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【ライターコラムfrom福岡】井原体制4年間で堅実なスタイルは浸透するも、足りなかった「勝ち切るサッカー」

2018.12.04

『J2優勝、自動昇格』の目標を掲げた福岡だったが、結果は7位とJ1参入POも逃した [写真]=J.LEAGUE

 井原正巳監督4年目のシーズン。2015年にJ1昇格、16年にJ2降格、昨季はJ1昇格プレーオフ決勝で名古屋グランパスに敗れてJ1昇格を逃し、今年は『J2優勝、自動昇格』というミッションの下、チームが編成された。しかしながら結果は7位とJ1参入プレーオフへの進出も叶わず、井原監督は今季限りでの退任を発表した。

 今季のチームは、昨季チーム最多の19得点を挙げたFWウェリントンが去り、攻撃パターンの再構築がテーマの一つだった。前年8得点の石津大介、山瀬功治(6得点)、松田力(4得点)は残留。ドゥドゥ(←ヴァンフォーレ甲府)、森本貴幸(←川崎フロンターレ)ら機動力のあるストライカーに加え、ウェリントンと同様に高さが武器のブラジル人FWトゥーリオが加入した。一方、守備陣ではユース昇格組の日本代表DF冨安健洋、リオ五輪代表の亀川諒史らが去り、輪湖直樹(←柏レイソル)、平尾壮(←ガンバ大阪)、篠原弘次郎(←ファジアーノ岡山)を補強。さらにシーズン途中には古賀太陽(←柏)、吉本一謙(←FC東京)が加入し、最終ラインの陣容を整えた。


■堅実なスタイルは維持するも勝負どころで結果を残せず

第32節の松本とのライバル対決は終了間際に決勝点を奪われ敗戦するなど、9月はゲーム内容が結果に繋がらない試合が続いた [写真]=J.LEAGUE


 開幕戦はFC岐阜に2-0で勝利。シーズン序盤は〔4-4-2〕をベースに対戦相手によって〔3-4-3〕なども併用し、前線のドゥドゥ、石津、松田、FC東京から加入したユ・インス、森本らがポジションを入れ替えながらショートパスからのコンビネーションで攻撃を仕掛けるスタイルを模索。第16節から18節には3連勝して暫定順位ながら首位にも立った。しかし、リーグ戦折り返しとなる第21節時点では首位と勝点4差の5位。失点数はリーグ2位タイの21失点で「1試合平均1失点以下」という数値目標はギリギリでクリアしたものの、得点数は29得点(リーグ8位)と「1試合平均1.5得点」という目標をやや下回った。

 リーグ戦の折り返し時点で井原監督はチーム状況についてこう振り返る。
「年間勝点84を目標にしているので、(第21節終了時点で)勝点6足りていない。ただ(当時)首位も勝点40しか取れていないことを考えると、上位は混戦となって、優勝チームの勝点は前年より下回るかもしれない。守備に関しては、ピンチもあるが粘り強く体を張れているところはある。攻撃に関しては、得点するための選択肢をもっと増やす必要がある。マイボールの時にいかに効率よく攻めながらフィニッシュにもっていくか。もっとチャンスを多くつくらないとゴールは生まれない」

 シーズン後半に入ると、ゲーム自体は支配しながらも、勝ち切れない試合が増える。大雨や台風のため延期となったゲームが2試合組み込まれた9月は、連勝して上位を確保するチャンスの月だったが、第32節に対戦した昇格ライバルの松本山雅FCとの大一番で後半アディショナルタイムに決勝点を奪われ敗戦。その後横浜FC、ジェフユナイテッド千葉と2試合を引き分け、当時20位だった京都サンガF.C.に敗れ、7試合で3勝2敗2分と一時プレーオフ圏外の7位まで順位を落とした。「結果は出ていないが、やろうとしていることはできている」(MF鈴木惇)と選手自身は前を向いていたが、結果的にはこの9月の取りこぼしが最終結果にも響くこととなった。

