2019.12.11

【J1優勝インタビュー③】横浜FMをまとめたキャプテン・喜田拓也が初めて見た優勝の景色

横浜FMの15年ぶりの優勝にキャプテンとして貢献した喜田拓也 [写真]=兼子愼一郎
サッカー総合情報サイト

 張り詰めていた空気が緩んだ時、あふれ出る涙を止めることができなかった。チームメートのはしゃぐ姿に、クラブスタッフの笑顔に、そして日産スタジアムに詰め掛けたファン・サポーターの歓喜に、成し遂げたことの大きさを知る。それが、とてつもなくうれしかった。

 小学生の頃に横浜F・マリノスの一員になった。あの日から、トリコロールだけを身に纏い、横浜FMのために戦ってきた。そして15年ぶりのリーグ制覇を成し遂げたチームの中盤の底には、頼れる男・喜田拓也がいた。

 日本を代表する多くの選手を輩出し、3度のリーグ優勝を成し遂げていた横浜FM。知らず知らずのうちに刷り込まれた伝統と歴史。そんなクラブの重みを、喜田はすでに知っていたはず。だからこそ、キャプテンを任された時には覚悟を決めていた。このクラブで優勝する、と――。

 信念を貫き通した先に見えた景色とは、どんなものだったのだろうか。優勝の翌日、話を聞いた。
 
インタビュー・文=出口夏奈子
写真=兼子愼一郎、三浦誠、三浦彩乃
 

たくさんの人の思いを乗せて、2度しっかりと溜めたあとに思いっ切りシャーレを掲げて満面の笑顔を見せたキャプテンの喜田 [写真]=三浦誠

――優勝の熱狂から一夜明けました。改めて喜田選手にとって初めてのJ1優勝の喜びを聞かせていただけますか?
喜田 Jリーグのタイトルに懸けてきた思いが強かったので、すごく懸けてきた分だけうれしいし、それを今の仲間と一緒に取れたことは思うところもあって。やっぱりみんなの頑張りが、タイトルという形で報われたのが一番うれしいですね。

――昨夜はテレビ出演や取材など、試合後も遅くまでたくさんのメディア対応をこなしていたのでなかなか優勝の喜びを噛み締めることも難しかったと思いますが、少しずつ優勝の実感は出てきましたか?
喜田 でも、ああいうタイトな日程も、「ああ本当に優勝したんだなあ」って感じさせてくれるし、やっぱりシャーレを掲げることもそうだけど、表彰式の時にJ1チャンピオンのステージを用意してもらってみんなで喜べるっていうのは、何ものにも代えられないものなのでうれしさはマックスでしたね。

――シャーレを掲げた時、2度下で溜めましたが、あれにはどんな思いがあったのでしょうか。
喜田 やっぱりみんなそれぞれの思いがあっただろうし、ちょっとでも幸せな時間を、っていう思いがありました。優勝にはそれだけの重みというか、このために苦しみだったり悔しさだったりを乗り越えてやっと辿り着いたという気持ちもあって。それで溜めて溜めて、やっと取れた! という思いで、三度目で掲げました。もちろんタイトルは早く取れるに越したことはないんだけど……そういう思いでしたね。

――あの時、喜田選手はめちゃくちゃ笑顔でした。実は久々に喜田選手のあんな屈託のない笑顔を見たなと感じたんです。口ではなんだかんだ言いながらも、特に終盤は表情が硬かったというか、次第にこわばっていく感じさえしていました。だから、あの笑顔を見た時にはやはりいろいろなものを背負っていたんだな、やっと解放されたんだなと思ったのですが。
喜田 まあ、やっぱり、どこかではあったのかもしれない。ただ、自分の中では無理してきたつもりもないし、みんなと正面から正直に向き合って、言うことは言ってきたつもりでもいます。みんなも協力してくれて、本当に強くていい集団ができていった。それは最初からの積み重ねであって、やっぱりタイトルを実際に取るまでは何も終わっていないという気持ちもあったし、どんなに有利な状況だろうと、タイトルが確実に自分たちのものになるまでは絶対に歩みは止められないと思っていたんです。それで最後、本当に自分たちのもとにシャーレがやってきて実感が沸いたのもあるし、やっぱりみんなの喜ぶ顔を見ていたら、自然と日々の歩みもよみがえってきて、うれしさが倍増したなって(笑)。

