2018.06.11

【ライターコラムfrom清水】祝・結婚! 育成組織出身の期待の星・石毛秀樹の中で起こった意識改革

岡山での武者修行を経てチームの主軸に成長した石毛 [写真]=J.LEAGUE
スポーツ専門誌の編集者を経て、95年からフリーのスポーツライターに。静岡に拠点を置き、県内のチームを中心に取材を行っている。

 今季の清水エスパルスにはうれしいサプライズを提供してくれた選手が何人もいる。本コラムで取り上げた立田悠悟金子翔太も同様だが、地元サポーターの中には、ファジアーノ岡山での武者修行から帰ってきた石毛秀樹の成長ぶりを最も喜んでいる人も多い。

 石毛は高校2年時に出場した2011年のU-17ワールドカップ・メキシコ大会において、日本の攻撃の核としてベスト8進出に貢献。同年のアジア年間最優秀ユース選手賞を受賞して全国的に知られる存在となった。

 静岡県富士市で生まれ、ジュニアユースから清水の下部組織で育った石毛は、高3になる直前の2012年3月にプロ契約を締結。直後の4月4日に新潟とのナビスコカップ(現ルヴァンカップ)で公式戦初出場を果たし、市川大祐が保持していたクラブ最年少出場記録を14年ぶりに更新した。

 その年は高校生ながらリーグ戦16試合、ナビスコ杯9試合に出場し、ナビスコ杯では史上最年少でニューヒーロー賞を受賞。今季の石毛のキャッチフレーズは「王国の誇り 日本の夢」だが、まさに清水ユースの誇りと言える期待の超新星だった。

 だが、その後は期待どおりの成長を見せることはできなかった。高校を卒業してサッカーに専念できるようになった2013年こそリーグ戦32試合(2得点)、ナビスコ杯6試合(2得点)と当時の指揮官アフシン・ゴトビに重用されたが、その後はユース時代ほどの輝きを見せることができず、3年目、4年目は出場数も徐々に少なくなっていった。J2が舞台となった2016年には23試合に出場してJ1復帰に貢献したが、5年目もレギュラーポジションをつかめたわけではなかった。そして2017年に岡山(J2)への期限付き移籍を決断し、初めて清水を離れることになった。

岡山では32試合の出場で2得点を挙げた [写真]=J.LEAGUE

 そして、岡山での武者修行を経て清水に帰ってきた今季。石毛の言葉や行動は、以前とは大きく異なるものになっていた。

「岡山に行っても最初の11試合ぐらい(先発で)は出られなかった。そして初めはそれを受け入れられない自分がいたんです。技術面では十分通用していると思っていたから。でも、テツさん(長澤徹監督)には技術以上に“走る”、“闘う”ということをすごく言われた。『とは言っても…』と思っていましたけど、ここで試合に出られなかったらそのまま消えていくというのは自分でも分かっていたから、本当にヤバいなと……。もちろん使ってもらえればやれる自信はあったし、やるしかないなと。そこで変なプライドのようなものを捨てて、必死に走るということができたのは大きかったと思います」

 自分の中で考え方を切り換えられたことによって、見えてきたものは多かったと振り返る。

「岡山にはJFL時代からいる選手もいて、本当にハングリーで、サッカーに賭ける想いの強さというのをすごく感じました。みんな時間も労力も惜しむことなく、自分の体をすごく大切にする。それに比べて自分はサッカーと向き合う姿勢に甘さがあったなと。エスパルスの環境は本当に素晴らしいんですが、そこに甘えていたことに気づかせてもらいました。もう一度初心に返って、サッカーに対してもっと真摯に向き合わないといけないというのをすごく感じました」

 自分自身を見つめ直し、サッカーに取り組む姿勢が大きく変わると、岡山でレギュラーポジションを獲得。中心選手として存分に活躍したことでプレーの面で得たものも多かった。

「走る、闘うという根本のところを1年間厳しく言われ続けた。練習もすごくハードでしたし、体のケアも以前より意識するようになった。そうしたら、今まで出なかった“一歩”が出るようになったんです。その一歩の差で、ボールを取られない、ボールを奪えるという違いがすごく出てくるので、それを実感できたのは大きかったと思います。その上で自分の技術や持ち味を出せれば、良い選手になれるのかなと感じられたし、自分が大きくなるヒントを得られた。そういう意味でも、(岡山に)行って本当に良かったなと思っています」

 プロのシビアな世界では、一歩の差が非常に大きな違いを生む。もともと機動力や運動量は石毛の持ち味だったが、今季はその“一歩の差”を毎試合表現し続けている。献身的なハードワークがヤン・ヨンソン監督のサッカーとマッチし、ケガで休んだ2試合を除く13試合に左MFとして出場(うち先発は12試合)。得点こそミドルシュートによる1点のみだが、アシストやその一つ前のプレーで多くのゴールに絡んでいる。

 相手の守備ブロックの隙間でボールを受けて攻撃の起点となるプレーも、以前にも増して磨きがかかっている。「岡山では自分がボールを失ったら攻撃にならない。だから簡単にボールを失わないという責任感を感じながらプレーしていました。でも、だからと言って守りに入るのではなく、攻めの姿勢は持ちながら、前を向くところは向く。それでもボールを失わないという部分は1年間で成長できたと思います」

 今季の石毛を観ていて“軽いプレー”が少なくなったと感じている清水サポーターは多いのではないだろうか。

清水に復帰した今季は左MFのレギュラーに定着 [写真]=J.LEAGUE

 リーグが中断期間に入った今、石毛は現状に満足することなくさらに意欲や危機感を高めている。

「開幕スタメンを一つの目標として帰ってきたので、そこは良かったですし、個人としてはイメージしていたものに近い形で15試合を終えることができたと思います。ただ、全試合出るという目標があった中でケガをしたのは残念ですし、途中交代が多いという悔しさもある。再開後は90分出られるようにもっと力をつけたい。もちろん、今まで以上にポジション争いが厳しくなるのは分かっていますが、練習から細かいところまで手を抜かないという去年からやり続けていることを継続して、一つひとつの精度を上げていきたい。ミスを減らして、プラスアルファの部分を加えていきたいです」

 現在はケガで出遅れていた10番の白崎凌兵が調子を上げてきている。先発の座をつかむのはこれまで以上に難しくなるだろう。だが、それでも先発で出続けた上で、さらに途中でベンチに下げられないだけの力をつける。それができれば、「ワールドカップが終われば代表にも新しい選手が呼ばれると思うので、その時に名前が挙がるように」という新たな目標にも近づいていけるだろう。

 プロ生活は早くも7年目だが、まだ23歳。清水の育成組織が誇る逸材は、まだまだ大きな伸びしろを残している。多少時間がかかった感はある。それでも、石毛の覚醒が本物であることを確信した清水のサポーターや関係者は、それに大きな喜びと安堵を抱いている。

文=前島芳雄

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