2019.04.10

2度目の前十字靭帯損傷から465日…清水DF鎌田翔雅が保ち続けた“プロの姿”

鎌田翔雅
長期離脱から復帰を果たした鎌田翔雅
静岡を拠点に活動するフリーライター。清水エスパルスを中心に、高校・大学サッカーまで幅広く取材。

 一際大きく沸き上がったサポーターの声援が、待ちに待った瞬間であることを表していた。3月6日に行われたYBCルヴァンカップ・グループステージ第1節の松本山雅FC戦で、清水エスパルスのDF鎌田翔雅は465日ぶりの公式戦復帰を果たした。続く同第2節のジュビロ磐田戦では、ホーム・IAIスタジアム日本平のピッチに帰還した。待ち望んでいたのはサポーターだけではない。チームに所属する理学療法士・宮間幸久は、その時の光景を脳裏に焼き付けるように、じっくりと喜びをかみ締めた。



 遡ること2017年11月26日。試合中にケガを負った鎌田は、右ひざ前十字靭帯損傷と診断された。偶然にも、2016年4月に左ひざに負ったのと同じケガ。その時は復帰までに半年以上を要した。これからどんなに長くつらい毎日が待ち受けているのか、残酷なまでに想像がついた。しかも、2度目は利き足の右だ。「左足の時と違って足が全く動かなかった。もう本当に……引退を覚悟しなければならないと思いました」(鎌田)。想像以上に過酷だった日々を宮間は次のように振り返る。

「ケガをした時の状況が違うので単純な比較はできませんが、ひざの機能が戻るまでの時間は左よりも右の方が長くかかりました。チームの練習に復帰し始めた頃も、僕から見てまだ全然十分な状態ではなく、練習しながらひざへの補強メニューもこなさなければならず、本人にとっては不安が大きかったと思います」

 リハビリの段階は左足の時よりもペースが遅く、痛みもなかなか消えず、鎌田の中には焦りと苛立ちが募っていた。宮間に対して「かなりワガママなことを言った」とも口にしている。だが、宮間はそんな鎌田の胸中を思いやり、無理をさせないように努めながら寄り添った。時には、オフ返上で鎌田の自宅まで行き、ひざのケアをしたりもした。

「翔雅に限った話ではないですが、僕がリクエストしたメニューを選手が断ることはほぼありません。多少無理をしてでも、リクエストした分だけやってくれる。だからこそ毎日、選手の状況や反応をよく見ながら、細かくメニューの増減をするように注意していました。それが病院でのリハビリと違って、チームに理学療法士がいることの一番の利点ですから」(宮間)

宮間幸久

清水に所属する理学療法士の宮間幸久(中央)

 2度の長期離脱を外から見ていてわかったことがある。鎌田は“表”と“裏”の顔がはっきりと分かれているタイプの人間だ。リハビリ期間中は2度ともピッチ外での活動にも勤しんでいた。鎌田が頻繁にゲスト出演していたクラブ応援ラジオ番組『GO GO S-PULSE』のパーソナリティを務める天野学さんが明かす。

「自分が試合に出られない時こそ、『チームのために何かやらなきゃ』と言って、ラジオに積極的に出演してくれたんです。逆に、選手としてフル稼働していたシーズンは、ラジオ出演はほぼなかったし、顔つきも違いました。その時々で『今の自分にできること』を考えて、精いっぱいやっているんだと思います」

 三保グラウンドでは、室内メニューだけの日でさえ、わざわざ一度外に出てファンサービスに対応している姿を見ることもあった。ファン・サポーターやメディアの前では笑顔が多く、前向きにリハビリに取り組んでいる様子を見せていた。

 それが彼の“表向き”の顔。一方で、さすがに2度目のリハビリ期間中には、“表の顔”を保ち続けるのが難しい時期があった。いつもなら丁寧に取材に応じてくれる鎌田が、「今日はすみません」と言って、言葉少なげに取材エリアを立ち去ってしまったこともあったほどだ。

「僕にも“ブラックな一面”はありますよ。でも、それをピッチやファン・サポーター、メディアの前では絶対に見せないというのが自分自身のポリシーみたいなもの。ただ、宮間さんだけには見せていました。宮間さんは僕の全部を知ってくれています」

 鎌田が心を許すのは、「理学療法士」という、リハビリ中に最も接点の多い立場であることだけでなく、宮間の選手に対する接し方も理由の一つだろう。宮間は選手のメンタル面の変化を敏感に感じ取り、リハビリの過程で浮き沈みが少なく済むよう心掛けている。

「靭帯のケガは、今の医学ではどうしても復帰までに半年近く掛かってしまいます。それだけ長いと、いくら『一日一日が大事』だと選手に伝えても、やはり先が見えずに苦しくなってしまう時期がありますし、なおかつ身体的に頑張らなくてはいけないこともたくさんある。そういうストレスが掛かる状況で、やはりサポーターの前では『プロでありたい』という翔雅の姿勢は支えてあげたいですし、気持ちが途中で折れてしまうことがないように、できるだけ話を聞いたり、気持ちを察するようにしたいと思っていました」(宮間)

 身体面でもメンタル面でも、鎌田が「プロであり続ける」ためには、宮間の存在が欠かせなかった。一昨年の契約更改時、鎌田は「宮間さんがいなくなったら困る」と強化部に訴えたという。家族、サポーター、クラブスタッフ……選手を支える人は多くいる中で、「1日でも長く、良い状態でプレーしてほしい」と願う宮間もその一人だ。

 戦列復帰を果たした松本戦後、鎌田は「90分間プレーできて良かった」とホッとしたのもつかの間、すぐさま「次はホームのピッチに立ちたい」と気持ちを切り替えていた。そして磐田戦で宣言どおりホーム復帰を飾り、勝利の喜びも味わうと、「まだカップ戦に出ただけなので、早くリーグ戦に絡めるようになりたい」とさらなる意欲を示した。尽きることのない「ハングリー精神」は、長いリハビリ期間中も鎌田を支えていたもの。そして現在、リーグ戦で最下位に沈むチームが浮上するためにも必要な力である。

鎌田翔雅

復帰を果たした鎌田翔雅

 離脱期間が長かった分、誰よりもプロとしてピッチに立てる喜びを知っている。プロに求められる素質も、周囲の人が寄せる期待の大きさも身にしみている。2度の復活を遂げた不屈の男は、苦しみを乗り越えた465日の経験を糧に、強く、たくましくピッチを駆ける。

文・写真=平柳麻衣

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