2019.02.26

不発に終わった“VIP”トリオ…背後を支える山口蛍はチームを救えるのか?

[写真]=Jリーグ
日本代表から海外まで幅広くフォローするフリーライター。

 ヴィッセル神戸の背番号5がボールを持つたび、4万2221人が押し寄せたヤンマースタジアム長居に大ブーイングが鳴り響く。中学生の頃から足掛け16年間過ごしたセレッソ大阪を昨季限りで去った山口蛍に対する、桜サポーターの愛ある激励だった。



 23日のJ1開幕戦を終えた後、「もちろん不思議な気持ちはありますけど、まあブーイングを含めてホントにしっかり受け止めてというか、ブーイングをされるのも仕方ないと思うんで。その中でもプロとして普通に平常心でできたと思います」と28歳のボランチは古巣に初めて敵として挑んだ複雑な胸中を吐露した。

山口は試合後、セレッソ大阪のサポーターへ挨拶した [写真]=Jリーグ

 2016年夏、わずか半年でハノーファーから復帰した際、「セレッソのために戦いたい。タイトルを取らせたい」と強いクラブ愛を語っていた。そんな男が移籍を決断したことに対して、様々な憶測が流れた。2017年シーズンにセレッソに2冠をもたらした尹晶煥前監督の退任とその方向性を決断したチームへの違和感、2度のワールドカップで不完全燃焼に終わったこと、アンドレス・イニエスタらワールドクラスの選手たちと共演できるチャンスの到来……。山口の脳裏にはさまざまな思惑が交錯したはずだ。いずれにせよ、自ら進む道を決めた以上、神戸のために尽力しなければならない。今回の開幕戦で改めてその思いを強めたに違いない。

注目のトリオは存在感を放ったが…

ダビド・ビジャ(中央)を新たに加え大きな注目を集めたが、開幕戦は不発に終わった [写真]=Jリーグ

 ご存知の通り、今季の神戸はルーカス・ポドルスキ、アンドレス・イニエスタに加え、元スペイン代表のダビド・ビジャが新たに加入した。いずれもワールドカップ優勝経験を持つ3人は、ビジャ(Villa)、イニエスタ(Iniesta)、ポドルスキ(Podolski)とそれぞれの頭文字を取った“VIP”トリオとして国内外から大きな注目を浴びている。にもかかわらず、重要な開幕戦を0-1で落としてしまった。序盤から一方的にボールを支配し、主導権を握りながらゴールを決めきれず。後半に入るとリスタートから山下達也の一撃で先制を許した。その後、神戸はゴールを奪えず無得点で敗戦。山口はこの結果を直視しないわけにはいかなかった。

「最後のシュートに行く部分まではうまく行けてたと思うんで、そこから先の精度とアイデアがもう少しかなと。セレッソもかなり後ろに人数を割いていましたし、特に後半は前に残して引いてたから、スペースと場所を見つけるのがなかなか難しかった。そこはアンドレスやルーカス、ダビを含めて、これから試合を重ねていくうちにもっとやってくれると思いますけど」

 実際、VIPトリオは個の力も高く、ボールを持ったら何かを起こしそうな気配はあった。とりわけ、バルセロナやスペイン代表でともにプレーしてきたイニエスタとビジャのコンビは、高度なコンビネーションを垣間見せた。しかし、オフ・ザ・ボールのところではどうしても運動量が低下しがちだった。イニエスタは10.474㎞とチーム3番目の走行距離を記録したが、ポドルスキは9.008㎞、ビジャは8.519㎞と少なかった。右インサイドハーフを務める山口は、彼ら3人を巧みにサポートをしながら守備の穴を埋め、攻撃にも絡んでいかなければいけない。サイドで数的優位を作って中央のスペースを使うというフアン・マヌエル・リージョ監督の戦術では、中盤からのミドルシュートや飛び出しも不可欠となる。攻撃面でも重大な働きを求められる分、彼の負担はより大きくなっているのだ。

かつての盟友が語る山口蛍の存在感「対戦して改めて感じたけど…」

[写真]=Jリーグ

 そんな中「山口なら十分やれる」と太鼓判を押した選手がいる。ロンドン・オリンピック、ハノーファー、セレッソ時代の盟友・清武弘嗣だ。清武は2016年夏から半年間在籍したセビージャで、リージョ監督の指導を受け、神戸のスタイルを熟知している。そして、初めて対決したことで、山口のすごさを肌で感じていた。

「敵として対戦して改めて感じましたけど、蛍はメチャメチャいい選手。神戸のサッカーにも合ってますし、ホントに嫌なところを消してくるんで、やりづらさはすごくありましたし、あいつなら神戸をもっと強くしてくれると思います。リージョのサッカーっていうのは今回見せたスタイルだと思いますし、蛍が神戸に関われるのはあいつにとって幸せなこと。学ぶことも多いと思うんで」

 新たな環境に赴き、仲間と未知なるサッカースタイルに突き進んでいくことは、山口のサッカー人生を考えてもプラス要素も多く考えられる。これまで国内ではセレッソ一筋で、“クラブ第一”を貫いてきた。その呪縛から解き放たれ、自分にフォーカスしてレベルアップに邁進できるだろう。

 ハノーファーにいた半年間、息子を間近で見ていた父・憲一さんが「あの時の目の輝きはすごかった。サッカーへの本気度に驚かされた」と話してくれたことがある。神戸でさらなるレベルアップを成功させれば、今後のキャリアをより充実したものにできるはずだ。

 さしあたって、山口がやるべきことは、今季J1初勝利を神戸にもたらすことだ。次なる相手・サガン鳥栖は初戦で名古屋グランパスに大敗し、巻き返しに全力を注いでくる。その相手をいなすことができれば、初タイトル獲得へ弾みがつく。神戸を躍進させれば、日本代表復帰の道も開けてくるだけに、背番号5をつけるダイナモの一挙手一投足は、非常に興味深い。

文=元川悦子

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