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中村憲剛が語る、なぜ川崎フロンターレは勝ち点13差から大逆転できたのか

2018.11.30

昨季、悲願の初タイトルを手にした川崎が連覇を達成した [写真]=J.LEAGUE PHOTOS

 川崎フロンターレがJ1連覇を達成してから、約3週間が過ぎようとしている。

 優勝を決めたセレッソ大阪戦からは2週間の試合間隔があり、先週末にはFC東京との多摩川クラシコに2-0で勝利を収めている。残りは最終節の残すのみとなったが、いつもと変わらぬトレーニングを麻生グラウンドで実施している。


「優勝が早く決まると、ありがたいです。サポーターから『おめでとう』と言ってもらって、触れあえましたね。ユニフォームとか色紙に『連覇』という漢字をたくさん書きました」

 そう笑うのは、中村憲剛である。

 思えば、昨年は最終節での優勝だったため、翌日には解団式を経て、オフに入っている。そのため、選手たちがサポーターと触れあう機会もほとんどなかったのだ。一方、今年はまだリーグ戦が残っている日程で果たした優勝である。練習見学に足を運ぶサポーターへのファンサービス対応が行われるのと同時に、選手たちもサポーターから祝福の言葉を数多くかけてもらっているようだった。

「初優勝」であっても、「連覇」であっても、リーグ優勝の価値は変わらない。ただし、優勝への道のりは、少し違った。今年のプロセスに関していえば、やるべきことを突き詰めてつかんだものだと中村は説明する。

「去年はちょっと劇的過ぎましたからね。すべての意味で。今年はどちらかといえば、自分たちの成熟度というか、やるべきことを突き詰めて、噛み締めながら優勝したような感じでしたね。最終節前に決まって、そこまで盛り上がらなかった。取り上げる側からすると、新鮮さもないかもしれない(笑)。でも連覇ってこういうことかなと」

中村憲剛

――自分たちがやるべきことを突き詰めれば、その先に優勝がある。そのことを当然の結果として走り続けたというわけだ。

 もっとも、一時期はサンフレッチェ広島に勝ち点13差をつけられている。マラソンでいえば、途中までは自分よりもはるか先で、広島の独走状態だったレースだ。それでも脱落しなかったのは、すべてが自分たち次第だと選手たちが腹を括ったからに他ならない。

「自分たちで勝ち点を積み重ねること。勝ち点が減ることはないのだから、やる作業は変わらないし、そこの頂点を目指すことにも変わらない。相手は関係ない。もし負ければ、優勝を持っていかれるのも自分たち」

 普通だったら、自分がどんなに頑張っても追いつけないと思うかもしれない。しかし今年の川崎は、自分たちが脱落しなければ、必ず追いつけるという確信のようなものがあったという。だから、そのベクトルも自分たちに向け続けた。

 では、なぜそれだけ自分たちを信じられたのか。その根源にあるのは、昨年の成功体験によるものだ。

 昨シーズンの終盤、川崎の優勝条件は、残り3試合を全勝した上での鹿島の結果次第だった。自分たちが負けた瞬間、鹿島の優勝が決まる崖っぷちが続く中、1-0で連勝するしぶとさを発揮して、最終戦は大勝利を飾る。川崎は最後の最後で優勝を果たした。追い込まれた状況下で勝ち続けて優勝した経験が大きいと中村は言う。

「優勝を意識してソワソワし出すチームは、他が気になったりする。でも去年は、負けたら終わりのデスマッチを1カ月ぐらい続いて、それを全部勝って乗り越えた。ルヴァンカップ決勝で負けた後の3試合ですよね。あの時に、『他人じゃないよね、自分だよ』と。それを知りました」

 もちろん、連覇できたのは、それを達成するだけの地力がチームにあったからでもある。中村は、ここ2、3年で、優勝争いし続けている環境にチームが身を置いていること、そして麻生での厳しいトレーニングが結果につながっていることなど、そういった要因が連覇の下地になっているとも振り返る。

「2016年で優勝争いをした。それも大きかった。あれを入れてこの3年、優勝争いしている。そしてそれが日常になっている。つながっている。トレーニングをいくらしても勝てなかったら、疑心暗鬼になる。そういう意味では、ここでやったことがそのまま出る。その代わり、超きついですけど(笑)」

中村憲剛

――厳しく、レベルの高い練習が、選手たちの自信になっている。

 例えば、前節のFC東京戦では、小林悠と大島僚太という大黒柱二人が欠場という事態に見舞われていた。そこで鬼木監督は知念慶、長谷川竜也、そして田中碧という若手たちにチャンスを与えている。先発した知念と長谷川は得点を挙げ、リーグ初先発の田中はフル出場を果たした。印象的だったのは、彼らが結果を出すことを当然のこととして語る姿だった。試合後の知念は、こう胸を張った。

「普段の練習から競争しているし、こういうときに出番が巡ってきた選手が結果を残せるチームが強いチームだと思います。自分が結果を出せたのは不思議ではないし、出さないといけない場面だった。最低限の結果だったと思っている。やれる自信はあるし、高いレベルで練習をやっているので、相手が強くてもそれなりにやれると思っていました」

 レギュラー陣だけではなく、チャンスを与えられた若手もしっかりと結果を出す。チームにはそういうサイクルが生まれつつあるということだ。田中も同様で、自信を持って臨んだという。

「常に日本一の選手たちとやっている。要求も高い。それに応えるために自分自身もレベルアップしないといけない。そう考えると、日頃の練習がレベルの高いもので、それが試合に生きている。それは感じました。このチームのボランチは日本を代表する選手たちがいる。そういう選手たちを越えていきたいという思いもあります。もっともっと練習しないといけない」

 連覇を達成した川崎は、クラブの歴史の中で「黄金期」と呼ばれる時代に入りつつあるのかもしれない。ただ、そんな中でも中村はまだ満足していない。達成した過去を愛でるのではなく、彼はあくまでクラブの未来に目を輝かせる。

「まだ物足りないところはいっぱいありますよ。完全無欠の優勝がしたい。毎試合、全部勝つ。引き分けも悔しがる。そういうクラブになりたい。それがチームの監督が変わっても、人が変わっても、脈々と受け継がれていくような……でも、そんなに簡単じゃない。Jリーグの歴史を紐解いても、鹿島でも苦しい時はある。でも哲学があることは大事だし、それはできつつある。それをどう継承していくのかですね」

 さらに、もっと強いチャンピオンになるために。週末に控える最終節は、すでに3連覇に向けた戦いなのかもしれない。

文=いしかわごう

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