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【ライターコラムfrom川崎】沖縄のヒーロー・我那覇和樹のチャントを引き継いだ“万能型ストライカー”知念慶

2018.03.09

知念は開幕からリーグ戦2試合連続でスタメン出場している [写真]=Getty Images

 今季のJリーグ開幕戦であるジュビロ磐田戦。前年度のチャンピオンである川崎フロンターレのスターティングメンバーには、ちょっとしたサプライズがあった。

 そこに、2年目を迎えるFW・知念慶が先発に名を連ねていたのである。去年の初優勝を果たした川崎フロンターレの攻撃陣の中心といえば、小林悠、中村憲剛、家長昭博、阿部浩之の前線のカルテットだ。今年は、そこに大久保嘉人がFC東京から帰還。さらに横浜F・マリノスから齋藤学も加入している。齋藤が戦列に復帰するまでのシーズン序盤は、この5人の組み合わせが前線の中心になるというのが大方の見方だった。


 実際、試合前々日に行った紅白戦で主力組に入っていたのは大久保である。知念が主力組に入ったのは、紅白戦の3本目になってから。途中出場した数日前のアジアチャンピオンズリーグ・蔚山現代戦でゴールを決めていることから出場の可能性はあったが、先発ではなくジョーカーとしての役割を担うと思われていた。

 しかし試合前日、主力組に入っていたのは知念だった。愛知学院大学から昨年加入したこのストライカーは、リーグ戦のスタメン経験はなし。前日練習を終えて取材に応じると、「ちょっと驚いてます」と素直な感想を述べ、「スタートで出るとしたら自分はJリーグ初スタメンなので、慣れない部分もあるかもしれないですね。準備のところ、試合の入り方も含めて未知数なところがあります」と、期待と不安が半分ずつ入り混じった表情で話していた。

 ただ、その起用は理にかなったものでもあった。速さと高さ、そして強さも備えている知念は、万能型FWと評される。開幕戦の相手であるジュビロ磐田の守備陣は、昨年リーグ最少失点を誇り、高いディフェンスラインを保つことも特徴の一つである。ワントップに入った知念は、スピードを生かして、磐田守備陣のハイラインの背後を突く揺さぶりを続けた。

「監督からは『思い切ってやってこい』と言われていました。(体力は)いけるところまでいこうと。味方と話しながら、自分がどういうことをやるかは、自分で考えながらやっていました。相手がしっかりとブロックを組んできたので、自分は(前線から)落ちすぎず、深みを作って入っていけるようにスペースを作ることを意識していました」(知念)

知念慶

ジュビロ戦後は「思っていたよりもやれた」と手応えを口にしていた [写真]=J.LEAGUE PHOTOS

 相手の背後を執拗に狙うことで相手陣形を下げるという作業をこなしつつ、裏狙い一辺倒ではなく、高さと強さも生かし、足元で受けるポストワークで肉弾戦も行う。マッチアップしていた大井健太郎は、明らかに手を焼いていていた印象だった。試合後の中村憲も、知念の起用が効果的だったことを口にする。

「知念は身体が強いし、スピードもあるので裏に抜けることができる。磐田は最終ラインを高めに設定するので、彼が走ることで下げさせる。そこに知念がうってつけの人材だった。3点目も彼の飛び出しからファウルをもらった。ユウ(小林悠)と知念、アキ(家長昭博)もそうだが、飛び出せる選手がいる。多ければ多いほど、ハイラインには効く。二つ、裏に出すボールがあるので、相手からすると的を絞りにくかったと思う」

 最前線に知念という存在が加わった効果で、攻撃で持ち味を発揮した選手がいる。小林だ。中央でのエアバトル全般を知念が行うことで、右サイドに配置された小林の持ち味である「裏に抜ける動き」が生きてきた。

「前までは僕が身体を張って、ゴールキックにヘディングを競っていた。今回は知念が競って、自分がサイドからナナメに走ることで、知念のヘディングからひっくり返せる。これまではゴールキックを跳ね返されて相手の時間が多かったけど、今日はそこだけでも全然違いましたね。背後に抜ける動きもあったし、躍動感があった。攻撃に迫力も出せて良い場面もたくさん出せたと思います」(小林)

 開幕戦は3-0で勝利を収めた。知念は続く第2節湘南ベルマーレ戦でも先発スタメン。アンドレ・バイアとの駆け引きを繰り返しながら、最前線で身体を張り続けた。家長からのクロスに小林が頭で決めた得点シーンは、知念がバイアを引きつけたことで、小林のスペースを作っている形だった。

知念慶

攻守において、セットプレーでは高さと強さを発揮 [写真]=J.LEAGUE PHOTOS

 そしてこの試合から知念のチャントが披露された。アントニオ猪木のテーマ「炎のファイター」を原曲にしたこのチャントは、沖縄の大先輩でもあるストライカー・我那覇和樹(現カマタマーレ讃岐)が川崎フロンターレに所属していた時代に歌われていたものでもある。それを知念が引き継ぐことになったのだ。

 そのプレースタイルも相まって、知念は我那覇と重ねられることが多い。昨年の加入当初も、鬼木達監督が「(我那覇に)タイプ的には似てますね。体が強くてパンチ力がある。ただ、どうだろう。僕の感じでは、もっとできそうかな。いろんなことを覚えていけば、まだまだポテンシャルはある」と評していたほどである。

 実は知念自身も、クラブの公式ホームページでの「あなたにとってのヒーロー」という質問に、「我那覇和樹」と回答している。チャントを引き継ぐにあたって、あらためて我那覇という存在について彼に尋ねてみた。

「沖縄出身のサッカー選手自体が少なくて、サッカーを始めて物心をついたぐらいに我那覇選手が日本代表になったんですね。沖縄から日本代表になるなんてすごいなって。シンプルにそう思ったんですね。沖縄からなかなか全国に活躍する人が少なかったので」

 そして我那覇から継いだチャントを、「自分のものにしていかないと」と語る。今後が楽しみである。

文=いしかわごう

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