――それは試合後のフラッシュインタビューでの涙にもつながりますね。
喜田 一番はそういうところですかね。あの涙に個人的な感情はなくて、むしろみんなの喜ぶ姿を見たり、クラブとしても優勝まで15年掛かったのは長かったと思うし、自分としても2013年の悔しい思いもあったので。それに、アンジェ(ポステコグルー)監督が就任してからの昨年の苦しみもありました。苦しかった時に、みんなでお互いに手を取り合って信じて進んできての、今年の優勝ですからね。もちろん今年は今年で覚悟を持って集まってくれた仲間たちと、決していいことばかりではなかったけれど、それを乗り越えてのみんなの喜ぶ姿だったので、そういうのが一気によみがえってきて止められなかったですね。

試合終了のホイッスルが鳴った直後は天を仰ぎながらのガッツポーズを見せたが、その後、喜田は静かに涙を拭った [写真]=兼子愼一郎

――今、言われたように、昨年は本当に苦しい一年だったと思います。新しいサッカーに挑戦してうまくいかない時もありましたし、サッカー自体は悪くないのに勝てなかったり。それでもチームがバラバラにならなかった要因は何だったのでしょうか?
喜田 結果が出なければ、選手としてもチームとしても信じる気持ちがどこか希薄になりがちです。それは自然なことだと思うんですけど、そこで自分たちは強い気持ちを持って、お互いに鼓舞し合うのもそうだし、手を取り合って、支え合って、どうにかしようと進んできました。そういう前向きな姿勢や、やり方を変えるのではなく、このサッカースタイルでどう良くしていくか。愚直に取り組んできた、その結果が今年のサッカーだと思うんです。それが逆にターニングポイントだったんじゃないかなって思えるぐらい、昨年の苦しい時期にそれでも貫き通してやり切ったところに意味があると思います。

――“信じる”って、実はとても難しいことだと思います。喜田選手自身、“信じる”気持ちが揺らいだことはなかったのですか?
喜田 俺自身はないですよ。監督も強い信念と覚悟を持ってやっているので、どんな結果であろうと、選手としては監督に付いていくだけです。悪い結果ならば選手にも責任はあるので、そこに逃げ道を作るんじゃなくて、自分たちがどうしていかないといけないのか、だったので。逃げるつもりはありませんでした。あくまでも自分のやり方でどう克服していくか。それぞれが考えた結果、劇的に良くなったということではなくて、1試合、1日の練習でちょっとずつ積み重ねていって、最後の最後でのタイトル獲得につながったんです。みんなのその姿勢がなければ、積み上がっていかなかった。あそこでスタイルを変えようとか、信じ切れない気持ちでやっていたら、今、この場にはいないと思います。だからそこは、みんなに本当に感謝しています。

――そんな様子には見えていなかったので少し驚きだったのですが、昨夜、話を聞いた他の選手は「実は緊張していて昨夜はあまり眠れなかった」と話していました。喜田選手は優勝が近づくにつれて緊張はしなかったのですか?
喜田 緊張自体は全くなかったですね。ただ、自然と自分が意識しないうちに背負っていたものもあったのかもしれないです。でも、それは悪いことではないですし、自分はその覚悟を持ってきたので。でも、僕から見た限りではみんなも全然普段どおりというか、むしろ気持ちが入っているぐらいの自然な感じで、それをピッチでも表現できていたと思うし、それがチームの力にもなっていたと思います。周りの情報に踊らされることもなく、自分たちは自分たちのやるべきことに重きを置いていたので、盛り上がっていた状況でも自分たちの力を発揮できたと思います。

――実際に事実上の決勝戦となった2位・FC東京との最終戦は、まさに横浜FMらしいサッカーを表現しての勝利だったと思います。改めて昨日の試合を振り返って、どんな感想をお持ちですか?
喜田 状況的には得失点だとか、勝点だとか、優位な状況ではあったと思うんですけど(※)、そういうのは全く僕らには関係なくて、目の前の試合に勝ちに行くだけでした。みんなの意志はそろっていましたし、引き分けや負けはいらないって誰もが思っていたので、勝って絶対に優勝を決めるという思いがあっただけでした。だから勝ちに行く姿勢だとか、1点を取っても2点目、退場者を出して結果的に数的不利になっても、ベタ引きせずに果敢にチャレンジして3点目を取りに行った。一人少なかろうと、もう1点を取る力強さや逞しさをこのチームに感じたので、そこに対してこれまで取り組んできた仲間を誇りに思いますし、昨日の試合自体も誇りに思える戦いだったんじゃないかなと思っています。(※…編集部注:横浜FMは3点差以内での敗戦であっても優勝が決定する優位な状況だった)

