましたね。

酒井 もうだいぶ慣れましたね。だってJリーグでは実質1年ぐらいしか稼働していないですから(笑)。確か50試合出ていないですからね。1シーズン半なので。でも、海外はもう8シーズン目ですからね。

――マルセイユではコンスタントに試合に出場されていますが、改めてマルセイユで起用され続けている要因はどこにあると考えますか?

酒井 実は毎試合すごい重圧と戦っているんです。これが普通に慣れればいいと思いますけど、あまり慣れないもので……(苦笑)。2019年11月からの8試合で7勝1分けだったんですけど、その1分けの時に僕を含めた試合に出ている11人全員が、新聞で犯罪者のように書かれたんです。負けていないんですよ? 引き分けだったんですけどね。「やってらんねーよ」ってみんなで言いながら、また立て直して、ウインターブレイクに入る前の最後の試合で勝って。その繰り返しです。だから1週間でモチベーションはすごく変わりますよ。テンションというんですかね(苦笑)。マルセイユというクラブは、最近はあまり結果を残せていないんですけど、過去がすごかったクラブなので、どうしてもサポーターは熱を持っているので、その熱に追い付いていない感じですね。

――負けると、外に出られないと聞きますが……。

酒井 もう、街には今も出ないです。だからこの間、買い物を頼まれたんですけど、「街はあまり行きたくないんだよね」って断って(笑)。勝っていても、負けていても、別にいいリアクションなんですけど、選手のプライオリティが高くて騒がれるので、あまり僕のキャラには合っていないかな。僕はひっそりと暮らしたいんです(笑)。

――そんな熱いクラブで試合に出続けることはすごいことだと思いますが、何か意識していることはありますか?

酒井 そうですね。本当にありがたいことです。でも、なんだろう? 才能ある選手たちは本当にたくさん日本からも海外に行きましたけど、結局はメンタルじゃないですかね。僕自身は勝っても負けても、何も感じないようにはしていますね、最近は。もちろん勝ちたいですけどね。

――え? 浮き沈みを、ということですか?

酒井 そうです。仮に勝っても課題は出てくるので、それに向けて「また次の週も頑張ろう」というぐらいです。

――なるほど。10月にはリーグ・アンで100試合出場を達成されました。シーズン途中ではありますが、改めて2019年は酒井選手にとってどんな一年でしたか?

酒井 はい、カップ戦を合わせると結構試合には出てますが、リーグでは100試合を達成しました。今シーズンは監督が代わったので新しい刺激を受けましたし、今はそれに順応しようとしている状態ですね。
 

■二人が新たに始める“Football Assist プロジェクト”とは?

 
――さて、2020年はともに30歳を迎える年です。そんな節目の年に新たなプロジェクトを立ち上げたそうですね。そもそもどんなきっかけがあったのでしょうか?

大津 もともと2016年に酒井宏樹とサッカースクールを立ち上げました。僕たち自身が子どもの時、プロサッカー選手としてJリーグで、そして海外でプレーした経験を持つ選手とふれあえる機会はありませんでした。でも、そういった環境を僕たち自身が子どもの頃に求めていたので、現役でいる間に子どもたちと直接ふれあいながら、僕らが感じたことや学んだことを伝えていけたらと思っていたんです。正直、今、やれるのにやらない人ってすごく多いと思うんですね。

酒井 そういう意味で言うと、基本的に俺はやりたいけどやれない人です(苦笑)。だから、いつも祐樹くんにはきっかけを作ってもらっています。僕たちとしては、少しでもサッカー界が良くなるようにという思いを持っているんです。

大津 宏樹とは「一緒にやっていこう」とずっと話をしてきましたからね。でも、実際にサッカースクールを作った時、指導していると子どもたちの目の輝きが全然違うんです。キラキラしているんですよ! そういうのって実際にやっていて実感もできるわけです。

酒井 そこで、プロサッカー選手とプレーできる環境が子どもたちにとってはすごいことなんだなって思うよね?

