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バースデーゴールで“常勝・鹿島”のレギュラー争いに名乗り…白崎凌兵が見せる非凡な能力

2019.05.21

[写真]=Jリーグ

「清水で10番をつけていたのは昔のこと。10番だったからどうこうって気持ちでは鹿島に来てないし、ゼロからポジションを勝ち取ろうと日々、切磋琢磨しています。本当にここにはいい選手がいっぱいいるし、ダメだったら代わりはいくらでもいる。そういう刺激的な環境でやれてるのは、今の自分にとってすごくいいことだと思います」

 プロ7年目を迎えた今シーズン、白崎凌兵鹿島アントラーズへの移籍に踏み切りながら、左かかとを痛めて長期離脱。4月20日のベガルタ仙台戦からようやく試合に出始めた。5月3日、清水エスパルスとの古巣対決で土居聖真の先制点をアシストするなど、いくつかのゴールをお膳立てしてするも、移籍後初ゴールは奪えていなかった。


 それでも、5月18日の松本山雅戦でついにその壁を打ち破った。鹿島の1点リードで迎えた47分、レオ・シルバがドリブル突破からのスルーパスを送ると、白崎が反応。左サイドから飛び出して左足を振り抜き、勝利を引き寄せる2点目をゲットした。さらに65分には土居の右からのクロスに飛び込んで豪快なヘッドを放ち、チーム4点目をマークする。白崎にとってこの日は自身26度目のバースデー。記念すべき日を1試合2ゴールという華々しい活躍で飾るとともに、5-0の大勝に貢献した。

 試合後、白崎は「1点目はレオがゆっくり走っていたんで、右から中に持ち替えた時に『ああ、自分のところに来るな』と。それをニアサイドに流したんだ感じです。2点目は聖真君がキープするかと思ったけど、いいターンからクロスが上がってきたんで、ちょっとゴール前に入るのが遅れたんですけど、『相手より先に飛んだら勝てるな』と。本当にいいボールが来たんで、決めるだけでした」と満面の笑みを浮かべた。数日前には土居や犬飼智也、三竿健斗らとの合同誕生日会が開かれた。ピッチ外でコミュニケーションを密にしたことも、絶妙な連携を見せる原動力になったのかもしれない。

 さらにこの日は、2つのバースデーゴールに加え頭脳的なプレーも光った。鹿島は白崎と安西幸輝の左サイドがアグレッシブに出てチャンスを作り、右サイドの選手が仕留めるという形が多いが、今回は意図的に左右の役割を逆にしたのだ。

「安西のところに前田大然がバッチリ来てて、田中隼磨さんが俺のところに食いついてきたんで、今日は自分たちが我慢しながらバランスを取った方がいいということを、試合開始10~15分くらいにしました」(白崎)

 こうした臨機応変さを出せる点も、白崎特有の非凡な能力と言っていいだろう。

 松本山雅戦の強烈インパクトによって、「鹿島最大の激戦区」とも言われる左MF争いで一歩リードしたのは間違いない。このポジションには昨年のJリーグベストヤングプレーヤー賞に輝いた安部裕葵、中村充孝らがひしめいている。そんな中、ここ最近は白崎が重用されている。新天地でケガからのスタートを強いられながら、短期間で序列を上げられたのも、適応力の高さを示している。

「去年、清水から移籍してきた自分もそうでしたけど、鹿島は試合出場機会を得るだけでも本当に難しい。シラ(白崎)もそれを覚悟してここに来た。最初はケガもあって出遅れましたけど『十分やれる選手』だというのは僕も分かっていた。復帰してすぐチームに馴染めているのでさすがだなと思います。今回のゴールは自分のことのように嬉しかったです」と清水同期入団で同い年の犬飼も、盟友の潜在能力の高さに太鼓判を押した。

 上昇気流に乗り始めた白崎が目指すのは、「タイトル」だ。これまで清水とカターレ富山でプレーしてきた彼は、プロキャリアの中で頂点に立った経験が一度もない。“常勝・鹿島”ではその夢が叶う可能性が大いにある。

 昨シーズンのAFC・チャンピオンズリーグ(ACL)制覇も含めて20冠という実績の裏には、築き上げられてきた「勝者のメンタリティ」がある。偉大なレジェンドたちから現在の選手たちにも引き継がれている伝統、1人1人のプライドの高さを目の当たりにした白崎は「自分ももっとやらなければいけない」と闘志を燃やしている。

「鹿島はトレーニングからバチバチやってますし、練習の強度が他とは違う。そういう話は来る前から聞いていましたけど、その通りだと思いました。その1つが『ボールを奪いきる守備』。寄せるだけじゃなくて、奪いきって初めて次の攻撃が始まる。そこの意識が高いから、レオも(三竿)健斗も守備の強度が半端ない。練習から圧力が違いますし、そういう中で刺激を受けているのは大きいですね」

 白崎は、山梨学院高校時代には「天才的な攻撃センスを備えたファンタジスタ」と言われ一世を風靡した。その反面で、守備面などでやや物足りなさを感じさせる部分があった。清水時代はボランチを経験するなど少しずつ強度を上げていき、コンスタントに自分の力を出せるようになったが、鹿島に来てからより一層のレベルアップに努めている。

 26歳になった背番号41は常勝軍団の仲間入りを果たしたことで、劇的な進化を遂げそうな予感を漂わせている。ここからのブレイクが非常に楽しみだ。

文=元川悦子

By 元川悦子

94年からサッカーを取材し続けるアグレッシブなサッカーライター。W杯は94年アメリカ大会から毎大会取材しており、普段はJリーグ、日本代表などを精力的に取材。

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