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【サッカーに生きる人たち】ピッチに立つことだけがすべてではない。スポーツ選手としての新たな形作り|星翔太(プロフットサル選手・株式会社アスラボ代表取締役)

2019.04.24

インタビュー・文=塚原淳生(フロムワン・スポーツ・アカデミー1期生)
写真=兼子愼一郎

 プロフットサル選手としてピッチに立ち、チームの勝利に貢献する。その傍らピッチから離れれば会社経営者の顔になる。星翔太さんはスポーツ選手としての活動を並行して会社経営を行うデュアルキャリアを実践しており、プレイングワーカーとして社会に新たな価値を生み出そうとしている。

フットサルとの出会い、プロスポーツ選手になる決意

 現在はFリーグ最多10回の優勝を誇る名古屋オーシャンズでプレーする。日本代表でも中心的役割を担い、海外でのプレー経験も豊富だ。しかし、そんな星さんも高校まではサッカーに打ち込む生活をしていた。周囲の友人や高校の教師からは、星さんが大学に進学してもサッカーを続けると言われていたが、「周りの人の意見で決めるのではなく、自分で道を選ぶ」とサッカーから離れることを決断した。


 大学では野球やテニス、格闘技など、様々なスポーツに挑戦したが、どれもサッカーを超越するほど熱中できるものではなかった。そんな中、高校の先輩が作っていた「森のくまさん」というフットサルチームに誘われた。サッカーとは違って狭いコートで全員攻撃・全員守備をしなければならないことや、当時監督がいなかったチームを一から作り上げることに魅力を感じてフットサルを始めた。

「いい意味でプレッシャーがかかっている」

 その後、晴れてプロフットサル選手となりキャリアを重ねていたが、30歳になった時に前十字靭帯断裂のケガを負ってしまう。星さんはフットサルができない間にただリハビリだけをやるのではなく、一般的な会社員のことを知ろうと株式会社エードットでインターンを始めた。それがプレイングワーカーとしての第一歩だった。

「インターンを始めた当初は、フットサル界に貢献をすることよりも社会を知ることを優先していましたね。社会では仕事がどのように進められているのか知りたかったし、スポーツ選手が社会とどうつながっているのかを知るためにも、自分が体験しないといけないと思いました」

 現在は株式会社アスラボで代表取締役を務める。スポーツの3つの要素「する、見る、支える」のうち、株式会社アスラボがもたらすものは「する、支える」の2つだ。アスラボに所属する現役のアスリートや指導者を講師として立て、アスリートがどんな心構えでいるかというマインドと、講師それぞれが持つスキルを広く伝えている。

「アスリートから学び、スポーツを身近に感じてもらうことで、スポーツの文化を広めていきたい。そのためにもアスラボをアスリートや施設の方、スポーツ初心者、経験者の方に知ってもらい、アスリートとつながれる場を提供したい。現在は関東地方を中心に活動していますが、将来的には47都道府県すべてでサービスを提供したいですし、アジアにも進出したいと思っています」

(写真=本人提供)

 プレイングワーカーとしての志は高い。しかしプレイングワーカーならではのプレッシャーもあるという。

「どちらも手が抜けないのでいい意味でプレッシャーが掛かっています。個人的にはフットサルで結果が出ない時に『ほかの仕事をしているからだ』と言われるのは違うと思っています。でもそう思われていることは仕方ないとも感じていて、だからこそ、結果が求められるんです。フットサルも仕事も、自分のやりたいことであり、ライフワークです。どちらかを二の次と考えることはせず、フットサルをしている時はフットサルに専念するようにしています。仕事の切り替えはしっかりしていますね」

 週2度の2部練習と3度の1部練習に加え、土日のどちらかには試合がある。さらに会社経営者としての仕事もある。練習後にすぐさま東京に移動することや、打ち合わせをすることもあるそうだ。しかし、星さんは「そこまで忙しくはない」と話す。

「1回の練習が4時間なので、2部練習があっても8時間です。つまり、一般的な社会人よりも拘束時間は短い。そう考えれば忙しいとは言っていられない。逆に、周囲の人から『スポーツ選手だから忙しい』と思われることが多いので、気を使われてアクションが起こしにくくなっているとは思います。その認識の誤差が埋まれば、社会とスポーツ、アスリートがもっとつながれると思うんです」

スポーツの新たな価値を発信する

 アスラボの全国展開を進める一方で、2018年11月28日に山梨県で発足した「FCふじざくら」という女子サッカーチームをサポートすることになった。星さんはプレイングワーカーとして活動する選手たちの支援を中心に、「FCふじざくら」の成長に携わっている。

「女子サッカー選手は普段から仕事とサッカーを両立していて、皆がプレイングワーカーをしている状態だった。それをちゃんと“売り”にして、人々に知ってもらうことの手助けをしたいんです。ただ働くだけではなく、何かに対して主体的に動くことができるのがプレイングワーカーですし、これからの時代はサッカーから離れていても社会に向けて何かを発信していくことが必要なんです」

 インタビュー中、星さんは「発信」という言葉を何度も口にした。いまやSNSを通じて誰もが発信できる時代であり、多くのスポーツ選手がTwitterやInstagramを通じて選手としての活躍からはもちろん、プライベートな一面も認知してもらえるようになった。星さんもSNSを有効活用するプロスポーツ選手の1人だ。直近では、Fリーグの試合会場の様子を見て、良いところや残念に感じたところを投稿してもらうようTwitterで投げかけた。「#墨田体育館に行って帰ってくるまで」というハッシュタグを利用してツイートを募った形だ。結果、多くの方がその投げかけに応じ、Fリーグの現状をシェアする場が作られた。

「SNSは自分が思ったことややりたいことを発信して仲間を見つけられる場だと思っています。そして仲間が見つかることで、それがまた新たな発信につながっていく。今回はフウガドールすみだのサポーターの方々が、SNSでフットサルに関わろうという意識が強かったので、たくさんの投稿をしてくれました。このような現象がSNSのあるべき姿だと思っていて、それが選手やチームではなく、サポーターから発信されたものであるとよりいいと思います。クラブが発信するといやらしさを感じてしまうことがあるので、誰かがざっくばらんに切り出せるといいですね」

「スポーツ選手は社会に貢献できる」。星さんはそのメッセージを届けることをやめない。既存の枠にとらわれることなく、プロフットサル選手と会社経営者という2つの顔を持つことで、スポーツに新しい価値を生み出している。プレイングワーカーというスポーツ選手の新しいあり方が、スタンダードになる日はそう遠くないかもしれない。

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