大津 そうそう。でも、それを伝えることをするかしないかって、その差はすごく大きい。そして、それを現役選手のうちに、さらに自分たちが現役バリバリの時にやる、というのはあまりないことですから。プレー自体を教えることもできるし、いろいろな経験も伝えることができる。そのほうが子どもたちに対しての説得力もありますからね。

酒井 そういう流れで最初に子ども向けのサッカースクールを立ち上げたのですが、今回立ち上げたのは大学生向けの支援になります。

“Football Assist プロジェクト”を実現するために二人は会社を立ち上げ、大津が代表取締役社長に就任している [写真]=松田杏子

――具体的にはどんなプロジェクトになりますか?

大津 ターゲットを大学生、しかも公式サッカー部所属のみの大学生に限定させてもらっているのですが、何か彼らのために僕たちが支援できればいいなということで、今回のプロジェクト、『Football Assist』を立ち上げました。

酒井 主に、支援の柱は3つ。①トレーニング強化支援、②備品支援、③キャリア支援 です。

大津 一つ目のトレーニング支援では、パーソナルトレーナーのトレーニングを受けることができます。指導するのは、実際に僕自身がパーソナルトレーニングを受けているトレーナーさんなのですが、彼らは一般的にプロ選手にしか指導しません。僕たちプロサッカー選手は、より高いパフォーマンスを発揮するために、よりいいもの、レベルの高いトレーニングを求めて、それが必要だから指導を受けているわけですが、そういったことがまだまだ大学生に伝わっていないことがすごくもったいないと感じていました。なので、僕たち自身が取り組んでいるトレーニングを実際に受けられる環境を作ったのと、僕自身も週1回は参加して、一緒にトレーニングすることで、プロの考え方や大事にしていることを現場で共有できる時間を作ろうと思っています。

酒井 それとメンタル的な部分のサポートで言えば、祐樹くんと俺、僕たちの事業に賛同してくれる他の選手も参加してくれるかもしれませんが、現役選手の経験談からの学びや気づきを話したり、単純に現役選手との交流の場が少ないので、交流できる場を作っていろいろな話をしたり、逆に大学生の相談を聞いてあげたり。そういう環境を作って、提供することもできると考えています。

大津 二つ目の備品支援は、株式会社明治とフタバスポーツと業務提携させていただいて、物品の提供であったり、商品の割引が受けれるサービスを作りました。スパイクやプロテインなどサッカーに欠かせないものが少しでも、金銭面で学生の負担にならないように僕たちが支援できればいいなと思いました。

酒井 そして最後がキャリア支援です。大学でサッカーをやり続けながら就職活動をすることになるわけですが、なかなか簡単ではないですよね。そこで練習がオフの日や空いた時間を使って、僕たちが就職サポートのイベントを行ったり、採用を希望する企業の担当者を招いて就職説明会を開いたり、さらにはキャリアアドバイザーも雇うので、相談できる環境も作ってあげられたらと思っています。

――なるほど。学生の立場から見ると、とても至れり尽くせりな支援ですね。

大津 僕たち二人の大前提として「学生に対して何かしてあげたい」という強い思いがあります。それこそ、僕たちができることであれば何でもです。それらの支援を受けられる環境、場所というのを僕たちは“スタジアム”と呼んでいるのですが、それを水道橋駅から徒歩1分のところに作りました。その“スタジアム”にはキャリアアドバイザーもいますし、そこでプロが受けているトレーニングを実際に受けることもできるし、備品の支援を受けることもできます。もちろん僕も宏樹も、そして僕たちに賛同してくれる他の現役選手も“スタジアム”に来てくれるので、より近い位置で僕たちの経験を伝えることができますし、“スタジアム”をとおしていろいろな角度から交流ができればと思っています。

酒井 ただ、僕も普段は海外に住んでいますし、学生の中にも遠方に住んでいて“スタジアム”に来られない学生もいると思います。そんな人たちのために、動画サービスを受けられるオンラインスタジアムを作ります。そこには動画であったり、“スタジアム”に来なくても得ることができる知識など、確実に大学生にとってプラスになるようなものを提供していく予定ですし、もちろん備品支援も受けることができます。

――非常に細かいところまで考えられていると感じますが、酒井選手は海外でプレーされているので距離や時差など、話し合いをするには大変だったんじゃないですか?

