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常勝軍団のユニフォームに袖を通し…小柄なテクニシャン・相馬勇紀は飛躍を誓う

2019.08.14

[写真]=Jリーグ

「特別指定で来た去年の夏から1年間、名古屋では本当に育ててもらった。でも僕は成長を求めて移籍を決断しました。鹿島で一番求めていくのは出場機会。代表のために移籍するわけじゃないですけど、森保さんは試合に出ていない選手は代表に選ばない。出場は最低限のベースだと思っています」

 早稲田大学在学中の2018年夏、相馬勇紀は名古屋グランパスの特別指定選手となり、「俺の力で残留させる」と宣言した。すると、J1デビューとなった昨年8月11日の鹿島アントラーズ戦で、いきなり初アシストを記録。“残留請負人”として言葉通りの重要な働きを見せた。そして、正式にプロとなった今季は、リーグ開幕のサガン鳥栖戦で瞬く間にゴールを挙げ、周囲からもひと際大きな期待が寄せられた。しかし、それ以降のリーグ戦では先発出場1試合のみ。思うように出番を増やせなかった。こうした苦境を打破するべく、以前からオファーのあった常勝軍団に半年間のレンタルで赴くことを決断。8月7日に名古屋のクラブハウスで報道陣に決意を語った。


 それから3日後の10日、27から47へと背番号を一新した165㎝の小柄なテクニシャンは鹿島スタジアムで横浜F・マリノス戦に挑んでいた。1-1の同点、さらに扇原貴宏の退場によって鹿島が数的優位となっていた81分、相馬は名古進太郎と交代でピッチに立った。

 そのまま定位置の左ワイドに陣取ると、得意のドリブル突破でいきなり見せ場を作る。87分には、自身のドリブルから得たスローインをきっかけに上田綺世が値千金の決勝弾をゲット。相馬自身も早速、存在感を示すことに成功し、チームも2-1で勝利。4位から2位へと順位を上げた。

「鹿島には小池裕太と名古という大学選抜で一緒にやった2人がいるし、三竿健斗も中高からずっと(東京選抜などで)一緒なんでやりやすい。早くチームに馴染めると思います。それに1人1人がしっかりと戦いながらサッカーの本質を求めつつ、タテに速い戦い方をするチーム。僕の抜け出しであったり、ドリブルであったり、守備の1対1で負けない、ハードワークするっていう特徴は鹿島に合うのかなと感じています」と本人が前向きに語っていた通り、新天地での第一歩は非常に幸先のいい形になったと言っていい。左サイドのライバル・白崎凌兵は、相馬の登場と同時にボランチに入ったことで差別化にもメドが立ち、今後の活躍の場は広がりそうだ。

 一方で、ボールを止める蹴るを重視し、主導権を握るサッカーを志向する風間八宏監督の下で学んできたことも、鹿島でのさらなる成長のプラスになるだろう。

「僕にはフィジカルやスピードといった得意な部分があるんで、そうじゃない部分を追い求めてここまでやってきました。風間監督からは相手の逆を突く動きとか色々な技術を学ばせてもらったので、それも生かしながら、自分の良さを爆発させられるようにしたい。苦手なことをちゃんとやることと、得意なことをどれだけ絶大なものにするかを考えながら、僕は小さい頃からサッカーに向き合ってきた。環境が変わる中でもそのアプローチは続けたいですね」

 相馬が貪欲に前へ前へと突き進もうとしているのも、1年後の東京オリンピック、そして、長年の夢である海外移籍を見据えているからだ。6月のトゥーロン国際トーナメントでベストイレブンに選出されたことで、彼は大きな自信と手応えを手にした。今は成長スピードを加速させるべく、ゴールやアシストなどの結果を積み重ねていくことが肝心だ。

 勝利に徹する鹿島で一皮も二皮も剥けて、タイトル獲得の原動力になることができれば、自身が思い描く2つの夢も叶うはず。新天地での戦いは始まったばかりだが、相馬は「J1優勝を目標に戦っていく」とキッパリ言い切った。

「鹿島は毎シーズン上位で戦っていますし、とにかく『強い』っていう言葉が一番合うチーム。三菱養和にいたユース時代もアントラーズユースにはなかなか勝てなかったりして、本当に強いチームだと思っていました。今季もJ1優勝を目指さないといけないですし、ACLも残っている。アジアチャンピオンの座をつかむのはすごいことだと思うので、そこもしっかりと見据えていきたいです」

 タイトルは相馬にとって身近な存在だ。三菱養和SCユース時代の高校2年時には国体、高3の時には日本クラブユース選手権、早稲田大に進んでからも関東大学1部など何度も頂点に立ってきた。その分、勝つことの難しさと達成感の大きさを熟知している。名古屋時代には手にできなかったプロキャリアでのタイトル獲得を現実にするべく、出番を増やし、切り札からスタメンへと序列を上げ、攻撃の軸を担う存在へと飛躍していくこと。半年間のレンタル期間に相馬に課せられる命題は少なくない。

 その壁を越えた時、彼には輝ける未来が待っている。

文=元川悦子

By 元川悦子

94年からサッカーを取材し続けるアグレッシブなサッカーライター。W杯は94年アメリカ大会から毎大会取材しており、普段はJリーグ、日本代表などを精力的に取材。

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