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【ライターコラムfrom熊本】地震から2年…復興支援マッチに臨む巻誠一郎が思う「プロチームがある意味」

2018.04.13

記者会見に出席した巻誠一郎(左)と佐藤昭大 [写真]=井芹貴志

 J2で迎える11年目のシーズン、ロアッソ熊本は8試合を終えて4勝1分3敗、勝点13の6位だ。過去10年における開幕から第8節まで(※東日本大震災が発生した2011年は第1節と第8~14節の8試合)の成績をリーグ戦と同じように勝点、得失点差、得点という項目で比べてみると、今シーズンの数字は上から4番目の成績になる。

 最高は高木琢也監督(現V・ファーレン長崎)体制2年目の11年で、4勝3分1敗の勝点15(20チーム中6位)。2番目が高木監督体制1年目の10年(4勝2分2敗/勝点14/19チーム中5位)、そして3番目にあたるのが、清川浩行監督(現ザスパクサツ群馬強化担当)体制1年目の16年(4勝1分2敗/勝点13/22チーム中7位)となっている。16年は第6節、第7節で初の連敗を喫したあと、第8節の直前に熊本地震が発生。変則日程となったため他チームより1試合少ない状況での数字ながら、開幕3連勝を含む5戦負けなしなど、スタートダッシュに成功していた。


 それらと比べれば今年の数字が突出しているわけではない。しかし大きく違うのが得点だ。第7節アルビレックス新潟戦、第8節FC町田ゼルビア戦で連続ゴールを挙げたFW安柄俊が4得点、今季サンフレッチェ広島から期限付き移籍で加入したFW皆川佑介が3点、そして右サイドで強みを発揮しているMF田中達也が2得点を記録。第6節栃木SC戦を除けば毎試合ゴールが生まれており、ここまでリーグ3位タイの13得点と、点が取れていることが好調の要因の1つとなっている。

安柄俊

今季、ここまでチームトップスコアラーの安柄俊(右) ©J.LEAGUE

 一方で失点も多いが、大部分はセットプレー、あるいはビルドアップ段階のボールロストに起因するもの。就任1年目の渋谷洋樹監督は、選手の特徴を生かすべく3-5-2のフォーメーションを採用。自陣からボールを動かしてゲームを組み立て、相手の背後やサイドのスペースを生かしてチャンスを作る形を志向しているが、なかでも重視するのは選手同士の距離感やポジショニングだ。

 新加入で最終ライン中央でプレーする青木剛は、「組み立てで同じ絵を描けて共有できたときは、良い形になっている。前線がいい動き出しをしてくれるので、それに合わせて迷いなくボールを出せるし、連動、連携が良くなっている」と言い、またここまで左ウイングバックで出場している黒木晃平も、「決まり事がはっきりしていて、姿が見えなくても走ってくることをイメージできたり、こういう形になったらこう動くとか、迷いなくプレーできている。ウイングバックとしては3-5-2のシステムはやりやすい」と手応えを口にする。今後の浮上には失点を減らすことが不可欠で、終盤に追いつかれた町田戦の反省も踏まえ、ゲームの終わらせ方をチームとして身につけることが求められるが、昨季21位に終わったことを思えば、チーム作りは順調に進んでいると言えるだろう。
 
 そうしたなかで臨む15日の第9節は、開幕から無敗の東京ヴェルディをホームに迎える。勝ち点差が1で、勝てば順位も入れ替わる反面、敗れると7位以下の集団に飲み込まれる可能性もある重要なゲーム。くわえて、熊本地震から2年の日に行われる地元での試合という意味でも、熊本にとっては特別な一戦だ。

 クラブはこのゲームを「復興支援マッチ」と銘打ち、試合前には熊本のスクールコーチと原博実Jリーグ副理事長らによるサッカー教室のほか、熊本に在籍したOBらによる前座試合、熊本県出身の歌手・八代亜紀さんのスペシャルライブ、さらにコンコースでは熊本地震の写真展、先述したサッカー教室と前座試合出場者による握手会と募金活動などを実施。また、県内24の市町村在住の県民と、益城町のテクノ仮設団地で避難生活を送っている被災者を招待する予定となっている。

熊本地震後、最初のホームゲームは日立柏サッカー場での開催だった ©J.LEAGUE

 奇しくも同日、プロバスケットボールリーグB2の熊本ヴォルターズもホームゲームを行うため、両チームの選手会が手を取り合い、この日の試合を復興支援マッチとして行う旨を今月2日に熊本県庁での記者会見にて発表した。その席で、熊本地震発生直後から様々な形で支援活動に取り組んできた巻誠一郎は次のように話した。

「熊本地震で僕らもプレーできない環境の中、県民の皆さんと寄り添いながら、ともに熊本を盛り上げようと活動してきましたが、皆さんに支えられて、いまプレーできていると思っています。なので今度は、たくさんの方が来てくれる前で元気を発信して、みんなで盛り上がれるような空間を作りたい。今回だけで終わるのではなく、ここからみんなで前に進むエンジンになるような、そういう試合にしたいと思っています」

「地震にはネガティブな印象がありますが、それでも熊本にプロスポーツチームがある意味はすごく大きかったんじゃないかと思います。全国のいろんなスポーツファンの人に、自分たちの姿を通して熊本の現状を知ってもらえた。熊本の子供達には、ロアッソ熊本や熊本ヴォルターズを目指してプレーしてもらいたいですし、それだけでなく、県民の皆さんの心の拠り所にしてもらえるような、そういうプレーができたらと思っています」

 地震発生以降、選手たちは支援活動にも取り組みながら、「地元に元気を」との思いでリーグ戦に臨んできたが、残念ながら昨年、一昨年はそうした結果を残せなかった。しかし今シーズン、プレーオフ進出の可能性が高い熊本ヴォルターズとともに、地元に明るい話題を届けることができている。

「地震の時に全国からいただいた支援への感謝の気持ちを胸に全力でプレーすること、そして、勝って、喜びをスタジアムで皆さんと分かち合う。それだけを目指して戦いたい」

 前述の記者会見で、主将を務めるGK佐藤昭大はそう述べて前を向いた。

 今季、声援が力となるホームでは3勝1敗と好調。今節は多くの来場者が見込まれ、多数の声援が選手たちの背中を押す。その思いに応えて結果を出すことで、復興に向けて進む地元にエネルギーを還元し続けていきたい。

取材・文=井芹貴志

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