大津 そうですね。こより良いものを探していく中で変化していく部分があるので、海外にいる宏樹と相談したり、状況を共有するのは大変な部分もありました。でも、普段から連絡は取り合っていたので、その延長線上で、ある程度状況が動いて固まってから、「今はこういう状態だよ」、「こういうふうにしていくよ」、という具合に連絡を取って話し合ってきました。それを受けて、逆に宏樹からアドバイスをもらうこともありましたし、こういうふうにしてほしいという要望をもらうこともあって、今度はそれを受けてこっちでまた変更したり……。確かにお互いに日本にいていつでも連絡が取れる状況に比べれば大変さはあったかもしれないですけど、海外にいながらも“学生のために”、という思いで宏樹もいろいろと考えてくれていたので、ずっと二人で密に連絡を取り続けてなんとか形にすることができました。

酒井は海外にいながらも大津と密に連絡を取り合って“Football Assist プロジェクト”の実現に尽力した [写真]=松田杏子

――だからこそ、こんなに内容の濃い支援ができ上ったのですね。ただ、もちろんそれぞれの過程でさまざまな苦労があったと思いますが、比較的お二人は順調にキャリアを積んできたように思います。なぜ、ここまで大学生の支援をしたいと強く思うようになったのでしょうか。

大津 順調かどうかというのは、自分のさじ加減であるので判断するのは難しいですよね。自分の中で「失敗したな」と思う経験は、必ずどの状況に置かれていてもあると思うんですよ。僕自身は海外で成功できていないですけど、宏樹は今、海外ですごくやれている。そこにはすごく大きい差があると思っているので、僕としてはそれは挫折だと捉えています。それに、もしかしたら宏樹にとっても、もっと上の世界があるので……。

酒井 そうです。例えばバルセロナと比べれば、そこに行けていない今の現状だって挫折にあたるわけですよ。

大津 だからこそ、僕らには思うところがあるわけです。「こうしていたら、もっと良かったのに」って、共通して思えるところが。そういう僕たちが経験した、失敗したと感じていることを若い世代に対して伝えていきたいんです。だって普通に生活していたら、僕たちがミスした道を多分通ります。でも、僕らは先にそれを経験したからこそ、それは失敗だって知っているんです。だからそれを伝えることで、その時期を省略してあげたい。僕たちがプロになった時に何をしていいのか分からなかったし、誰も教えてくれなくてすごく困りましたから。

酒井 もしかしたら僕たちが教えたとしても、また同じ道を通るかもしれないですけど、それでも、その時に「なんだこりゃ」と思うのと、「あ、これが言ってたやつか」と思うのとでは全然違うんですよ。だから、そういうふうになったらいいですよね。

――確かに、知らずに壁にぶつかった時と、知っていてぶつかった時とでは、心構えや対処法も変わってきますよね。

酒井 そうなんです。その時に、「大津や酒井も苦しんでいたしな」って思ってくれるだけで、気持ちの持って行き方が全然違うんですよ。

――お二人は実際にオープン前に大学サッカー部の学生と直に話をされて、ヒアリングをされたそうですが、反応はいかがでしたか?

大津 僕たちとしては、学生がやってほしいと望んでいることを、支援できる範囲でできる限り支援していきたいと思っていました。大学に直接足を運ぶことで、監督・コーチ、学生と話をすることで、大学サッカーの現状や課題を把握し、プロジェクトへ繋げていきました。さらに事前にイベントを行い、直接大学生とふれあうことで、学生が思っている気持ちや考えを含めていろいろなことを知ることができましたね。

――新たな発見もありましたか?

酒井 結構ありましたね。でも、学生が求めてくれて、学生が『Football Assist』に賛同してくれないと僕たちもアクションを起こせないので、そこは僕らだけが考えるのではなく、お互いに突き詰めていきたいと思っています。

大津 僕たちとしては学生の意見も取り入れながら、ともにいいものを作っていこうというのがテーマでもあるので。その中で学生たちが少しでも良くなれるように、できる限りの支援をしていきたいということですね。

――実際に学生の意見を取り入れた部分ってありますか?

