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【ライターコラムfrom清水】岡崎慎司の足跡を追う北川航也。成長のきっかけとなったJr.ユース時代の事件とは?

10月に代表デビューを飾るなど、飛躍の1年を過ごす北川 [写真]J.LEAGUE

「あれがあったから成長できた部分も大きいと思います」

 10月8日に日本代表に初選出された清水の北川航也が「あれ」と振り返るのは、ジュニアユース時代の中学3年時に起きた出来事だ。

 U-15年代の春の全国大会(2011年JFAプレミアカップ)準決勝・京都戦。清水ジュニアユースはそれまでの3試合で16得点(うち北川は6得点)と爆発的な攻撃力を発揮していたが、この試合では京都の堅守を崩しきれずに0-1の敗戦を喫した。事件が起きたのはその試合直後、判定も含めてイライラを募らせていた北川が感情を爆発させてしまい、審判に暴言を吐いてレッドカードを受けたのだ。

 この試合をピッチサイドで取材していた筆者から見ても、彼が判定に不満を持ったことには同情の余地があった。それでも、審判への暴言は絶対にやってはいけないこと。ジュニアユース時代の恩師・横山貴之監督に叱責され、北川がボロボロと涙を流していた光景を今も鮮明に覚えている。

 ただ、彼の“熱さ”に頼もしさを感じたのも事実だった。プロを目指す集団であるべきJ1クラブの下部組織であっても、最近は負けん気の強さや貪欲さ、向上心といった面で物足りなさを感じる選手も多い。そんな中で、彼が持つ“ギラギラ感”はある種の期待感を抱かせてくれた。

 北川本人は、当時のことを次のように振り返る。

「もともとすごく負けず嫌いで、何をしても負けるのが嫌だった。ただ(当時は)負けたことについて自分に腹を立てるのではなく、周りのせいにしたり、審判のせいにしたりしている自分がいたと思います。あの失敗でチームにすごく迷惑をかけたし、自分の損になることしかなかった。だから、そこからはすべての責任は自分にあると考えられるようになったし、いろんなことを素直に学べるようになったと思います」

 そのうえで夏の全国大会(2011 日本クラブユース選手権 U-15大会)には意識を切り換えて臨んだ。「気持ちは熱く、頭は冷静に、審判へのリスペクトや地元の人たちへの感謝を意識しながらプレーしました」。それが結果としてチームの2連覇と自身の得点王&MVP(7試合で12得点)につながり、彼自身一皮も二皮もむけることができた。

 春の失敗から夏の雪辱にかけて、思春期の北川の中で起こった最大の変化は、自分自身にベクトルを向けられるようになったことだ。思うようにいかない原因を周りの人や環境に押しつけるのではなく、まずは自分の中に問題点を求め、真摯に向き合っていく。さらに、それによって大きな成功体験をつかむ。言葉にすると簡単だが、中学生のうちにそれを体得できる選手は多くない。

 2015年にプロになってからは思うように試合に出られない時期もあったが、周りのせいにするような言葉を北川から一度たりとも聞いたことがない。ただ、ユースで早くからエースとして活躍し、スピードや突破力、決定力といった持ち味に磨きをかけてきた彼も、プロの世界では何度も壁に直面してきた。

「自分の能力は通用するだろうと思って(プロに)入りましたが、ジュニアユースやユースの頃と同じようにやれるほど甘い世界でないというのは、練習の中で気づきました。通用しない部分のほうが多くて、考えて、悩んで、失敗して、という繰り返し。それでも、その失敗を一つずつ成長につなげていくという形が徐々にできてきたのかなと。1年目から自分の力のなさに気づいて、いろいろ考えられたのは大きかったと思います」

1年目のJ1での成績は7試合・1得点。プロの世界では何度も壁にぶつかってきた [写真]J.LEAGUE

 自分にベクトルを向けることからさらに進化して、自らを客観的に見つめるような視点を備えてきたこと、そして自分自身の分析がより細かく的確になってきたことが、プロに入ってから大きく成長した部分と言える。

 例えば、縦パスを受ける際の体の向きやその後のターン、動き出しのタイミングなど、それまで感覚だけでやってきたプレーを細部まで見つめ直し、地道な居残り練習をくり返してきた。もちろん、課題だったスタミナ面や守備面にも時間をかけて取り組み、食事や休息といったピッチ外での行動にも気を配るようになった。

 プロ1年目はJ1で7試合・1得点。2年目はJ2で30試合・9得点を記録して昇格に貢献したが、3年目の昨季はJ1で26試合・5得点という結果だった。それが今季は第30節終了現在で29試合・12得点。レギュラーポジションをつかみ、清水のアカデミー出身者としては市川大祐以来2人目となる日本代表選手にもなった。

 数字だけで見ると、今年に入って急成長したように見えるが、そうでないことは誰よりも本人がよく分かっている。「自分には下積みが必要でしたし、今もそれが大事だと思っています。それを支えてくれるのがこのクラブですし、たくさんの人と出会って話を聞いたりするのも大事だと思う。自分を支えてくれた人たちに感謝したいです」

 清水から世界へと羽ばたいていった中に、内面も含めて成長過程が北川とよく似ている選手がいる。北川自身も目標とする岡崎慎司(レスター)だ。加入当初の岡崎は北川よりもスタッフの評価が低かったが、彼は貪欲に様々なところへ出向き、いろいろな人の話を聞き、自分のためになると思ったことはすべて取り入れ、地道に自らを成長させていった。それが4年目で花開き、初の代表招集につながった点も北川と同様だ。

 そんな岡崎の成長過程を間近で見てきたからこそ、筆者は北川に対しても「この選手はまだまだ伸びる」と確信できる。岡崎がそうだったように、北川もまたどこまでいっても慢心することなく“自分で自分を成長させる力”を備えている。

文=前島芳雄

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