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「1/40000に刺さるイベントを」。名古屋グランパスが“キッズワンダーランド”で目指したもの

2019.05.11

 4月28日(日)、明治安田生命J1リーグ第9節の名古屋グランパス対サンフレッチェ広島の試合で、「キッズワンダーランド」が開催された。「キッズワンダーランド」は2016シーズンから続く、ファミリー向けの人気イベント。今回は新天皇即位にともなう10連休の初めに開催され、第9節で行われたJ1リーグ9試合の中で最も多い40,000人の来場者が集まった。クラブ史上歴代3位の来場者数を記録したイベントの裏には、どのような想いや狙いがあったのか。プロモーション担当の戸村英嗣さん、イベント担当の吉田典世さんの話とともに、「キッズワンダーランド」が目指したものに迫っていく。

「試合には、コンサートと違って勝敗があります。なので、もし試合に勝つことができなければ、お客さまの満足度は全体的に下がってしまいます。たとえ負けたとしても、それ以外の部分で『スタジアムに来てよかったね』、『楽しかったね』と思っていただけるコンテンツを提供していきたいのです。試合観戦だけにとどまらない、スタジアムでの多様性が必要だと思っています」。取材の初めに、吉田さんが教えてくれた“イベント論”だ。これはすべてのイベントの根底にある考えで、今回の「キッズワンダーランド」でも変わらない。


「キッズワンダーランド」でターゲットとしているのは、小学生とその家族だ。その中でも細かい設定がされており、昨年は未就学児や小学生を対象として、王国をモチーフとした可愛らしい世界観を作った。しかし、試合後のアンケートから得られた情報によると、来場者のボリューム層は小学校高学年。「ターゲットの年齢層を上げる」(戸村さん)ことが今回のスタートだったという。

 そこから生まれたイベントのキーワードは、「冒険、体験、挑戦」。「スタジアムに来て、“普段はやれないことをやってみる”をテーマに全体を考えていきました」(戸村さん)。「高学年のお子さんに冒険や体験を楽しんでもらうこと。そこを目指せば、低学年の子には挑戦が生まれると思いました」(吉田さん)。このキーワードをもとにして、CMやポスターをはじめとしたさまざまなクリエイティブを制作し、核となるスタジアムイベントを準備していく。

WLクリエイティブ

キッズワンダーランドのクリエイティブ。名古屋出身のアニメーター中武学氏を起用し作成した

 肝いり企画となったのが、「謎解きアドベンチャー」だ。これはスタジアム内外の各所に設置されたスポットで、グランパスにまつわるクイズを解いていき、すべての解答を集めるとキーワードが浮かび上がるというもの。そして正しいキーワードを書いた解答用紙を受付に提出すると、抽選でサイン入りグッズが当たる仕組みになっている。それぞれのクイズの難易度が絶妙で、大人でもすぐに答えがわからないほど。実際に参加した男の子は「問題は難しかったけど、解けた時がすごく気持ち良かった」とニンマリ語ってくれた。

謎解きアドベンチャー

謎解きアドベンチャーの解答用紙。裏面にあるクロスワードに答えを書き込んでいく

クイズスポット

各クイズにあるQRコードから、選手によるヒント動画にアクセスできる

 この「謎解きアドベンチャー」には、子どもが楽しんでもらうこと以外に、クイズスポットの配置という仕掛けも施されていた。スタジアムを一周するようにスポットを配置しているため、その他のイベントが自然と参加者の目に留まることになる。「スタジアムでの取り組みを見てもらったり、滞在時間を長くしてもらえるように、配置は工夫を凝らしました」(吉田さん)。ある参加者が「普段はスタジアムに来て席につくだけなんです。今日初めてスタジアムを周ってみて、いろいろやっているんだと、いまさらながらに感じました」と話していたように、狙い通りの効果を生んでいた。吉田さんは、「滞在時間の長さがスタジアムグルメの売上にも影響した」と分析しており、スタジアム外の飲食売店は歴代最高の数字を記録したそうだ。

WL

お母さんは「ちょうどいい難易度で、大人でも楽しめました」と語ってくれた

 もちろん、「冒険、体験、挑戦」をイメージしたイベントはこれだけではない。「体験、挑戦」の枠では、昨年の「もふもふ動物ランド」を進化させた「ドキドキアニマルワールド」を実施し、蛇やカエル、ハリネズミといった動物たちと直接触れ合う場を提供。eスポーツ体験や射的ゲーム、定番のキックターゲットなども充実させた。「冒険」の要素を盛り上げたのは、Jリーグとコラボ中の『ワンピース』に登場するキャラクター、チョッパーの来場だ。クラブマスコットのグランパスくんとともに、スタジアムの雰囲気作りに一役を買った。「幅広い世代に支持されていて、まさに冒険そのものでもあるワンピースは、イベントのコンセプトにぴったりマッチするもの。チョッパー来場を実現できて良かったですし、楽しんでもらえたと思います」と戸村さん。ワンピースキャラクターのスタジアム来場はJリーグで初の試みだったという。

WL

イベントを盛り上げたグランパスくんとチョッパー。中央には名古屋のユニフォームを着たキャラクターのイラストが

WL

ドキドキアニマルワールドでは蛇を首に巻くことも可能 [写真]=N.G.E

 そしてこの日のフィナーレとなる広島との上位対決は、開幕戦以来の先発抜擢となった前田直輝のゴールでグランパスが勝利。スタジアムを後にする人にイベントの感想を聞くと「楽しかった」、「いい思い出になった」と口々にポジティブな感想を残してくれた。戸村さんはこの日を振り返り、「コンセプトワークやプロモーション、クリエイティブの制作などの取り組みには手応えを感じていました。なんとか、目標としていた40,000人のお客さまに来ていただくことができて良かったです。40,000人の作り出す雰囲気や声援は選手たちの力になりますし、今回の勝利につながったと思います」と語った。

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来場者数はピッタリ40,000人。あまりの偶然に集計担当者を驚いたそうだ [写真]=N.G.E

 今回の「キッズワンダーランド」で目指したものとは何か。吉田さんは“思い出”だと教えてくれた。

「私たちがやっていることが、誰かの思い出になってほしい。そういう思いで取り組んでいます。私自身、今でも忘れられない思い出があって、小さい頃、父親に野球場へ連れて行ってもらったんです。試合の結果はあまり覚えていないのですけど、野球場での一体感や、アイスクリームを渡してくれたお姉さんの笑顔がずっと心に残っていて。私にとってのお姉さんのように、試合観戦の中のなにか1つでもお客さまの思い出に残ってほしい。40,000人のうち、1人でもいいから心に刺さってほしい。そういう気持ちでイベント作りをしています。今回のキッズワンダーランドでも、何年か後に『あの時はみんなでクイズ解いたね』って思い返してくれる人がいればうれしいですね」

 戸村さんには、今回のイベントを踏まえて、今後の展望と目標を教えてもらった。

「今後はより良いコンテンツを、バランスよくそろえていきたいですね。満足してもらえるものを用意できたとしても、それが1つだと、どうしても参加人数が限られてしまいます。少しでも多くの方の記憶に残るように、刺さるコンテンツをそろえていきたいと思います。その上で、名古屋グランパスのミッションである『グランパスでひとつになる幸せ』を体現していきたいです。たくさんのグランパスファミリーがスタジアムに集まって、一体となって応援し、最後はチームが勝利する。それが私たちのゴールです」

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