酒井 オンラインとかはそうじゃないの? 遠くて来れない、みたいな。

大津 そうだね。ただ、事前に学生たちから出るだろう意見は必死で考えて、ある程度は想定していたから。オンラインの話も事前に出ていたよね?

酒井 そうだ。オンラインは最初から考えていたけど、その内容に関して「こういうものを取り入れてほしい」という意見があったんだったね。

大津 具体的な内容までは、すべてを考え切れていなかったからね。

酒井 「こういう動画を配信してくれると……」っていう具体的な内容だったね。

大津 そういった学生の意見から実際に取り入れたサービスもあります。

大学生にとっては至れり尽くせりの“Football Assist プロジェクト”には、二人の熱い思いが込められいる [写真]=松田杏子

――お二人にも20歳前後の時代がありましたが、実際に大学生に会ってみて、改めてキラキラしていた初心に帰るというか、新人の頃を思い出したりしました?

大津 そういう気持ちでプロに入ったんですけど、右も左も分からないことが多過ぎて、僕たちはすごくつらかったんです。だから、入った時に「よし」って思える武器を持った状態で入るのか、その武器がない状態で入るのかって、その差はすごく大きい。もちろん、それがプロの世界でもあるのですが、仮にプロになれなくて就職する時だってそうだと思うんです。本当に武器を持つのか、持たないのかは、大きな差が出てくると思うので。この『Football Assist』をとおして何かしらの武器を持って、次のステップへの一歩を踏み出せるようなサポートしていきたいと思っています。

酒井 プロになったとしても、社会人になったとしても、やはり即戦力として求められるものです。だからこそサッカーの部分は僕たちから、そしてキャリアアドバイザーもいるので一般企業に入ってからの大切なことは『Football Assist』をとおして教わることができると思います。いろいろな角度からいいものを吸収してもらえるように、僕たちもよりいいものを提供できるように作り上げていきたいと考えています。

大津 学生の登録は無料でできるので、学生にはデメリットがないと思うんですよね、何も。だからこそ、一人でも多くの人に『Football Assist』に参加してもらえたらうれしいです。

酒井 ちょうどタケ(久保建英)が今18歳で、プロ入り直後の僕たちと同じぐらいですが、海外ではタケのような例がたくさんあるんです。(キリアン)エムバペなんて、18歳でワールドカップを優勝していますからね。そうやって見ると、やっぱり20歳を超える時に、まだプロのスタートにも立ってないことを危機感として持っておかないといけないと伝えられるのも、海外でプレーしている人間の特権だと思うんです。そういう海外でプレーしているからこそ、伝えられることも含めて伝えていきたいですね。

大津 具体的にトレーニングであったり、何をすべきか。できるだけ最短距離で進んでほしいじゃないですか。もちろん回り道もムダではないとは思うんですけど、できるだけ最短距離でいくに越したことはないですからね。その選手にあったものを、一緒に考えていけたらいいなって思っています。

――お二人の熱い思いも十分に伝わりました。このプロジェクトは、現役バリバリのお二人だからこそできる支援だとも思います。改めて、この『Football Assist』をとおして叶えたい夢や目標があれば教えていただけますか?

酒井 学生時代にサッカーをやっていたからこそしっかりしているんだな、というイメージを世の中に出て社会に広めてほしいなと。そんな社会人を一人でも多く、プロでも一般企業でも輩出することができたらと思っていますね。

大津 少しでも若い世代がより良くなってもらうことを第一に考えています。僕たち自身もサッカーに育ててもらったので、サッカー界への恩返しも含めて、このプロジェクトを行っていきたい。サッカー界が少しでも良くなっていくように、活動していきたいと思っています。

大津祐樹選手と酒井宏樹選手が新たに立ち上げる“Football Assist プロジェクト”について
https://assist-sports.com/

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