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【ライターコラムfrom水戸】長谷部監督が仕掛けた驚きの“可変システム”…「選手の長所を最大限に生かす」試みとは?

2018.03.30

水戸が見せた新たな試みとは? [写真]=J.LEAGUE

 3月21日に開催された明治安田生命J2リーグ第5節の大分トリニータ戦、4-4-2システムで臨んだ水戸ホーリーホックだったが、3-4-2-1システムの大分にギャップをうまく使われ、プレスをはめることができず、スピーディーなパスワークに翻弄される展開を強いられた。10分と24分に守備を崩されて失点。29分に1点を返すものの、流れを変えることができないまま前半を終えた。

 後半に向け、どう修正してくるだろうか。記者席から長谷部茂利監督の采配を注目して見ていたが、恥ずかしながら水戸の中盤で何が起きているのか分からなかった。ポイントは前半ダブルボランチの一角として出場していたMF白井永地の動きだ。自陣で守備をする際、右サイドの深い位置まで戻って相手のウイングバックのケアをしていた。それゆえ、システムを3バックに変更したのかと思いきや、ボールを奪うと白井は勢いよく中央に走り込んでいく。中盤をダイヤモンドにして、白井が右MFに入ったのかとも考えたが、その場合、右MFだった黒川淳史がトップ下の位置でプレーするはず。しかし、攻撃になると、2人は交差するように黒川は右へ、白井は中央に入っていく。一体どんなシステムなのか。ノートに書いては消して、書いては消して…を繰り返していた。


 守備では相手の1トップ2シャドーとウイングバックをマッチアップさせ、大分の攻撃を潰すことができていた。そして攻撃では、中盤が流動的に動いて大分に守備の的を絞らせず、押し込む展開を築くことができていた。5バック気味で守備を固める相手からいかに点を取るかという展開に持ち込んでいたものの、63分にDFのミスから失点して、万事休した。

水戸

負けはしたものの、新たな可能性を垣間見せた [写真]=J.LEAGUE

 試合に負けたのだから、長谷部監督の采配が的中したというわけではない。ただ、可変システムへの変更が後半一方的に攻める展開に持ち込んだ要因となっていたことは間違いない。「うまくいっていたと思います」と長谷部監督も手ごたえを感じていたようだ。果たしてどんな変化を加えたのか。試合後、選手に話を聞くと、驚かざるを得なかった。なんと、攻撃と守備で2つのシステムを使い分けていたというのだ。

 攻撃時は前半と同様の4-4-2。守備時はボランチの白井が最終ラインではなく、右のウイングバックに入り、右サイドバックの佐藤祥が3バックの右サイドに入る3-5-2へ変化させるシステムを採用したのだ。たとえば、攻撃時にダブルボランチの1人がセンターバックの間に入って、3バックになるという変化はよく見るが、攻撃と守備でシステムを変えて、さらに守備時にボランチの1人が右サイドに出る形を見るのははじめてのこと。どうりで分からないはずだ。

 仰天の可変システムはあくまで長谷部監督の頭の中にあったプランであり、練習で試したことはなかったという。ハーフタイムに選手たちにアイディアを伝え、「できるか?」と聞いたところ、「できる」と答えたことによって決断を下したそうだ。どうしてそんなアイデアが出てきたのか。海外のチームなどで採用していたチームがあったのだろうか。長谷部監督に聞いてみると、軽い笑みを浮かべてこう答えた。

「今までやったチームはないんじゃないですか。誰かのマネをするのは簡単です。でも、マネをしたところで、ウチには同じ選手はいないわけで。いい悪いではなく。なので、大分戦において、佐藤祥と白井永地がどれぐらいのことができるかを考えた時に、ああいうプレーができるんじゃないかと思ってやってみました」

 もちろん、戦術やシステムは重要だ。ただ、それよりも大事なのは、チームにいる選手の長所を最大限に発揮させること。そのために戦術やシステムを考える。「それが監督の仕事」と長谷部監督は言いきる。選手同士の長所が共鳴し合い、相手を上回るパワーを見せる。それこそが長谷部監督の目指すチームだ。

 かつてないほどのスタートダッシュを切った水戸。これからも選手の長所を最大限に発揮させながら、上昇気流に乗り続けていく。

文=佐藤拓也

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