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【コラム】51歳前日の開幕戦は出番なし…苦境に立たされるカズ、出場機会を得る術は?

2018.02.26

「今日試合出れなかったんで、試合も勝てなかったんで、もう1つ盛り上がりのない51歳を迎えそうですね……」

 50代2度目のバースデーを1日後に控えたキング・カズは苦笑いしていた。


 2月25日にニッパツ三ッ沢球技場で行われた2018明治安田生命J2リーグ、横浜FC対松本山雅FCの開幕戦。この顔合わせは前年のJ2開幕カードと全く同じだったが、横浜FCの背番号11・三浦知良の姿はピッチ上になかった。1年前はスタメンの座を勝ち取り、自らの50歳の誕生日を盛大に祝うべく躍動した彼だが、今回はベンチスタート。0-0の拮抗した展開が続く中、出番が訪れるのを今か今かと待ちわびていた。

 しかしながら、ブラジル人のタヴァレス監督はテクニカルエリアでじっくり構えて動かない。90分に差し掛かろうという時にようやく最初の交代に踏み切ったが、投入したのは11番ではなく、今季、FC町田ゼルビアから加わった9番の戸島章だった。4分間のアディショナルタイムも瞬く間に過ぎ、交代枠を2枚も残したままタイムアップの笛が鳴り響く。結果はスコアレスドロー。大ベテランの新シーズン初出場は次節以降にお預けとなった。

横浜FC

カズに出番は訪れず、チームも引き分けスタートとなった [写真]=J.LEAGUE

「自分としても、開幕戦に出れないっていうのは、試合の結果以上に悔しいものがありますね。それは今日出れなかった選手全員そうだと思います。この引き分けという結果もそうですし、自分たちが開幕戦に出れなかった悔しさを活力にして、次節に勝利できるように次に向けて準備したいなと思います」と彼は自分に言い聞かせるようにこう言った。

 とはいえ、現指揮官が就任した昨年10月28日の京都サンガF.C.戦以降、カズがピッチに立ったのは、11月5日のロアッソ熊本戦の1分間と、11月19日のジェフユナイテッド千葉戦のラスト16分間の合計17分のみ。今季は長身FW戸島も加入し、ベテランFWを取り巻く環境はこれまで以上に厳しくなっている。

 加えて言うと、今回の横浜FCのフォーメーションは「4-2-3-1」。1トップ・イバの背後に佐藤謙介が位置する形で戦っていて、チームは想像以上に機能していた。カズがイバと同じ1トップに入るとは考えにくいし、2列目のトップ下やサイドも本職ではない。だが、ブラジル人監督は彼に中盤の組み立てや球出しの仕事を求めている様子。それをこなさなければ、試合に出られないのが実情のようだ。

「今日の試合を外から見ていて、序盤の15分から20分くらいは硬かったですけど、その後は1つ形ができるようにはなりましたし、ボールも少しずつ動くようになってチャンスも前半から何度か作れるようになっていた。その中で自分も中盤の役割だったり、ペナルティエリアの中で結果を出せるようにしたいと思います」と、背番号11はタヴァレス監督から求められる新たな仕事をこなすべく積極果敢にアタックしていくつもりのようだ。

三浦知良

開幕戦は90分間をベンチで過ごした [写真]=J.LEAGUE

 そうやって年齢に関係なく、自分をつねに変化させ、向上させようと最大限の努力を払えるのが、キングと呼ばれる男の傑出したところ。フィジカル強化1つ取ってみても、今の年齢になれば10代や20代選手ほどの爆発的なレベルアップは難しい。それでも「Jリーグで一番走れる選手」とリスペクトする田中隼磨(松本)を伴ってオフ期間にグアムへ行き、凄まじい走り込みを行っている。「カズさんのホントに姿勢は素晴らしかった」と田中も驚き半分に語っていたが、トレーニングパートナーを変えることで新たに見えた部分は少なからずあっただろう。

 欧州4カ国・8クラブを渡り歩いた松井大輔と18年ぶりにチームメートになったことで得たものもあったのではないか。中盤の組み立てやリズムを作るプレーは希代のテクニシャンが得意とする部分。彼の動きをヒントにしながら、自身の器を広げる試みを日々、精力的に行っているに違いない。

 こうやってプレーヤーとしての幅を増やしながら、最大の武器であるフィニッシュに磨きをかけ、ゴールという結果をより残せるようになっていけば、タヴァレス監督もこの50代プレーヤーをピッチに送り出そうと真剣に考え始めるはずだ。2006年に横浜FCへ移籍してきてから今季で13年目を迎えるが、これまでも試合に出られない時期は繰り返しあった。その現実から目を背けることなく、自分の足りない部分を補う作業を地道に行ってきたからこそ、カズは今も現役を続けていられるのだろう。

 50歳14日だった昨年3月12日のザスパクサツ群馬戦で決めたゴールにより、彼は「リーグ戦で得点を決めた最年長のプロサッカー選手」としてギネス世界記録に認定されたばかり。本人は「すぐ破られる記録」と更新への意欲を示しているだけに、51歳になるレジェンドはどのタイミングで今季初出場を果たすのか、次のゴールをいつ奪うのかは非常に興味深いところ。彼の一挙手一投足を日本のみならず、世界中のサッカーファンが見守っている。

文=元川悦子

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