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【ライターコラムfrom山形】堅守を支えた加賀健一が長期離脱。34歳の示した「お手本」に学んだ守備陣の真価が問われる後半戦

2018.08.03

チームの堅守を支えてきた加賀だが、7月の練習中に右膝前十字靭帯断裂し、長期離脱を余儀なくされた [写真]=J.LEAGUE

加賀健一選手の負傷について」。

 7月23日にクラブから出されたリリースに、一瞬目を疑った。右膝前十字靭帯断裂で全治6カ月。予想もしなかった診断結果だった。


 7月4日のトレーニング中、いつものように主力組の3バックの右でプレーしていた加賀が、気づくとコートの外に出ていた。しばしトレーナーと二人で右膝の状態を確認していたが、やがて一人で歩いてクラブハウスへ引き上げて行った。深刻な怪我をしたようには見えず、悪くても次の試合に欠場する程度だろうと思っていたのだが、待っていたのは非情な現実だった。モンテディオ山形は、強力な守備のピースを欠いて、シーズンの後半戦を戦うことになった。

 加賀はジュビロ磐田で長くキャリアを積み、コンサドーレ札幌、FC東京、浦和レッズでもプレー。山形に加入してまだ2年目だが、チームメートやサポーターからの信頼は絶大だ。対人の強さとスピードを生かした守備もさることながら、ピンチの局面でも慌てることなくチームを落ち着かせる余裕は、今年35歳になる彼の百戦錬磨の経験のなせる技だろう。

 特に今季はその存在の大きさが際立った。開幕から失点の多さに頭を悩ませていた木山隆之監督が、4バックから3バックにフォーメーションを変更して守備を整備し直した、そのタイミングで戦列に戻ったのが加賀であり、そこからのチームは劇的に失点を減らした。

「たまたまじゃないですか?」と本人は笑ったが、決して偶然ではない。3バックに変えた、つまり加賀が入った第6節東京V戦から「劇的にライン設定が変わった」と証言するのはセンターバックの中央を担う栗山直樹だ。裏を取られることを警戒してポジションを低く取りがちな最終ラインを「大丈夫だから、ここまで来い」と高く維持させ、なおかつカバーリングのポジションに関しても手本を示す。プロ入り6年目にして開花した感のある栗山と、大卒ルーキーの熊本雄太との3人で、山形伝統の固い守備を取り戻した。加賀が出場していた21節まで9試合負けなし(6勝3分け)の成績。そんな矢先の大きな怪我だった。

 加賀の離脱の後、チームは横浜FCと引き分け、栃木、新潟を相手に連敗を喫した。95分に決勝ゴールを許して敗れた新潟戦の後、MF本田拓也は敢えて厳しい口調で守備の甘さを指摘した。

「後ろが健ちゃん(加賀選手)に頼り過ぎていたところもあるんじゃないですか。健ちゃんがカバーしてくれたり、球際に行ってくれたりしていたから。ああいういいお手本がいたんだから、それを見習ってやらないと、チームとしても個人としても伸びない」

 この時はまだ加賀の怪我について公式発表前だったのだが、今にして思えば、本田のこの言葉は加賀の離脱を念頭に置いていたのかもしれない。

「あれだけの選手が、あの年になっても、カバーをしたり球際のところに強く行くのを間近で見ているわけだから、カバーしに行くとか、体を投げ出して行く、最後のゴール前でシュートを打たれた時にもっと寄せて体を投げ出すとか(やらないと)。ちょっと遅い」

 ピッチを離れざるを得なくなった盟友の悔しさを、代わりに吐き出しているかのようだった。

 クラブからのリリースが出た後、加賀は自身のインスタグラムでも今回の負傷離脱を報告している。そこには診断を受けた時の衝撃と復帰への意欲が綴られ、最後はチームメートとサポーターへのメッセージで結ばれていた。

〈残りの試合に出場する事はできないけど、あとはみんなよろしく!
 J1に昇格しような!
 サポーターの皆さんご心配なく!
 彼らはやってくれるはずです!!〉

加賀(左)ととも3バックを担い、山形伝統の固い守備を復活させた栗山(右) [写真]=J.LEAGUE

 加賀の思いがチームに届いたかのように、岡山をホームに迎えた第25節は0−0で迎えた94分に小林成豪がゴールを決めて勝利、連敗を止めた。決勝点をアシストした功労者でもある栗山は、クリーンシートで終えたこの試合の守備についてこう語っている。

「前節は新潟さん相手にちょっと攻撃を受けてしまう時間が長くて、なかなかラインが上がらずに、パワープレー気味にクロスをバンバン放り込まれる場面があって、最後の最後で失点してしまった。その反省を踏まえて、上げられる時に出来るだけラインを上げて、ペナルティエリア内で攻撃を受けないようにしようというのは意識していました」

 加賀がいなくても、怯まずに、高いラインを。いや、これからもきっと、臆病になりそうな時には加賀の「大丈夫だから、ここまで来い」の声が、後を託された守備陣の背中を押すはずだ。

「来年、健さんが戻って来た時にJ1という舞台を用意して待っていたい」

 栗山が口にした決意を現実のものにするのは、もちろん簡単なことではない。それでも、逆説的ではあるけれど、ベテランディフェンダーの不在を感じさせない試合をして勝つことが、彼のリハビリの力にもなるだろう。

 劇的勝利を挙げた岡山戦で、サポーターへの挨拶を終えた選手たちが去った後、山形のゴール裏から力強い「加賀コール」が放たれた。スタジアムにいない選手の名を呼ぶ声が、寂しさと、励ましと、快復への祈りを乗せて響いた。私たちは、背番号15が再びこの場所に帰って来るその時を、ここで待っている。

文=頼野亜唯子

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