2019.05.31

【サッカーに生きる人たち】チームのために『熱くなれ』|小野博信(ヴァンフォーレ甲府広報)

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インタビュー・文=長田優作(フロムワン・スポーツ・アカデミー1期生)
写真=勝又義人

 サッカーの試合において、主役はピッチで戦う選手たちである。そんな主役を支え、クラブや選手の姿をファン、サポーターに伝える“名脇役”がいることを知っているだろうか。

 小野博信(おの・ひろのぶ)さんは1982年7月7日に山梨県韮崎市に生まれ、大学卒業後はJ2の水戸ホーリーホックで3年間プレーした。現役引退後に地元の山梨県に戻りたいという気持ちを持っていたという小野さんは、ヴァンフォーレ甲府がフロント職員を募集していることを知る。面接で伝えた小野さんの思いが認められ、2013年に甲府のフロント職員になり、今年で7年目を迎える。最初に配属された部署は運営だったが、4年目からは現場付きの広報を担うようになった。広報としての最初の仕事は練習場に足を運び、選手やメディアへの対応をすることだったそうだが、人事異動により、その仕事はリーグ開幕直前に突然やってきた。小野さんは当時をこう振り返る。

「びっくりしましたね(笑)。『俺でいいのか』って思いました。何をやっていいのか分からなくて、1、2週間くらいは前任の長田さんにも練習場に来てもらって、『これはこうするんだよ』、『メディア対応はこうするんだよ』と仕事をたたき込んでもらいました。長田さんにおんぶに抱っこという形でスタートしたんですけど、次第に慣れていきましたね」

 どんな企業であっても、部署が変わるとなれば準備が必要になる。小野さんに与えられた時間はわずかに2週間。シーズン開幕に間に合わせた陰には、小野さんの多くの努力があったはずだ。突然の着任から4年、現在は選手とサポーターをつなぐ存在になることを理想に掲げ、選手を近くでサポートしつつ、選手の姿をファンに届けている。その中で、公式モバイルサイトに練習日記を書いたり、SNSの進歩に負けないようインスタグラムを開設したり、試合に勝利した後にはサポーターの前で選手に自撮りムービーを撮影してもらいTwitterにアップするなどして、日々ファン・サポーターと選手のつながりを深め、よりクラブに関心を持ってもらえるように努めている。

 運営から広報に就いたことで、選手とともにする時間が圧倒的に増えた。「選手に寄り添える立ち位置というのがすごく楽しい」と笑顔で語る様子からは、選手たちとの充実した日々が感じ取れた。

つらい経験も燃料に変えて

 小野さんには、広報としての4年間のなかで忘れられない経験あるという。2017年シーズン、甲府は最終節まで清水、広島と残留を争っていた。そして同時刻キックオフで行われた最終戦、甲府は仙台を相手に劇的なアディショナルタイムのゴールによって1-0の勝利を挙げたが、J2降格という悲劇を味わった。リアルタイムで他会場の情報を入れながらこの試合に臨んでいた小野さんが忘れられない経験と語るのは、仙台戦終了のホイッスルが鳴った瞬間からの出来事だ。
  
「試合が終わった瞬間、当時の吉田達磨監督がまず僕のところに来て『どうだ? 他の会場結果はどうなったんだ?』って。僕はすでに結果を知っていたので、首を横に振るしかできなかった。ダメだったと。そのときが本当につらかった」

 監督と同じように、ピッチで戦い抜いた選手も結果が気になっていた。このシーズンにリンスとのコンビでチーム引っ張ってきたドゥドゥが、小野さんところへ駆け寄ったという。

「ドゥドゥが『どうなったんだ、他会場の結果は』って聞いてきて。ドゥドゥはこちらが泣きそうになるくらい頑張っていたから、『ダメだった』と伝えるのが本当につらくて、涙があふれましたね。監督、選手に結果を告げた二つの瞬間は今でも忘れられないし鮮明に覚えています」

 小野さんは選手、監督の頑張りを誰よりも近くから見守り、その姿をサポーターに発信し続けてきた。残酷な結果を伝えるしかなかった小野さんの苦しみは、私たちの想像をはるかに超えるものだろう。


 だが、小野さんはこの経験を未来に向かう燃料に変え、今シーズン、チームとともに燃えるように、『熱く』戦っている。今年の甲府のスローガンは、『熱くなれ』。一見変わったスローガンに見えるが、そこにはしっかりとした意図がある。

「昔、このクラブが潰れそうな時、当時の海野一幸社長(現会長)を筆頭に、クラブ、スポンサー、行政、ファン・サポーター、地域のみんなで歯を食いしばってJ1までたどり着き、そこからさらに頑張って何年かJ1にいたという歴史があります。まさにそこにはみんなの熱量があったからだと思います。そういう熱をもう一度、再燃するような1年にしたいと思ってこのスローガンに決めたんです。その熱さが周りに伝わるようにしたいですね」

 ヴァンフォーレ甲府に関わるすべての人を熱くする。そんな意味を持ったスローガンとともに始まった今シーズン、すでにその熱は高まり、結果として表れている。今シーズンのホーム開幕戦で、フロントは昨シーズンまでのJ2ホーム開幕戦最多記録を塗り替えるという目標を立てた。その数、13,211人。チラシ配布やメディアジャックを積極的に行い、迎えたホーム開幕戦には15,665人が集まった。成功の要因となったのは、メディアに選手が出ることの影響力。そして、開幕戦からのアウェー3連戦を負けなしで終え、無敗のままホーム開幕を迎えることができた選手の頑張りによるところが大きい。開幕戦は、2-0の勝利を収め大成功に終わった。フロントが行動し、選手がそれに応える。甲府は今、チームが一体となって大きな熱を生み出している。

 集客を見据えた努力は他にもある。ホームゲーム時には、大型ビジョンなどの演出、ブースの配置や、イベントなどに変化を加えた。

「突然大きく変えることは予算的にもスタジアムの構造的にも難しいので、しっかりと分析をして少しずつ工夫して変えていけたらと思います。例えば、様々な諸室やトイレなどに手書きのメッセージカードを添え、感謝の気持ちを伝えたりしています。ちょっとしたことだけど、まだまだできることはたくさんあると思います。開幕戦では、フロントとトップチームが一致団結して目標を達成するためにPRを行ったことで多くの方に観戦してもらい、勝利できたことは、かけがえのない成功体験だったと思います」

 今後もフロントで会議を重ね、昨年やや落ち込んだ観客動員数の回復が見込めるような施策を中心に変化を加えていく。小さな炎が合わさり、大きな炎になるように、小さな積み重ねを大切に、大きな成果を上げていく。その先には、もっと熱くなるスタジアムがあるはずだ。

愛するクラブを愛されるクラブへ

 最後に、今後甲府を支えていくなかで、どんなことを大切にしたいかを聞いた。

「やっぱり小さい頃からヴァンフォーレが大好きだったから、その好きという気持ちを大切にして、このクラブに愛情を持って仕事をしていくことが大事だと思う。ビッグクラブとはやり方が違いますが、このクラブが、地域の人に愛してもらえるようなチームであり続けるように。そんなスタンスを持って、これからも仕事をしていきたいなと思います」

 そう力強く答える小野さんの言葉からは、チームとともに作り出す『熱さ』と愛を感じた。自分が愛するクラブを、多くの人に愛されるクラブに。この大きな目標を胸に、小野さんは今日もチームとともに熱く闘っている。

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