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【コラム】室屋成、苦境に立つ今こそ成長のチャンス…壁を乗り越え日本代表定着へ

2018.10.02

日本代表にも選出されたFC東京の室屋成 [写真]=Getty Images

 クラブ創立20周年記念のゴールドのユニフォームを身にまとい、FC東京のイレブンは土砂降りの雨が降る味の素スタジアムのピッチに立った。J1では7試合未勝利と苦境に陥る彼らにとって、29日の清水エスパルス戦は勝ち点3奪取が至上命題だった。

 そのけん引役として大きな期待を背負ったのが、9月11日のコスタリカ戦で好パフォーマンスを見せ、日本代表定着へ大きな一歩を踏み出した室屋成。前節のサンフレッチェ広島戦は累積警告で欠場しており、万全のコンディションで挑める状態だっただけに、奮起が強く求められた。


 背番号2をつける男は持ち前の豊富な運動量を生かして右サイドを精力的にアップダウンした。14分には自らの上がりから東慶悟のチャンスをお膳立てし、40分には思い切りのいいシュートを放つなど、本人も何とかして勝利を引き寄せようと奮闘する。後半立ち上がりにも立て続けにオーバーラップを見せるものの、得点には至らない。

 苛立ちが募る状況を逆手に取られ、FC東京は後半に2失点を喫してしまう。1失点目は相手のシンプルなつなぎからドウグラスのシュートのこぼれ球を北川航也に頭で押し込まれた。ドウグラスのPKによる2失点目はチャン・ヒョンスの守備対応によるもの。いずれも高い位置を取っていた室屋は守備のサポートに行くことができなかった。しかしながら、ピッチに立っていた選手として0-2の完敗という結果を受け止めないわけにはいかない。

「今日に関しては相手の方が勝っていましたし、戦術どうこうというより、もっと戦わなきゃいけない。自分たちがピッチで勝つために貪欲な姿勢を示さないといけないというのは強く感じます。勝っていた頃はなかなか点が入らない時間帯でもチームとしてもっと我慢で来ていたのに、今はあっさりと失点してしまう。攻撃面も人数をかけてゴールに向かう姿勢が足りなかった。そこは改善する必要がありますね」と本人も率直に反省の弁を口にするしかなかった。

 これでFC東京は8試合勝利なし。今季の前半戦は広島と首位争いを繰り広げていたが、ここへきてACL出場圏内の3位からも陥落する事態となった。残り6試合で巻き返せなければ、ACL出場権獲得という最低限の目標にも届かなくなる。長谷川健太監督も「こんな試合をしていたらどこにも勝てない。一人元気な選手が出てくるか、イキのいい選手を探さないといけない」と危機感を募らせたが、代表定着を目指す室屋はまさにその役割を担わなければならない存在と言っていい。

「自分からチームにアクションを起こす? まあそうですね……。プレーで戦う姿勢を見せてかなきゃいけないと思います」と彼は謙虚なスタンスを崩さなかったが、プロ3年目・24歳になった男はもう若手ではない。周囲に遠慮せず、自分からどんどん積極的にリーダーシップを取っていくくらいの気概を示すべきだ。

室屋成

9月は日本代表に招集された [写真]=Getty Images

 同じ明治大学出身の長友佑都(ガラタサライ)の20代前半の頃を思い返してみると、ダメな時はダメだとはっきり言い切り、凄まじい迫力でチーム全体を鼓舞していた。そんな先輩に比べると、室屋は大人しすぎる印象がある。これから日本代表でその長友や酒井宏樹(マルセイユ)と競争していこうと思うなら、強引に周りを引っ張るくらいの強靭なメンタリティを身に着けなければならない。FC東京が苦境に陥っている今こそ、自らをガラリと変える好機なのだ。

 室屋にとってのもう一つの課題はプレーの幅が少ないこと。この日マッチアップした清水の白崎凌兵が「室屋選手の特徴は縦への推進力。だけど、縦を押さえたら、そんなにいろいろなことをするタイプじゃない。そこだけをケアすれば怖くなかった」と語っていたように、前へ前へと進むだけでは相手に抑えられてしまうのだ。

 タッチライン際を献身的にアップダウンできる部分は室屋の魅力だし、その走力を買われたからこそU-17日本代表からリオ五輪代表、A代表へと順調に飛躍することができたのだ。とはいえ、これ以上の高いレベルに到達するためには、自らシュートを打ちに行ったり、ゲームメークをしたり、クロスの種類を増やすなどの多彩な仕事ができるようにならないといけない。そこは本人もしっかりと自覚すべき点だろう。

 酒井宏樹と長友という世界で活躍する両サイドバックの牙城を崩すのは簡単なことではない。ただ、室屋はその可能性がある選手と見られている。森保一監督率いる新生・日本代表の初陣にスタメン出場した本人もその意識が高まっているはず。だからこそ、自分を変えていく努力と工夫がより一層、必要だ。チームの停滞感を打破し、再び上昇気流に乗せることができれば、彼の評価は間違いなく上がる。「まずはチームでしっかり結果とパフォーマンスを出さないといけない。その先に代表がある」という自身の言葉通り、まずはFC東京を勝たせられる選手になること。そこに徹してほしいものだ。

文=元川悦子


By 元川悦子

94年からサッカーを取材し続けるアグレッシブなサッカーライター。W杯は94年アメリカ大会から毎大会取材しており、普段はJリーグ、日本代表などを精力的に取材。

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