「一回あの味を味わってしまえば、二回、三回と味わいたいと思うもの」と連覇に向けてチャンレンジしたいと口した [写真]=兼子愼一郎

――試合後、マルコス ジュニオール選手は優勝できた要因について「『プレスしろ』、『走れ』と言っても、普通はやらない選手が何人かいるものですが、このチームにはそんな発言もなかったし、そういう選手もいなかった。監督の言うことを強い気持ちを持ってやったことが大きい」と話してくれました。喜田選手は、優勝できた要因はどこにあると考えますか?
喜田 みんな信じ合っていますし、信頼して、支え合っています。でもそこには、それをさせるだけのみんなの取り組みだったり、姿勢が絶対に必要です。やっていない人に言うのは当然ですけど、要求もし合える集団なので、僕らは本当にいい関係性でもあったと思います。集団としても、シーズンをとおしてより強固になっていったんじゃないかなと。それは試合に出ている選手だけじゃなくて、出ていない選手も練習から素晴らしい姿勢を見せてくれたし、試合の時も素晴らしいサポートで送り出してくれた。さらにピッチに立てば、しっかりと結果を出してくれた。ちょっとずつの積み重ねで、強いチームになっていったのかなと思っています。

――中村俊輔選手、齋藤学選手、中澤佑二さん、天野純選手と、これまでチームを背負ってきた先輩たちがいなくなり、急にこのチームを背負わなければいけなくなりました。特に天野選手がいなくなった夏以降は、いろいろなものを一人で背負ってきたのではないかと思うのですが、それらとどう向き合ってきたのでしょうか。
喜田 まあ……バランスというか、もちろんキャプテンを任せてもらって、それが早いか遅いのかは分からないけど、任せてもらった以上はそこにクラブに対しても、チームに対しても覚悟や責任が伴う役割だと思うので、そういう気持ちは持っていました。ただ、横浜F・マリノスは僕一人のチームではないので、そこは履き違えないようにしながら、信頼できる仲間もいるので頼れるところは頼る、というのを大事にしてきました。全部自分一人でやるんじゃなくて、みんなと一緒に作り上げていくものだと思っていたし、みんなも協力してくれる姿勢を見せてくれたので、これだけ優勝するに値するチームができたんだと思います。だからこのチーム力には全員が自信を持っているし、そこにキャプテンとして関われたことをすごく誇りに思っています。

――優勝できて、実はホッとしました?
喜田 そうですね。いろいろな感情はありますけど、ホッとしたというのも大きくて。絶対にチームを優勝に導くと思っていたので、本当に自分たちの手元にシャーレが来た時は、みんなと頑張ってきて良かったと思いましたね。

――改めて、昨夜見た“優勝の景色”はどんなものでしたか?
喜田 言葉で説明するのは結構難しい面もあって……。ただ、優勝した瞬間もさることながら、そこまで行く過程で見えてきたものも多くて。その中には新たなものもあって、優勝するってこういうことなんだなあって。過程でも感じたし、実際に優勝してからも感じるところはありました。まあ、あえて景色を言葉にするならば、みんなが喜ぶ顔だったり、満員のスタジアムだったり、最高の時間をみんなで共有できるところにあると思います。一度タイトルを取れば、一回あの味を味わってしまえば、二回、三回と味わいたいと思うものですし、それを取りに行くべきだとも思っています。相当なパワーがまた必要になりますが、それにチャレンジするだけの価値があることだとも思うのでね。来年はチャンピオンとして見られるだろうし、“打倒F・マリノス”で来るチームもすごく多くなると思うので、今年以上に厳しいシーズンになるとは思いますけど、それを覚悟の上で、またみんなと一緒にチームを作り上げていけば、それすらも乗り越えていけるんじゃないかなという希望も持っているんです。決して簡単ではないと思いますが、僕らはチャレンジしていきたいと思っています。

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