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86番と89番に込められた“平和”への願い…J初のピースマッチが示した「勝敗以上に大切なこと」

2018.08.15

8月11日のJリーグでは、選手、サポーターによってある祈りが捧げられた [写真]=J.LEAGUE

 8月11日、J1リーグで特別な試合がキックオフを迎えた。リーグ首位のサンフレッチェ広島がホームにV・ファーレン長崎を迎えての一戦、試合前のピッチには「86」を背負った11名と「89」を背負った11名、計22名の選手たちが並んでいた。

 1945年8月、戦中の日本は被爆国となった。広島市と長崎市に原子爆弾が投下され、一瞬にして多くの人々の命が奪われた。引き換えに、日本は今日の平和を手にした。73年の時を経て開催された広島と長崎の試合は、サッカーを通じて世界平和の実現を願って、そして、尊い犠牲者たちへの哀悼の意を込めてJリーグ史上初の『ピースマッチ』として開催された。


広島、長崎両クラブの強い思いが実現した特別な一戦

試合前日、両社長が広島市の平和記念公園を訪れ献花を行った(左:V・ファーレン長崎 高田明社長、右:サンフレッチェ広島 山本拓也社長)

 きっかけは昨シーズンに遡る。当時J2で戦っていた長崎は快進撃を展開し、クラブ史上初のJ1昇格を果たした。これで2018年シーズンは被爆都市をホームとする2つのクラブが同じJ1の舞台で対戦することとなった。そこで両クラブは、Jリーグに8月の対戦を要望した。Jリーグはこれを受け入れ、競技や興行上の公平性を保った上でピースマッチの開催が実現した。

『One Ball. One World. スポーツができる平和に感謝』――、ピースマッチのキャッチコピーには「サッカーを通じて、スポーツができる平和に感謝し、世界をひとつにしたい」という両クラブの思いが込められている。試合前日の10日には、広島の山本拓也社長と長崎の高田明社長が松井一實広島市長を訪問。特に思い入れが強く、待ちに待った一戦への決意を語った。

「“原爆”というテーマがあるため、自然と厳かにはなります。でも、『平和だからこそサッカーができる』という明るい部分も伝えて、サポーターの皆さんへ笑顔を届けたいです」(サンフレッチェ広島 山本拓也社長)

「J1に昇格して一番楽しみにしていたのが、広島さんとのピースマッチでした。日本だけでなく、世界に平和を発信できるチャンスです。サッカーを通して平和の一助となるよう一生懸命戦いたいです」(V・ファーレン長崎 高田明社長)

 この時、両社長は特別に用意された“平和祈念ユニフォーム”を披露。ここにも平和への願いを表現するための趣向が凝らされていた。

互いを尊重する意思が刻まれた86番と89番のユニフォーム

平和祈念ユニフォームには「原爆の日」を表した86と89の背番号をプリント

[写真]=J.LEAGUE

 両クラブの平和祈念ユニフォームには、8月6日と8月9日、それぞれの「原爆の日」を表した「86」と「89」が背番号にプリントされていた。さらに、背番号の色にも意味がある。広島のユニフォームには長崎のチームカラーである青とオレンジで構成された番号を、長崎の番号には広島のチームカラーである紫が採用された。これは「お互いを尊重しあい、エールを交換する」という意味が表現されている。また、広島のユニフォームには両肩に、長崎は前背面に平和を象徴する折り鶴がデザインされている。

 試合当日、選手たちは平和祈念ユニフォームを身に纏い、ピッチに入場。試合前のセレモニーでは、スタジアムにいる全員で聖火台『希望の灯』に向かって黙祷を捧げた。試合は広島が2-0で勝利を収めた。首位をキープした広島と16位に順位を下げた長崎、対照的な結果となった両クラブだが、ピースマッチには勝敗以上に重要な意味があったようだ。

勝利を収めた広島の選手たちは試合後にも86番の平和祈念ユニフォームを着て、サポーターへ挨拶 [写真]=J.LEAGUE

「試合前にこんなにも『大事な日』と感じることはなかったので、長崎さんと一緒にサッカーを通じて平和を発信できること、自分たちが思い切りサッカーができる幸せを共有しながら、噛みしめながらサッカーができて良かった」

 試合後、広島のキャプテン・青山敏弘は神妙な面持ちでそう語った。

「自分たちが広島でサッカーができる意味を改めて感じさせていただきました。サッカーを通して次に発信していく使命にも気付いた。本当に皆さんに感謝したいと思います」(青山)

 終戦から70年以上が経過し、あの悲劇を経験した人も少なくなった。過去の出来事は時間の経過に連れて風化していくのが世の常だ。それでも、同じ悲劇を繰り返さないために、後世に語り継がなければならない。夏休み中のリーグ戦ともあって、ピースマッチには多くの子どもたちも詰めかけた。選手が着用した平和祈念ユニフォームやセレモニーの黙祷を通じて、少なからず“平和”というものを意識するきっかけになったことだろう。そういう意味でも、ピースマッチは確かに特別な試合だった。しかし、長崎の高木琢也監督が「この試合だけが特別なゲームではなくて、これからももっともっとこういうものを広げていきながら、平和というものを一緒に考えていきたい」と話すように、きっかけにすぎないのかもしれない。終戦記念日の今日開催されるJ1リーグ9試合をはじめ、全ての試合が平和を願うピースマッチとなることを心から願う。

文=サッカーキング編集部

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