 リーグ戦5試合を残し、自動昇格圏内まで暫定で勝点4差。自動昇格への望みをかけて戦った第38節のモンテディオ山形戦、39節のツエーゲン金沢戦を引き分け、上位直接対決となった第40節のFC町田ゼルビア戦に今季初の逆転負けを喫したことで目標としていたJ2優勝が消滅。井原監督は、この試合の後に選手たちへ今季限りでの退任の意向を伝えたという。その心境をこう振り返る。
「(町田に逆転負けして)そのまま連敗する雰囲気になった。目標が達成できず、その責任を取ろうという思いがあり、選手たちに伝えることで起爆剤になればと(その時期に)伝えることにした」。チームは奮起し、残り2試合を1勝1分で終える。シーズンを通して連敗は1度だけ、総失点数も42(1試合平均1失点)と堅実なスタイルは維持できたが、順位的には7位とプレーオフ進出を逃した。

■福岡と同じスタイルでJ2優勝を果たした松本との差とは何か

堅実なスタイルは井原体制4年間で浸透したものの、今季チャレンジした多彩な攻撃スタイルの構築は実現できなかった [写真]=J.LEAGUE


 今季のJ2は優勝した松本の年間34失点が象徴するように、手堅いスタイルのチームが上位争いに加わった印象のあるシーズンだった。福岡も「1試合1失点以下という目標は、自分が監督としてやってきたことのベースだった」と井原監督が振り返るとおり、堅実なスタイルは井原体制4年間で浸透し、J2での3シーズンは常に上位で戦うことができた。しかしながら「(就任)2年目にJ1で戦って通用しなかった攻撃の部分で、J1でも戦えるスタイルを構築したかった」(井原監督)とチャレンジした今季の多彩な攻撃スタイルは、構築の道半ばといったところでシーズンが終了した印象だ。

 今季での退団が発表された駒野がシーズン中、チーム状況についてこのように語っていたが、まさにこれが、今後の福岡が課題とすべきことだろう。
「自分たちのサッカーができている時間帯はいいが、相手に持たれている時間帯、悪い流れのときにどれだけ守り切れるかが課題。そういった時間を1分でも1秒でも少なくするためにどうするか。ボールを奪ったあとのポジショニング、ファーストパスのミス、そういったことにもっと意識を高めないといけない。攻撃ではカウンター主体になっているが、ショートパスで相手を動かすことをしないと(相手を)崩すことはできない。ビルドアップのときにも相手の嫌なポジションに立ったり、数的優位を作ったり、そういう細かいところが、まだまだ足りていない」

 福岡と同じように堅実なスタイルでJ2優勝を果たした松本との差について井原監督は「同じスタイルを貫き通す強さ」「勝ち切るサッカー」の2点を挙げた。「毎年、自分たちの選手の特徴と相手の分析をしたなかで、スタイルがブレることなくチームを維持していた。今年はチーム全体がJ2優勝に向かって一体となっていたことを、一番感じた対戦相手だった」。
 そして年間54得点と得点数は少ないながら、年間7敗とリーグでもっとも敗戦が少なかった松本について「得点が少なくても勝ち切るサッカー。千葉(72得点)のようにゴールを奪えるチームでも、14位と上位に入れないことも事実。難しいバランスだが、そういうところを極めたチーム」と称賛した。

 来季は井原監督のほか、現役時代に福岡でプレーした久藤清一コーチを除く4人のコーチ退任も発表され、来季は体制が一新される。16年はJ1で4勝しかできず、井原監督自身も「人生で初めて、あれほど負けた」と悔しさを露わにしたが、J1で戦えるチーム力を養いながら、J1昇格を目指していくスタンスは、来季も変わらないだろう。井原監督が築いた堅守をベースにしつつ、J1で戦える攻撃力、タフさと賢さを積み上げることがJ1昇格への近道となるはずだ。

文=新甫條利子

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