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【ライターコラムfrom千葉】“姉崎のマラドーナ”工藤浩平、8年ぶりに千葉帰還…愛する古巣に結果で「恩返し」を

2018.07.28

古巣・千葉に復帰した工藤浩平 [写真]=J.LEAGUE

「サポーターに懐かしいチャントを歌ってもらえたことについて、自分の中で思うところもあった。だからこそ、勝ち点3を取って皆さんに挨拶が出来たことは良かったです」と25日のヴァンフォーレ甲府戦を終えたあと工藤浩平は話した。

 7月1日、約8年ぶりにジェフユナイテッド千葉への復帰が発表された。その2日後からは練習場で精力的に汗を流し、20日の追加登録を待った。そして21日のカマタマーレ讃岐戦の54分に出番はやってきた。2点を先行される苦しい展開の中、茶島雄介に代わりピッチに投入された背番号22は攻撃のアクセントを生み出し、今後への期待を抱かせるプレーを見せる。続く甲府戦では先発に名を連ね90分間、フクアリのピッチを所狭しと駆け回った。ゴールを狙う姿勢と中盤を間延びさせないよう、ボールを受け、配給し、また受ける。それを繰り返すことでチームにリズムを呼び込んだ。


「それが僕の特長。欲を言えばプラスして、アシストやゴールを意識していきたいです」

 千葉は先制を許すも21分に茶島のミドルシュートで追いつくと、82分には工藤が相手ボールを奪い右に展開。サイドからのクロスを為田大貴が頭で合わせ劇的な逆転勝利を収め連敗を3で止めた。工藤は「前半はチャンスを作れましたし得点も取れたので、これを続けたいと思います。後半、粘り強く守備で耐えられたことがゴールにつながったと感じます」と振り返ると、チーム一丸となっての勝利に「チームメイトに感謝したいです」と心からの謝意を口にした。

 地元・市原市出身で千葉の下部組織で育った工藤。2003年にはトップチームに昇格し、プロとしての礎を築いた。“姉崎のマラドーナ”という異名を持つ男は、足元の技術と試合の流れを読む目はJトップクラスであり、2010年にはキャプテンを務めた。当時、チームの指揮を執っていた江尻篤彦コーチは「昔からゲームを作る能力は高いものがありました。あの時、生え抜きの選手が少ない状況で浩平にチームを引っ張る自覚、メンタル的な成長の期待を込めてキャプテンを任せました。当時は一杯一杯だったと思います(笑)」と懐かしそうに振り返ると「今は冷静な目でチームを見てくれて、足りないものを注入してくれています」と目を細めた。

工藤浩平

2010年は主将としてチームをけん引 [写真]=J.LEAGUE

 クラブは町田也真人がケガで離脱し中盤の選手をリストアップした中で「必要な技術を持っていること。強いメンタリティーがあり、負けている時に相手の股を抜いたり、勝っている時に時間を使うプレーもできる。そして練習中に引っ張って行ける気持ちがある」(高橋悠太GM)ことが獲得への判断材料となった。送り出してくれた松本山雅FCに感謝しながらも、あの時に成しえなかった古巣のJ1復帰を後押しすべく工藤は「千葉を離れて長くなりましたが、どこかで恩返しをしたいという気持ちがありました。他のチームで頑張っていましたが、この歳になってオファーをもらえたことには感謝の気持ちしかありません。千葉でやらせてもらえるなら」と古巣・千葉愛が勝ったことを話す。

 夏場の移籍で重要になるのは、いかにチームに溶け込めるか。「上手く溶け込めているとか、そんなことを言っている時間もないので積極的にコミュニケーションを取っていきます」。自分の特長を周りに理解してもらいながらチームメイトの特長を理解する。連携は日に日に深まっている一方、「試合の終わらせ方、運び方、どうすれば勝利に近づけるかは分かっています。声だけでなく勝つためのプレーを選択したい」と歩みの速度を上げる。公式戦の中では、落ち着かせる所で落ち着かせ、失ってはいけない時間に勇気をもってボールを持つ能力が発揮できるように周囲との意思疎通を図る。前への選択肢を増やし縦パスの意識を持ちながら周りをサポートをする。今のチームに足りていないことをピッチで体現し“いつ、どこで、誰が、そして自分が”の細部にまで意図を持ちプレー。その頭脳にはピッチでやるべきことが、明確に描かれているのだ。中盤で共演をする熊谷アンドリューはこう話す。

「工藤選手はリズムを生んでくれます。新たな攻撃の形を作れる可能性を感じますし、前線との連携も増えてくれば得点シーンも増えると思っています」

 ただ、時間は止まってはくれない。25試合を終えて16位に沈むチームにとって、上位進出を目指すための厳しい夏場の戦いは続いていく。工藤は「僕は勝つためにここに来ましたし、覚悟を持ってやっていくだけです。失うものは何もありません」と偽らざる本音を口にする。上を見続ける気持ちは失っていない。他チームの動向はあるにせよ、昇格は物理的に不可能な訳ではない。諦めたらそこで終わる。大事なのは成功のための努力を惜しまないことだ。

 積み重ねた経験は熟成度を増している。8月に34歳を迎える工藤の最大のミッションは始まったばかりだ。

文=石田達也

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